チョコレートに口づけ

姶良

憧れと恋心は紙一重

 甘くとろける生チョコレート。しっとり重厚なガトーショコラ。ふわりと弾むシフォンケーキ。ロールケーキにフィナンシェ、マドレーヌとブラウニー。本屋に並んだレシピ本を読んでも、インターネットでいくら調べても、料理名の頭についている「簡単」の文字は信頼しないことにしてる。


 キッチンに漂わせた甘いチョコレートの香りの中、花村蜜佳はなむらみつかはがくりと肩を落とした。





「また失敗したの?」


 高校受験ももう佳境となる2月上旬、1つの机を挟み項垂れる蜜佳に、親友である彩音あやねは溜息を吐く。蜜佳たちを含む最高学年である3年生は既に自由登校となっているため、登校日以外もこうして登校しているのはごく一部の生徒だけである。もちろんそのごく一部も同じく友人と最後の時間を楽しみに来ているのだから、ただでさえ人のまばらな教室内で何を話していようが注目されることはない。


「シフォンケーキは膨らまなかったしクッキーは真っ黒……」

「最初は生チョコがしっかり固まっちゃって、その次はガトーショコラがぱっさぱさ、その次は綺麗に焦げて割れたロールケーキと、ベタに砂糖と塩を間違えたブラウニー。一体どれだけ失敗したら気が済むのよ」

「だって~~……!」

「これでケーキ屋の娘だっていうんだから遺伝ってうまくいかないのねえ」


 なかば感心したように呟く彩音に、蜜佳はうぅ、と言葉にならない呟きを落とす。

 蜜佳の母親が経営しているケーキ屋は小さいながらも繁盛していて、常時十数種類というケーキがおやつ時にはもう売り切れることもある。新作の練習にと家で母親があっさりと美味しいケーキを作り上げるたび、蜜佳は親子でどうしてこうも違うのかと頭を抱えるのである。


「てか、もう諦めて買うかお母さんに手伝ってもらうかすれば?」

「あたしもそう言ったの!!」



 ……ことの起こりは2週間前、受験シーズン真っ只中、まだ自由登校となる前のピリピリした時期のことだった。

 一足先に推薦で志望校からの合格判定をもらった蜜佳は、放課後行われる勉強会に差し入れと称して実家で出している焼き菓子の詰め合わせを置いて校舎を後にしようとしていたのだ。

 そんな蜜佳を背後から呼び止める声に振り向いて、すぐに振り向いたことを後悔した。


 無造作にセットされた艶のある黒髪、すっと切れ長の瞳に高く通った鼻、形の良い唇。身長157センチの蜜佳が見上げるほどの高身長に、バランスの取れた体型。

 呼び止めてきたその男――小鳥遊譲たかなしゆずるは学年、ひいては学校を代表するほどのモテ男である。


「さっきの菓子ってお前の?」


 低い声はどこか甘さを孕んでいるようで、これも確か人気の1つだったはず。骨張った長い指も高い腰の位置も見れば見るほど確かに人気が出るのも頷けて、蜜佳は内心で苦った。


 これまでまともに話したこともない、同じクラスになったのも今年が初めて、でもちょっと用事があって声を掛けただけでも周りの女子から睨まれる――蜜佳はこの男が苦手だったのだ。


「うん、うちケーキ屋なんだけど、そこで出してるお菓子なの。頭使うしお腹も空くし、あれくらいでも力になれたらなって……」

「ふうん。……ありがとう、旨かった」

「それならよかった、お母さんに伝えとくね」

「…………花村、さ」

「うん?」


「お前は、菓子作れんの?」

「……うん?」


 あまりにも唐突な話題転換に、蜜佳が首を傾げるのも仕方のないことだった。


「俺来月の頭に合否決まるんだ。合格祝いになんか作ってよ」

「気が早くない!? いや……っていうかあたしが作るの!?」

「駄目なの?」

「なんでいいと思ったの!?」


 もう一度言うが、これまでまともに話したこともない間柄である。拗ねたように唇を尖らせる譲に、蜜佳は泡を食ったように宥める。


「あれは確かにうちの店で出してるけどあたしは一切関与してないし、何よりあたしはお菓子作れない! お菓子が食べたいならまたうちから何か持ってくるし、特別なのが良ければお母さんに頼んで作ってもら」

「やだ。花村のがいい」

「なんで!?」

「そこまで慌てるくらい作れないって言うのが気になったから?」


 まるで暴君である。何か口にすればすぐに周りの女の子が気を利かせてあれやこれやと準備してくれるようなモテ男は違うと思った。この1年間、彼が弁当を忘れたと口にすれば教室中の女の子が手作りなのと言って自分の弁当を差し出し(本当に手作りかは定かではない)、お腹が空いたと言えばおやつを手渡し(次の日から手作りのお菓子が流行ったことは言うまでもない)、寒いと言えばカイロが渡され(購買のカイロが一時期売り切れた)、傘を忘れたと言えば折り畳み傘が差し出される(中でも強者は相合傘に誘う)その他エトセトラ――という様子を嫌でも見ていたのである。手作りの菓子が食べたいなどと言えば喜んで作るのが大半の女子だろう。


「あのね、自分の女子力がないのをバラしてるみたいですっごく恥ずかしいし嫌だけど、あたし本当にお菓子作れないの。すぐ焦がすし分離するし調味料間違えるしぶちまけるし……中学の頃にはお母さんにも匙投げられててもう諦めてるの。だから合格祝いならもっとちゃんと美味しいお菓子食べたほうがいいと思うし、そうじゃなくて手作りが良いって言うなら他の合格決まってる子でも喜んで作ってくれると思うから」

「……じゃあ料理ならいいの?」

「ん?」


 必死に諦めさせようとする蜜佳を余所に、譲はまたも斜め上からの言葉を落とす。


「菓子が作れないって。料理ならいいの? 弁当……いや、家庭科室で作りたてかな」

「お菓子でお願いします」

「やった」

「えっ、あっ、ちがっ」

「自分で言ったんじゃん。約束ね」


 その場で作ってそのまま提供するよりはまだ練習して上手にできたものを渡せる菓子。そんな思考回路が勝り、どうしてその二者択一になっているのかすら考えが及ばなかった。

 かくして身勝手な約束を取り付けたあと、勉強会があるからと顔を蒼白させる蜜佳を置いて彼は校舎へ戻っていったのだった。



 月が替わり自由登校になって早々、教室で蜜佳を見るなり近付いた譲が「受かった。約束のもの、よろしくね。チョコ系のものがいい……あ、ちょうどバレンタインもあるし、その時で」なんてけろっとぽろっと口にしてくれたお蔭で、女子生徒の多い教室が阿鼻叫喚の地獄絵図になったことは言うまでもない。



「まさか王子が自分から手作りをご所望なんてねえ。しかもバレンタイン指定」

「未だに練習の成果が芳しくないことがバレてんのかな……。高級品質に慣れてるから珍しいものが気になってるのかも」


 王子、というのは譲の綽名である。整いすぎた容姿だけではなく文武両道を地で行く譲に憧れる女子生徒が憧憬込めて呼ぶときもあれば、女子生徒に群がられ様々なものを差し出される様子に男子生徒が皮肉を込めて呼ぶときもある。今回は後者だろう。


「蜜佳……いや、なんでもない……」

「? それよりチョコのマカロン食べる? お母さんの新作」

「食べる」


 呆れたように溜息を吐く彩音に首を傾げつつ、鞄からマカロンの入った袋を取り出して広げる。さくりとした歯応えのあと広がる甘みに舌鼓を打てば、昨日作り上げた失敗作のことも忘れてしまうほどだった。


「それにしてもさ、蜜佳って本当に王子とまともな関わりないの?」

「同じクラスになったのだって今年が初めてだよ、彩音だって知ってるでしょ?」


 そうなんだよね~、なんてあっさり流れた話題に、蜜佳は内心でほっと息を吐く。気付かれないようにマカロンを食べ進め、なくなったところで今日はお開きになった。



 同じクラスになったのはこれが初めて、これは本当。

 まともに話したこともない、これも本当。

 ただし、蜜佳には彩音にも言っていない秘密があった。



 ――去年まで、蜜佳はひそかに、譲に憧れていた。

 定期テストは常に上位、所属していたバスケ部では1年の時からレギュラーで運動神経もよく、先生の手助けをしている姿を見かけるのも1度や2度ではなかった。いつだって余裕があって他の同級生と比べても大人に見えた彼は、友人たちをどちらかと言えば纏めている方だった。騒がれているから目に入る回数が多かったのかもしれないし、周りの評価に釣られただけかもしれないけれど、憧れの対象といえばまず彼が浮かんだ。

 付き合えるとは思っていなかったし、そもそもこれが恋心かも分からないから、やっぱり憧れと呼ぶのが一番しっくりくる。


 そんな憧れの王子様と一度だけ、言葉を交わしたことがある。夏の大会の後の体育館裏、美化委員として花壇に水やりをしている途中でおそらく休憩中だろう譲が1人でやってきて、その場にいた蜜佳に気付かず涙を堪えていたのだ。

 夏の大会準決勝、相手は優勝候補と言われていた私立の強豪校。口にこそ出さないけれど、ただの傍観者でしかない他の生徒はやっぱりという気持ちが強かったように思う。それは当事者であるバスケ部員からも見て取れた。だから、少し――いや、かなり、予想外だった。いつだって冷静で大人っぽくて余裕がある王子が、誰もが仕方ないと思ってしまう相手に負けて、泣いてる。動揺でじょうろを落とした音に弾かれたように顔を上げる譲と目が合って、蜜佳はもう消えていなくなりたいと思った。


 どうしよう、どうしよう――混乱のさなか、蜜佳が思い出したのは母親の顔だった。



「あの、お、おつかれさまでした……!!」


 急いで自分の鞄へ駆け寄り、おやつにと自分用に持ってきていた店のマドレーヌを引っ張り出してそのまま押し付ける。こんな状況でかける慰めの言葉など蜜佳は持っていなかったし、かといって無言で逃げるのも失礼すぎる。たとえ自分の方が先にこの場所にいたとしてもだ。

 彼の反応を見るよりも早くくるりと踵を返し、じょうろと鞄をひったくってその場から駆け出したのは今思えば残念すぎるところだったと思う。


 そんな遣り取りから半年、張り出されたクラス表で同じ模造紙に自分と彼の名前が載っていたのを見た時は死ぬほど舞い上がった。もしかしたら覚えてくれているかも、なんて夢見心地で。


 結論から言えば、そんなことはなかった。


 よく考えれば当たり前のことだが、目立つ譲とは違い蜜佳は控えめに言っても平凡な――端的に言って地味な女子生徒のうちの1人である。勉強も運動も特筆するようなことはないし、唯一誇れると言えば無遅刻無欠席の皆勤賞くらい。家庭科の成績は料理の不出来さをなんとか筆記と裁縫でカバーできる程度の残念さだし、クラスのカースト上位付近にいる人種には恐らく名前も憶えられていない。

 クラス替え早々出席番号順に並べられた席順で斜め前後になったにも関わらず「よろしく」の一言で挨拶は終了、件の遣り取りに言及されることもなく自己紹介を交わすこともなかった蜜佳はすぐに悟ったのだった。おまけに学年を代表する美人たちに言い寄られ貢がれ君臨する王子様を間近で見ることとなり、憧れの気持ちはゆっくりと下降して今に至る。


 このまま淡い恋心未満だったキモチごといつかはなかったことになるのだろうと思っていた矢先の約束。バレンタインだなんだとかこつけられたところで彼に期待して舞い上がるほどお花畑なオンナノコなどではない。

 けれどなんだかんだと流され今に至るまで断り切れなかったのはそんな憧れを完全に消しきれてはいないからで、どうせあげるしかないなら少しでも美味しくできたものをと思ってしまうのも複雑な乙女心である。


「もういっそうちのチョコ商品を包装しなおして……いやもうお母さんに手伝ってもらうしか……」

「却下」

「?!」


 ぶつぶつと呟きながら帰り道を歩いていると、すぐ後ろから聞き慣れた声が届く。

 冷や汗をかきながら振り向くと、やはりと言ったところか――譲が不機嫌そうな顔で立っていた。


「花村の手作りがいいって言ってんのにずるしようとすんなよ」

「ほんっっと~~にうまくいかないんだよ! このままじゃ合格祝いのつもりが小鳥遊くんがお腹壊して病院送りになって折角の春休み棒にふっ……って何笑ってるの!?」

「っいや、花村お前……自分の手作りに信頼なさすぎるだろ……」


 またも必死になる蜜佳を見て、譲はこぶしにした手を口元にあてて顔を背ける。肩を震わせる様子から笑っていることだけはよくわかるが、笑われていることは甚だ不本意である。


「仕方ないじゃん! 練習で毎日何かしら作ってるのに全部失敗し……あっ、うそやっぱり何でもない」

「……毎日練習してんの?」

「なんでもないって言ったじゃん!」


 問い掛ける声音がどこか嬉しそうに聞こえたのは、気のせいだろう。もしくは心のどこかにやっぱりまだ期待してしまう心があるからだ。分かっているのに、彼に期待したところで何も起きやしないのに、乙女心とはなんとも不可解だった。


「だいたい、小鳥遊くんが言えばおいしい料理もお菓子も超可愛い女の子たちがすぐに作って持ってきてくれるでしょ。おまけにバレンタインなんてわざわざあたしがあげなくっても小鳥遊くんにチョコあげたいって子ばっかりだろうし、失敗作のお菓子なんて悪い意味で印象に残りすぎっていうか」

「まあまあ。お返しも用意するからさ」

「あたしがあげるのは合格祝いであってバレンタインのチョコじゃないの!」


 まったく通じていない様子の譲は、蜜佳が反論するたびに楽しそうに笑う。


「良いじゃん、逆に印象に残るから合格祝いって感じあるよ」

「本当に市販のお菓子の方が断然美味しいし綺麗だしお祝いになると思うんだけどなあ……」


 なんて話をしているうちに気付けば蜜佳の家まで辿り着いていた。何時の間に、なんて呆ける蜜佳に別れの挨拶を済ませ、譲は蜜佳の自宅に隣接する店に入っていった。


「……あ、ケーキ買いたかっただけか……」


 送ってくれたのかと思った。この期に及んでまだ妙な勘違いを起こす自分に苦笑いしか出ない。送るも何も時間はまだ夕方にもなっていないし、冬場とは言え外も明るい。送られる理由など何一つないことに気付いて、蜜佳はまた無意識に肩を落とした。





 それから、数日後――迎えた聖・バレンタインデー。奇しくも登校日が重なったこの日、校舎内はあまったるいチョコレートの香りに包まれていた。せめて自由登校日ならば渡しやすいと思っていた合格祝いだが、ほぼ全員が出席しているこの状況で手渡せるほど蜜佳の地位は高くない。主にカースト的な意味で。

 既にこんもりと包装された箱が詰まれた譲の机を見遣り、蜜佳は溜息を吐く。


(あの中にひっそり忍ばせておけば、気付いてくれるかな……)

 ――恐らく無理だろう。幾らなんでも数が膨大すぎる。おまけにあれを全て1人で食べるとは思わないから、おそらく部員や友人とも分け合うのだろう。本命らしいチョコもないことはないが、見る限り義理チョコやあわよくばチョコがほとんどである。忍ばせたところで万が一億が一他の人に食べられてしまったら、合格祝いを渡せないことになってしまう。


 結局悩んだ末、なんとか一瞬だけでも呼び止めて渡すそうと決めた放課後、チャンスはやってきた。少女漫画さながら、鬱陶しそうに紙袋を両手に下げた王子の姿。周りを見回してみても誰も見当たらないから、多分撒いてきたんだろうと察しが付いた。

 袋から覗くパッケージは明らかな高級チョコ、おそらく義理であんなもの渡す女の子なんていないから、告白だってされているのだろう。なんて返事をしたのかなんて考えない。考えてはいけない。自分が用意したのはただの合格祝いだし、そもそも彼への気持ちは恋心じゃない。叶わない夢を見て勝手に落ち込むのは1度きりで沢山だ。


「……小鳥遊くん! はいこれ、合格祝い! それじゃあ!」

「待った」


 決心が鈍らないうちにと声を掛け、提げた紙袋に目的のものを突っ込んでそのまま帰ろうとした蜜佳を、不機嫌そうに呼び止める。


「ずっと待ってたのに放課後だし。遅い」

「他の人の目があるとこでなんて渡せない」

「“合格祝い”だから?」

「……そうだよ」


 彼から頼まれた合格祝い。彼から指定されたバレンタインデー。彼の望みのチョコレートのお菓子。

 いくら言葉で口実を口にしようと、いくら内心で言い訳に興じようと、傍から見れば聖なる日の贈り物。不格好で素材の味に頼るしかない、王子にはあまりにも不釣合いなそれを愛の告白などと捉えられたくはなかった。


 憧れだから。好きじゃないから。憧れなどではないから。――好きだから。

 あんなもので、なんて。言い訳を重ねたささやかなキモチが不格好なお菓子と共に嘲笑されて踏みにじられるのは嫌だった。


 言葉を探して黙り込む蜜佳の耳に届いたのは、かさりとビニールがこすれる音と小さな笑い声だった。


「…………何?」

「想像してた菓子よりもすごいのが来たなって思って……」


 譲を見ると、彼はついさっき蜜佳が突っ込んだ袋を開いて小さく笑っていた。袋の中身は実にシンプルな――マシュマロチョコレート。溶かしたチョコにほんのひとさじ生クリームを入れて混ぜ、マシュマロを半分突っ込んでカラースプレーをまぶしただけのお菓子である。

 これなら失敗はしないわよと母親のお墨付きをもらい、無事に作り上げた一品だった。流石にこれを失敗するのは無理があるし、蜜佳の母親は蜜佳を小学生以下と勘違いしてるんじゃないのかと思ったのはここだけの秘密である。


「だってケーキは焦げるしチョコは割れるし膨らまないしべたつくし、おいしくできたのがそれしか、」

「……うん、だから」


 まだ言い訳を口にする蜜佳の言葉を遮って、譲がポケットから出したものの封を開けて蜜佳の口に放り込む。途端に広がる甘さは苺味。目を丸くしながらころころと口腔でキャンディの甘さを堪能している間に、譲が笑う。


「来年に期待」

「……来年は、合格祝い必要ないよ」

「花村に言い訳が必要なら、いくらでも作るけど」


 まさか。ちがう。だって。

 キャンディの意味を知らないわけがない。でも。混乱したまま譲を見つめると、一度言葉を区切った彼がそのまま続けた。



「……バレンタインに、ちょうだい」



 言葉の意味に気付けないほど、鈍くはない。それ以上に、都合のいい解釈をしたくなるのが恋する乙女心というものだ。


「……期待しても良い?」

「それが答えでしょ」


 確かめるような問い掛けに、譲が蜜佳の顔――もっと言えば口元を指差す。甘いキャンディがころりと舌先を転がった。




 ――いつから?


 ――内緒。

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