その6:明科さんち/あたしんち/河川敷
「ちょっと寄りたいところあるんだけど」
つつじ寿司を出てすぐ、明科さんが言った。
あたしが「どこに?」って答えようとしたのも束の間、「私んち」明科さんは言う。
あたしと明科さんは並んで歩き、明科さんちに向かっている。
つつじ寿司→明科さんち
明科さんちは、五階建ての結構良さげなマンションだった。
「ほえー」って言いながら、あたしは建物を見上げる。結構でかい。し、一戸一戸の間取りも広いっぽそう。あたしの家は築十五年くらいの一軒家で、別に四人暮らしで困ることはないくらいの広さだけど、でもやっぱりマンションって少し憧れる。なんだろう、都会って感じがする。別に、同じ街だけど。中学までの同級生とかも、マンションに住んでる子は珍しかった。みんなそれなりに古い一軒家だ。通学路を歩けばわかる通りに。
「広丘さんも上がってく?」
と訊かれれば断る理由も無い。あたしは「はーい!」なんて元気に答えながら、明科さんの後ろをひょこひょこついて行く。ロビー? エントランス? みたいなところ。明科さんはポケットからキーケースを取り出し、オートロック? の機械に差し込めば自動ドアが開く。別に普通に明科さんはてくてく中に入る。あたしには珍しいものばかりだから、ついついキョロキョロあちこち眺めてしまう。清潔そうな場所。管理人さんがいるっぽい受付には透明人間。「ドア閉まるよ」明科さんがひょいひょい手招きしてくれる。あたしは慌てて明科さんの背中についていく。
螺旋階段をぐるぐる上って、三階。その角部屋。この階に部屋が何戸あるのかわからないけど、角部屋だから結構イイ感じっぽい。明科さんは鍵を開けて家に上がる。「いらっしゃい」って言いながら、ドアを開けててくれる。「お邪魔しま~す!」って、あたしは玄関に上がる。おうちのひとにも聞こえるように言って、その必要が無かったことに気付く。あたしは友だちの家に遊びに行く経験もちょっとしかなかったから、ドラマとかマンガとかで見た作法を真似したのが裏目に出た。明科さんは気にした様子もなくローファーを脱いでいる。あたしも脱ぐ。きっちり揃えて(これはたぶんマナー)、明科さんの後ろにぺたぺたついていく。リビングへ。ガチャリと扉を開ける明科さん。
なんか、めっちゃ明科さんっぽい感じのリビングだった。
めっちゃ整理整頓されてる。めっちゃ物が少ない。めっちゃ綺麗なシステムキッチン。あんまり料理してなさそうって思ってしまうくらいには綺麗。四人掛けのオシャレなテーブル。ああいうテーブルってめっちゃ物置いちゃいがちなのに、リモコンくらいしか置かれてない。めっちゃでかい液晶? プラズマ? テレビと、四人くらい座れそうなオシャレな皮のソファ。綺麗にクッションが置かれてる。なんだろう……モデルルームみたいって思った。モデルルーム行ったことないけど。
「テレビでも観てて」
って言いながら、明科さんはあたしにコーヒーが注がれたマグカップを渡して、ソファを指さす。あたしは今更になって緊張してきて、こくこく頷きながらコーヒーをこぼさないように気を付けながらソファに向かう。カップどこに置こうって思って何かに躓いた。「あいたー!」ちっちゃいテーブルがテレビとソファの間にあった。軽く臑をぶつけるくらい低くて機能性に乏しいやつ。コーヒーは……こぼしてなし! あたしはそこにカップを置いて、キッチン前のテーブルからリモコンを取ってくる。なんかめっちゃカラフルでボタンがいっぱいあるリモコン。これはもしや地デジに対応してるテレビなんだろうか。うちのはまだでっかい箱みたいなブラウン管テレビだ。もちろん地デジ未対応。とりあえず電源ボタンを押してみる。ザーーーー。砂嵐。チャンネルを変えてみる。ザーーザーーザーーザーー。どこも砂嵐。あたしはテレビの電源を切ってリモコンを元通りに置く。ソファに座ってコーヒーを飲む。にがい! これブラックのコーヒーだ! って思って、あたしはブラックのコーヒー飲めないことを思い出した。でも、せっかく明科さんが煎れてくれたコーヒーなんだし……って思いながらちびちび飲んだ。明科さんはなかなか戻ってこない。あたしがようやく半分くらい飲んだところで、明科さんはリビングに戻ってきた。
「お待たせ」
明科さんはリュックを背負って、右手にはなんかでっかい黒いケースを持っている。
「え、何それ」
「ん? 着替えとか、なんか必要っぽそうな物とか」
明科さんは振り返って、リュックを見下ろす。
「違う違う。それ、手に持ってるやつ」
「え? これ?」手に持ってるケースを持ち上げる明科さん。「アコギ」
「アコギ?」
「アコースティックギター」
「ギター!」
あたしはどうしてギターなんて持ってるんだろうって疑問より先に、ギターなんてちゃんと見るの初めてかも! って思ってちょっとテンションが上がる。選択科目は美術だったから、アコギに触ったことなど一度も無かった。
「さて、じゃあ私の荷物はこれでオッケー。次は広丘さんちに行こう」
そう言って明科さんはリビングから出て行こうとする。「バールみたいなやつはさすがにいらないっしょー」とか言ってるけど、あたしは咄嗟に理解出来ない。
「え、あたしの荷物って?」
明科さんはあたしの言葉に立ち止まって振り返る。
「着替えとか、大事にしてるもんとか」
「え、なんで?」
あたしには明科さんの言ってることがイマイチわからない。
「出ようよ、この街」
明科さんは当然のことみたいに言った。あたしは目を丸くする。
「え、街出るの? 旅行はまだしないんじゃないの?」
「旅行はまだしないけど」明科さんはやっぱり普通のことみたいに言う。「せっかくだから別の街に行こうよ。なんか未練たらしいじゃん、この街に留まってるのも」
明科さんの言うことはもっともなように聞こえる。でも。
「急、だね。なんかそういうの、もうちょっと話し合うのかと思ってた」
「だって広丘さんは、さっき私の提案なんて聞いてくれなかった」
そう言われてしまえば、あたしには何も言い返せない。明科さんはちょっと意地悪っぽい顔してる。「じゃ、そういうことだから」って、リビングから出て行こうとする。あたしはその背中に呼び掛ける。「明科さーん!」「なにー」「コーヒーどうしよう!」「その辺置いといたらー」「え、だってまだ残ってる!」「知らなーい」あたしは一瞬だけ右往左往して、結局シンクに飲み残しを流して気持ち程度にゆすいで(テレビは映らないのに水道は普通に出た)カップはシンクに置いてどたばたリビングから飛び出した。明科さんは普通に玄関で待っててくれた。「戻らない家のことなんか知らないよ」って言われて、なんかちょっと引くくらいドライじゃない? って思ったけど、あたしは言わずに、別の疑問をぶつけた。
「そういえば誰もいないんだね」
「や」玄関から出ながら、明科さんは首を振る。「会ったとき言ったけどおかんが寝てる。夜勤の仕事があるから」
「え、じゃあお父さんは?」あたしはバカだから、訊いてから自分の迂闊さに気付く。そうじゃなくても、平日のこの時間なのに。
「おとんは女作って出てった。三年前かな」
明科さんは普通のことみたいに言って、あたしは反射的に「ごめん」って言う。
「なんで謝るの?」明科さんはきょとんとした顔で訊く。
「え、だって、デリカシー無くて……」あたしは俯いて答える。
「別に良いよ。別に、普通によくある話でしょ」明科さんは平然と言う。
「そう、なのかな……」あたしにはホントにわからなくて、曖昧に答えるしかない。
「普通によくある話だよ。このマンションに何世帯住んでるかわからないけど、そのほとんどの世帯は、どこかしら機能不全起こしてるはずでしょ。同居してたって別居してたって。違う環境で育ってきた人間が一緒に暮らしてるんだから、いずれはそうなっても変じゃないでしょ。子どもが独り立ちするまで待てるか待てないかの話で、魔が差してしまうか差してしまわないかの違い。おとんは魔が差した。私が成人するまで待てなかった。それだけの話」
明科さんは、本当に普通のことみたいに、そう言った。
あたしはなんて答えて良いかわからなくて、「そっか」としか言えない。明科さんは「そうだよ」って答える。「それに、もうおとんともおかんとも喋れないんだから関係無いよ」なんて、やっぱりどうでも良さそうに言う。それってホントに関係無いことなのかなって思うけど、ホントに関係無いことは言うまでもない。関われないひととのことを考えたって、この世界ではたぶん、本当に意味が無い。でも、家族ってその程度のものなのかなって、あたしは思ってしまう。そんな他人行儀に言えてしまうものなんだろうか。もちろん、あたしの家だって、明科さんが言うところの機能不全ってやつを、起こしてないとは言えないけど。
明科さんはガチャガチャって鍵を掛けて、その鍵をポケットに仕舞う。
本当にどうでも良いなら施錠して鍵を持っていったりしないんじゃないかな、とは、さすがのあたしでも言えなかった。
明科さんち→あたしんち
明科さんちとあたしんち(なんかこんな名前のアニメやってた気がする)はそんなに離れてなかった。線路に沿って、駅向かいに北と南、歩いて二十分くらい。明科さんちは北。あたしんちは南。でもギリギリ学区が違ってたみたいで、通う小学校とか中学校は違ったみたい。同じ街に住んでるのに、それだけで全然別の場所にいたみたいだと思った。あたしは明科さんちの近くにはあまり行ったことがなかった。
歩いていれば、どんどん見慣れた街並みになってくる。これから別の街に行くのに、こんなこと考えててどうするんだろうって、あたしは思った。あたしはこれから、ちゃんとやっていけるんだろうか。
あたしたちは黙って歩いている。隣の明科さんを窺う。明科さんはあたしの視線に気付いて「ん?」って首を傾げる。かわいい。違う、そうじゃない。あたしは慌てて視線を逸らして、俯いて歩く。なんか、ちょっと気まずい。たぶん、あたしだけがそう思ってる。他人のプライベートに土足で踏み込んでしまったから。明科さんは関係無いって言うかもだけど、あたしは自己嫌悪をやめられない。自己嫌悪して解決することなんか何も無いのに。このあたしの態度の方が、たぶん明科さんを不愉快な気分にさせるってわかってるのに。
あたしんちに辿り着く。
「じゃあちょっと待ってて」って言いながら玄関を閉めようとしたら、ガッてドアの隙間に足を突っ込まれた。「えっ」「私も上がる」「ちょっと」「私も上がる」明科さんは新聞の勧誘のひとみたいだった。あたしがびっくりしてる間に、もう明科さんはあたしんちに上がってる。「お邪魔しまっす!」そんな元気そうに! って思ってる間にダダダダダッて高速で階段を上る音が廊下に響いて、あたしは靴をぽいぽい脱いで慌ててその背中を追った。
「広丘さんの部屋汚い!」
時既にお寿司だった……。明科さんはあたしの真似っぽいアホっぽい感じにそう言って、あたしのベッドにドスンって座った。スプリングが死んでるからって言おうと思ったけど遅かった。明科さんは全然気にした様子も無くあたしの部屋をキョロキョロ眺めてる。二次元の半裸の女の子がキメキメのポーズをしたタペストリーをぺらぺらやってる。「広丘さん電ファイ好きなの?」って言われてあたしは「は?」って言っちゃう。
「電脳少女戦隊☆ファイナルプロローグ、電ファイ。この子はレッドの明実ちゃん」
「何それ」
「このタペストリー」
「それ、壁の穴塞いでるだけなんだけど」
明科さんはタペストリーをめくる。「ホントだ。でもなんで電ファイ」
「弟の部屋からパクってきた。それが一番ちょうど良い大きさだったから」
「プレミア付いてるタペストリーが穴を隠すためだけに使われるとは……」
「え、その電ファイ? って有名なの?」
「全然? でも最近ちょっと注目されてる。されてた」
あたしは明科さんが言ってることの半分も理解できなかった。
「じゃあ隣は弟くんの部屋?」
「うん」あたしが頷けば明科さんはもう部屋からすたすた出て行ってる。バタン、バタン。
「めっちゃ濃い部屋だった……」明科さんはガッカリしたみたいな雰囲気で言いながら戻ってきたけど、目はめっちゃきらきらしてた。なんか、同好の士を見付けた、みたいな……。明科さんアニメ観るって言ってたけど、あたしはやっぱりちょっとびっくりしてる。
「弟くんは平日のこの時間なのに家にいるんだね」明科さんは特に驚いた様子も無く言う。
「うん。引き籠もりだから」あたしは答える。
「ほら」明科さんが言う。なんだろって明科さんを見る。「広丘さんも普通じゃん」明科さんが言う。「何が?」あたしの何が普通なんだろう。「弟くんが社会不適合者なのに、普通」明科さんが言う。あたしは、「なるほど」って思うし、言ってる。
「広丘さんは優しいから」明科さんはまたあたしのベッドに座りながら言う。「きっと私の家庭事情に土足で踏み込んでしまったー! みたいに思ってるのかもしれないけど、別に、それって今起きたことじゃないんだから、だったら自分の生活のことなんだから、普通でしょ。私にしても、明科さんにしても」
あたしは持ってく物を吟味するのをやめる。
「弟くんが不登校になったのはいつから?」明科さんが訊く。
「二年前くらいかな。学校で何があったのかは知らないけど」あたしは答える。
「で、それは広丘さんにとって大袈裟に騒ぐこと?」明科さんが訊く。
「ううん。だって、弟がそうしたいならそうすれば良いって思う」あたしは答える。「そのままでいたいならいればいいし、解決したいならすれば良いって思う」
「広丘さんはなんか相談された?」
「ううん。弟とはあんまり仲良くない」
「相談されたら、ちからになる?」
「うん。あたしに出来ることなら」
「ほら」明科さんはニヤって笑って言う。「私と同じだよ、広丘さん」
「同じなのかな」あたしは自信無さげに答える。
「私はおとんから何も相談されなかった。おとんは勝手に出て行った。たまに会って、お小遣い貰うけど、それだけ。おかんも私に何も言わなかった。おとんが女作って出てったって言ったきり、おかんと私の間ではおとんの話題はタブーになった。私は二人の子どもだけど、別に、それに関しては本当に何も無かった。勝手に二人が決めたし、別に、私はそれが間違ってるとも思わない。相談されたら、なんかしたとは思う。おとんに行かないでって言って、とか。別にそれでおとんが出て行くのやめるようなことにはならなかったろうけど、それくらいは私もする。しなかったのは、必要とされなかったから。私のこと、薄情だって思う?」
「ううん。普通だと思う」
「そう、普通。だから広丘さんは、私と同じ」
「うん」そこまで言われれば、あたしにも明科さんの言いたいことがわかってくる。
「だから、広丘さんが気にすることは何も無い。だから変な気を遣う必要も、自己嫌悪する必要も無い。オッケー?」
「オッケー?」
「なんで疑問系?」
「明科さん、めっちゃ頭良いなって」
だってあたしは、そこまで自分の気持ちを他のひとに説明出来ない。
「私は広丘さんの方がちゃんとわかってるって思う」
「えっ、なんで?」
「だって」明科さんはくしゃって笑う。「言葉で説明出来るってことは、言葉で説明しようとしたってことだよ、自分に。言葉で説明出来ないのに理解出来てるってことは、そうする必要が無いのにそう思えてるってことだよ。私はそっちの方がすごいって思うよ」
「そ、そうかな……」あたしは釈然としなかったけど、明科さんは真剣な顔だった。だから、それが本当の気持ちなんだろうなってことはわかった。でも、明科さんにすごいなんて言ってもらえる人間じゃないって、あたしはあたしのことよく知ってるから、そう思うけど。
あたしはそれから自分に何度も言い聞かせた。自己嫌悪やめろー! って。自己嫌悪やめろビームを自分に撃ち続けた。タペストリーの女の子(レッドの明実ちゃん?)がこっちに向けてる人差し指の先を光らせてるみたいに。
多少ぎこちなさはあったかもしれないけど、あたしと明科さんはそれからくだらない話をずっとした。あたしは持ってく物をなかなか上手く決められなかった。手に持った物をその度に明科さんに「これいると思う?」って訊いた。明科さんは容赦が無くて、大体の物に「いらない」って言った。結局、あたしのでかいリュックには動きやすそうな着替えとか丈夫そうな下着とか、そういう必要そうな物だけが詰め込まれた。
「どうしても持っていきたい物は?」
最後に、明科さんはあたしにそう訊いた。
「んー」あたしは結構悩んだけど、特に思い浮かばなかった。「無い!」
「ホントかぁ? 後悔するなよぉ?」って明科さんは言ったけど、あたしには本当にどうしても持っていきたい物が思い浮かべられなかった。
だって、あたしには、本当に何も無いのだ。
あたしのこの狭くて汚い部屋には、めっちゃ色々な物があるけど、そのどれか一つだって愛着の湧いてる物は一つも無い。明科さんに言われなくたって、あたしはそのとき手に持った物がいらないことはわかっていた。でも、明科さんが「それはいるんじゃん?」って言ってくれたら、そうなるんじゃないかと思った。だから、お見通しだったのかもしれない。明科さんはあたし以上にあたしのことをわかっているのかもしれないと思った。……もちろん、そんなのは幻想だ。あたしたちはお互いの家庭環境について知り合ったかもしれないけど、それで相手のことを知ってるなんて言えることは、この世界では絶対に無い。
あたしたちはそれから家を出た。「よーしじゃあまずは隣町だ!」と言う明科さんがずんずん歩いて行く後ろ姿を追いながら、あたしは少しだけ立ち止まって、あたしの家を振り返った。
もうこの家に帰ってくることは無いんだ。
そう思ったら少し込み上げるものがあるんじゃないかと思ったけど、あたしのこころは普通だった。普通。別に、ずっと住んでた以上の愛着も無いんだって、自分の薄情さにちょっとびっくりしたくらいだ。明科さんに、あたしって薄情? って訊いたら、たぶん、そんなことないって言ってくれるって思った。明科さんもそうだろうから。でも、それって本当に普通なのかなって思って、あたしはよくわからなくなった。普通って、難しい。だって、それは普通って言ったひとの普通なのであって、たぶん他のひとにとっては、普通じゃないことなんだろうから。
あたしたちは、たぶんもう帰らない。
ずっと歩き続ける。「河川敷に行こう!」って、明科さんはまたあたしの真似をして言った。
あたしんち→河川敷
河川敷にやってきた。
もうそろそろ日も暮れてきて、川面はオレンジに染まりはじめてる空を反射してキラキラしてめっちゃ綺麗。
明科さんは土手に座って、ギターケースからアコギを取り出す。
「私が弾くから広丘さんは歌って」
明科さんはそう言って、あたしの返事を待つこと無くジャカジャカ弾き始める。
「Let it be!!」
知らない歌だったらどうしようかと思ったけど、知ってる曲でめっちゃ安心した。
あたしは歌った。『Let it be』ただ、あるがままにって。
明科さんはコーラスも出来るみたいだった。明科さんなんでも出来るなーって、それに比べてあたしはーって思い始めて、あたしは首をぶんぶん振って歌い続けた。
あたしたち以外誰もいない河川敷に、この街に、歌とギターが響いてる。
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