第8話 白い肌
待ち合わせの時間より2時間早く安立から連絡がきた。1週間分の着替えを用意して、大きなスポーツバッグに詰め込んでいた時だった。安立から風呂と飯は済ませておけと指示され、余裕があった時間はなくなり、俺は急いでシャワーを浴びてカップラーメンを味わいもせずに啜った。急いだせいで激しくむせ、危うく服にぶちまけそうになったが着替える事にならずに済んだ。
『ピンポーン』
呼び出しを聞いて慌てて空になったカップラーメンをゴミ箱に投げ捨て、スポーツバッグを持って玄関に出る。
「はい。」
「俺だ。」
安立の声が聞こえたのでそのまま靴を履き、扉を開けるといつものキツネ顔がそこにあった。
「早くなっちまってすまんな。予定より準備が早く終わっちまった。」
「おはようございます。」
俺はドアから出ると鍵を閉め、安立と一緒にアパートを出た。近所の駐車場に向かい、安立の車の助手席に座った。
「緊張してんのか?」
「いや、、あ、そうですね。初めての事なんで。」
「そんなに心配するな。一応あとで医者が来るから、色々教えて貰えるから近藤ちゃんなら出来るよ。」
「医者が来るんですか?その人が見るってのは駄目だったんですか?」
「見てもらえなくはないけど、正規の医者ではないから高くついちまう。」
「あ、あぁ・・・。」
俗に言う闇医者というやつなんだろうと察した。
「着いたぞ。」
高級マンション入り口に車を付け、安立はクラクションを3回短く鳴らした。
「8階の1番奥の部屋だ。男が1人いるから下に来るよう言ってくれ。」
「わかりました。」
スポーツバッグを持って8階に向かう。高級マンションなだけあって、エレベーターはゆったりと8人は乗れそうだ。敷かれている絨毯もちょっとしたホテルのように豪華だった。
エレベーターを降りて道なりに進むと、他の部屋と少し離れた感じにドアがあり、そこが行き止まりの部屋だったのでチャイムを鳴らした。返事はなかったがドア越しに人の気配があったので、名乗ってみると鍵を外す音がしてドアが少し開く。
「近藤です。・・・どうも。」
「安立さんは?」
「あっ、下に車止めてて呼んでました。」
「わかった。じゃあ、リビングで座ってて。」
そう言うと男はサンダルを引っかけてドアを大きく開け、俺は代わりに中へ入った。玄関は黒い石で造られ、そこで布団を敷いて2人寝ても余裕なぐらいスペースがあった。
「すげぇな・・・。」
リビングへ進むとでかいソファが置いてあり、ここに座っていいのかなと思いながら他に腰掛ける場所がないので端に座った。慣れない居場所にそわそわしていると、キッチン横の扉がカチャリと音を立てて開き、真っ白なバスローブを着た女が入ってきた。
「あら。」
「あ、この間はどうも。」
ミズキは濡れた髪をタオルで拭きながら正面のソファに腰掛け、リモコンでTVを付けた。この間会った時よりもしっかりとした顔つきをしていた。今が普通の状態なのだろうか?様子を伺っているとミズキが声を掛けてきた。
「ねぇ、オレンジジュース出して。」
「え?あ、はい。」
キッチンに向かい冷蔵庫を開けると、スポーツドリンクやらお茶やら色々入っていた。
「俺も何か飲んでいいっすか?」
「・・・飲めば?」
オレンジジュースとスポーツドリンクをコップに注ぎ、テーブルに置こうとした時にミズキの組んだ足が目に入った。風呂上りでしっとりと濡れた白く伸びた足・・・。無意識に見てしまう。
「何?」
「いや、、、。」
焦ってTVの画面に意識を集中させた。ミズキは俺を嫌そうな顔をして見ていたが、俺は気づかないフリをした。
歪んだ街 みぃまん @mi-man
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。歪んだ街の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます