猫少女と。
タコ
第1話
彼女との出会い。
それは、とある冬に雨が降った日の事だった。
冬だというのにも関わらず、雪は降る気配を見せない。
最高気温は十度を切っている。
そんな中で、薄汚れた猫が震えていた。小さなダンボールからはみ出して。
そいつは鳴いて俺に呼び掛けているように思えた。
黒い毛を身にまとったその小さな体は今にも息を断ってしまいそうだった。
「お前、捨てられたのか?」
と声をかけるが、当然猫に言葉は伝わるわけがない。
しかし、ニャーと発せられたその弱気な声に俺は少し悲しくなった。
「寒いだろ?ウチ来いよ」
すぐさま首に巻いたマフラーを猫に被せる。
少しでも暖かく、凍え死なないように。
「少しの我慢だ」
そう言って俺は足を速めた。
「ただいまー、猫拾ってきた」
家に帰ると、汚れた体を洗うために風呂場へと向かった。
「私は世話しないわよ。でどうするの、飼うの?」
「ま、少しは。母さん、俺の魚を小皿に置いといてくれ」
「お父さんに怒られても知らないわよ」
「わかってるって」
そう言いながら、猫の体を洗う準備を始める。
「そのままじーっとしてろよ」
いつも風呂場に常備された
蛇口をひねり、お湯を盥に入れる。猫は抵抗することはなかった。
「よーし、いい子だ」
猫用のシャンプーはないので、手に取ったリンスで小さな体を泡を立てる。
普段使っているシャンプーは猫には合わないらしい。
「こんなにも汚れて、辛かっただろう?」
泡で覆った体を洗い流し、バスタオルで拭く。
「まぁ、こんなものか」
そういいながらリビングに向かう。
「ほら、食え。食って元気になるんだぞ」
小さな容器の上には焼き魚が置かれていた。
しかも食べやすいように骨がとれている。俺が食べる時はそんなことしないのに。
「どうだ?母さんの飯は美味いだろ?」
「にゃー」
どうやら相当腹ペコだったようだ。
「そうか、それはよかった」
「名前、どうするのよ?」
「そのうち決めるって」
というか母さん、飼いたい気持ちが出ちゃってるよ・・・
と思いつつ、寝室に入る。
「一緒に毛布に入って温まるか?」
「にゃぁ」
どうやらこの数時間で俺に懐いたらしい。
母の言った言葉を思い出す。
―名前、どうすんのよ?
「名前、か・・・」
こういうのは呼びやすいのがいいのだろう。
そうだな、第一印象が黒かったから・・・
「おやすみ、クロ」
俺は黒猫の新しい名を呼んでやった。ありきたりでシンプルな名前。
「ニャー」
だけどコイツは気に入ってくれたようだった。
***
体が寒い。ふと、夢から覚めた時思った。
脳が回らないまま毛布を被ろうと手探る。
すると、何か柔らかい感触が手に触れた。
反射的に目を開けると、猫耳の少女は僕の毛布を取って寝ていた。
ん?猫耳の少女?
「・・・え?」
「・・・にゃ?」
見知らぬ猫耳を付けた美少女が俺の隣で寝てただと!?
じゃなくて・・・俺は今、夢を見ている。
きっと疲れているのだろう。そう思いたい。
「おはよにゃ」
「おはよ・・・じゃなくて」
いや、確かに今は深夜2時を過ぎている。これは、おはように入るのか?
という考えと共に目が覚めていく。
「ちょ、ちょっと待て」
「どうしたにゃ?」
だが口調が猫で、髪と耳と尻尾が黒であることからクロと判断する。
もちろん昨日まではただの黒い猫だったわけだ。
それが少女になったという事は・・・
―つまり彼女は今、裸なのである。
毛布に包まれた裸の猫耳少女と二人、同じ屋根の下のベットで寝てた。
なんてこと知れたら俺の人生終わりだわ・・・
体を見ていないことをセーフと判断しすぐさま体制を変える。
「っ服、とりあえず服を着ろ!」
「お前、猫が好き好んで服を着るわけないにゃ?」
「あぁ~くそぉおおおお!」
当然だ。犬に服を着せて喜ぶはずないのと同じ理由だ。
「ちょっと来い」
「今度は何だにゃ?」
そう言って毛布を持たせたまま猫少女を洗面台に連れていく。
「自分の姿を見てみろ」
「・・・にゃ、にゃんだこの体はぁあああああああ?」
どうやら自分の変化にようやく気付いたらしい。
鏡を見ると、そこには身長140㎝くらいの猫耳と尻尾をはやした少女がいた。
「ウソ、オイラ・・・」
「これで判ったか?お前は・・・」
「めっちゃ可愛いじゃん!」
「そう、お前は可愛い・・・って違う、そうじゃないんだよおおおおお」
「・・・にゃ?」
猫少女と。 タコ @takotako0411
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