「ねえ君さ、僕の後をついてくるんだったら、もう少しだけでいいからさ、マイルドな顔をしてくれないかな」



背の高い木々の間を縫って太陽の光が差し、緑のカーペットさながらの柔らかい地面を、旅人のような青年と、獣のように身体の大きな男が2人、連れ立って歩いている。


前を行くのは旅人の青年。背中には殺気すらも感じるような鋭い視線が、もう長い間刺さり続けている。ここにきて青年の我慢も底をつきたようで、単調に続いていた歩行を唐突にやめると、後ろから視線を投擲してくる男を向いて小言を口にしたのだ。



「……」



男の口は開かない。青年はハアと口から息を吐くと、近くの木の根に腰を下ろしずいと男を見上げる。


「言葉を知らない獣のような真似もやめてくれ。君は死にたくなかったんだろ? せっかく生き延びたんなら、死ぬ間際に願ったことでもなんでもしに行けばいいじゃないか」


男は青年を見下ろしたまま、何も言わない。青年はがっくりと頭を下げると、先ほどよりもさらに大きな溜息を地面にぶつける。


「何がしたいんだい、君は。 まさか、特になにかやらなければいけないこともないのに、ただ生に、生きることに執着していただけなのかい?」


青年はちらと男の顔を見る。寸分も変わらぬ表情でこちらを見続ける男に、思わず「これだからニンゲンは」と小言が漏れる。


「わかったよ。君の好きにすればいい。 ただ、僕の行動に何か意味は見いだせないよ。僕はただ単に、この世界を観光しているだけだからね。」


よいしょと反動をつけて立ち上がり、目の前の男を見据える。男はそれに合わせ、視線を少しだけ上に向きなおすと、また件の無表情に戻る。


「それで、君名前は?」


「ヴェスティノス」


「じゃあヴェストね。ちゃあんと自分の頭で考えて、それで行動するんだよ?」


青年はそう言うと、くるりと回れ右して森を進む。男もその後に続く。その視線は相変わらず青年の背中に注がれるが、先ほどのような鋭さは少しだけ薄れ、青年はふんふんと満足そうにうなずくのであった。

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木々を紡ぐ @Kaquri

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