第9話 息子よ生きろ

事故死してから、10年程経とうとしている最中「妙な胸騒ぎ」を強く感じた。

それと同時に「助けてくれ!」と誰かに呼ばれた気もした。

「なんか、誰かが呼んでいる気がするんですよね~。それも緊迫感満載の感じ。めちゃめちゃ、気になって気になって。」

と親しくなった鮮魚店のご主人に相談。


「気になるなら、行けば?緊急事態かもしれないしな。何もなかったら、何もなかったでいい訳だし。」

と諭された事もあり決断。その日のうちに下界に行った。


「大したことじゃなきゃ、いいけど…。とりあえず社会人になったであろう息子の様子でも見るかな?息子にはもう見えないけどね…。」

そして、息子の部屋に入ると…。

「もう、これ以上無理!耐えられん。ノルマなんて達成できないよ。誰か助けて…。」

暗い部屋の中、一人で悩む息子が居た。そして、片手には紐がガッチリと握り締められており、「自殺寸前」の状態だった。

「父さんなら、何て言うかな?多分、反対するだろうな。でも、父さん残念ながら無理。これ以上は耐えられない!」


「息子が働いている会社のノルマがどんなものなのかは存じ上げないけど、相当キツいのか。でも、お前にはまだまだ生きてほしい。色々と学んでほしい。

だからと言って会社を勝手に休むのはダメなんだけど忙し過ぎて休む暇の無い、過労とかで死んでほしくない。だから、どうしても辛かったりしたら休め。」

という感じのテレパシー的なやつを息子に向け、送った。

それとほぼ同時に偶然、自分の遺影がたまたまバタンと倒れた。

「あれ?父さん居るの?居るならちょっと聞いてくれ。

僕はね、この近くの商店で働いているんだけど、そこの商店で従業員全員に対して「○○を○日までに○個売ること」っていうノルマがあって期限までに達成できないと減給とかになるんだ。

相談しようにも、相談できそうな人が居なくて悩んでいたんだ。

あと、この件に関してまだ母さんには、言いづらくてまだ言ってない。」

と相談を受ける。声や姿が息子に伝わらない為、試行錯誤しながら精一杯、息子に伝えようとした。

が、先程の遺影が倒れたのは本当に偶然だったらしく、今度は何も起きなかった。


「辛かったら、休め?店は忙しい訳じゃないんだ。お客さんが来なくて…。お客さんが来ないから販売ノルマ自体、難しいんだよね…。もちろん、呼び込みとかもしてるけど買うものはお客さん次第でしょ?それがなかなか難しくて。自分で買うとなると実質「タダ働き」になるから生活が苦しくなるんだよ。」

一応、伝わっているようだが遅れて届いているらしい。

それはいいとして、息子の働いている場所が話を聞いている限り俗に言う「ブラック」っぽい所のニオイが。

聞いただけだから、詳しいことはさすがに分からないけど。

「ちょっくら、休んでみるよ。さすがにすぐは無理だけど。」

と言っていることから、「自殺騒動」からは落ち着いたらしい。


「やはり、戻ったら戻ったで世話の焼ける息子だ。あの頃(生前)から全く変わってねえ…。複雑な心境!」

息子は職場に電話で、「親戚で入院した方がおり、見舞いに行かせてほしい。」と休みの連絡をした。

もちろん、親戚に急病で入院といった人はおらず、「休み」目的でついた嘘だった。


その後、気付かれないうちに上へ戻った。

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父、幽霊になる @noritaka1103

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