第83話 あえて触れていなかった事について

 今回は今まであえて触れていなかった事についてのお話。


 共通するのは『家賃保証会社は統一されたルールが無い』という一点。

 家賃保証会社は独立系・信販系・不動産会社の子会社系に大まかには分類されると思うが、各社の差異はそんなレベルではない。一定のルールを課そうと始まった(と思う)国土交通省の『家賃債務保証業者登録制度』とて、そもそも加入が任意だ。

 そして登録している業者の中でも、その制度のために実務面を変えた会社は一体どれだけある(あった)のか?


 各社間の差異に触れなかった理由は単純で、このお話は私が実際に経験したり見聞きした事だから。そしてストレスの溜った会社員の単なる愚痴だから。

 そこに触れる理由が見当たらなかった。


 しかしもしかしたら、このお話を読んでくれる人──世界で数人かもしれないが──の中で『家賃保証会社は全てこのように動いているのだ』と誤解される方がいるかもしれない。それは申し訳ない。

 そんなわけで、今まで触れなかった部分に少しスポットを当ててみたい。


 例えば私は今まで何度も『入居者が死んだ。撤去して処分して終了』と書いた。それは事実。

 だが、全国に100だか200だかある家賃保証会社が全てそんな事をしているのかといえば、NOだ。


 会社によっては入居者(=契約者とする)が死んだらそこで保証終了、後は知らない。

 会社によっては撤去費用は上限を決めて出すが、それを行うのはあくまで不動産会社や家主(業者の紹介くらいはするかもしれないが)。一々列挙はしないが他のパターンもあるだろう。


 例えば『家賃の延滞金』はどうなっているのだ? と疑問をもった方もいるかもしれない。

 私は延滞時の金銭的ペナルティに関してはあえて書いていない。私の働ている会社はそれによって話が左右される額ではないし、その細かな話まで説明しだすと私の力では話が冗長になり過ぎると考えたからだ。


 では各社のその金銭的ペナルティはいくらなのだ? 回答を書くなら『各社バラバラ』である。


 一般の消費者金融のように毎日、遅延損害金利率**%の1日当たりの金額を加算して請求する──という家賃保証会社は(少なくとも独立系や不動産会社の子会社系では)、仮にあったとしても相当に少数派なのではないか?(保証契約が終了した後の請求は話が全然別です)


 金銭的ペナルティがあったとしても、例えば保証委託金や延滞事務手数料や単に事務手数料という名目を請求する家賃保証会社はそれなりにある。もしかしたらそれが一番多いかもしれない(呼称が統一されてないので、ここでは便宜上『金銭的ペナルティ』と書き続ける)。


 一方で、家賃を延滞しても金銭的ペナルティはゼロという家賃保証会社もある。大手でもだ。

  

 ある会社では家賃がいくらであっても金銭的ペナルティは千円とか2千円くらい。その額とて、契約した年度によって違ったりする。

 ある会社では、家賃の10%である。10万円の家賃を延滞したならば、1万円の金銭ペナルティを加算して請求される。1月分の家賃が延滞すれば10万円プラス1万円。2月分の家賃が延滞すれば10万円プラス1万円。家賃保証会社からの督促のあった翌日に家賃を払ったとしてもその額は変わらない。


 例えば家賃10万円で毎月延滞したとする。延滞1回につき1万円(10%)を加算して請求されるなら、金銭的ペナルティは1年間で12万円。

 これは高いだろうか? 安いだろうか? 私は、とんでもなく高いと思う。


 年利15%で120万円を借りれば、利息は1年で18万円。しかしこれはあくまで120万円の元金を1年間ビタ一文払わなかった場合の年利計算である。

 延滞期間がいくらであっても10%加算して請求されるケースとは、比較としておかしい(仮に10日後に支払った場合、利率として計算すれば『トイチ(年利365%)』である)。


 あなたが持っているクレジットカードでキャッシングをしたとしよう。金利(遅延損害金利率も)はたぶん、どの会社もそれほどの差が無い筈だ。まさかゼロは無いだろう。

 しかし家賃保証会社の金銭的ペナルティは0~**円或いは**%までが有り得る。


 因みに、絶対に契約書に記載されてるかというと、そうではない。いや、これも誤解を招く書き方か。契約書にはたぶん、金銭的ペナルティが**%、**円、年利**%とか書いてある。しかしそれを実際に請求しているかは別問題である。

 どういう事か?


 契約書に書いてもいない金額を請求するならそれは問題である。そうはしていない筈だ(していたらそれはもう別次元の話だ)。

 そうではなく、金銭的ペナルティの記載はあっても、それを請求しないのは問題ないという事だ。消費者にとって損にはならないから。

 一応書いてはあるが、運用上請求していない場合が有り得る。


 急速に拡大した家賃保証業界の市場に契約訂正ではなく運用を合わせた会社もあるだろう。昔──といっても何十年も前ではないが──に合併・吸収を繰り返した会社の場合は、無理矢理に運用のみを変更せざるを得なかったケースもある。

 吸収・合併したのなら、そもそもの契約書がバラバラなのだ。例えば年間保証料を支払わなかったら保証契約が終了するかしないかとか。それ以前に年間保証料が存在するのかしないのかとか。


 例えば入居中に他の保証会社へ切り替える場合がある。これは普通──新家賃保証会社が営業をかけた結果としての──不動産会社やオーナー側の意向である。その場合は当然に入居者は新たに契約をし直す。

 合併・吸収の場合は話が異なる。契約し直しているのかどうかはわからない。 

 そして昔は本当にいい加減だったのだ。その当時から現在まで居住し続けている人間も多いだろう。


 更に加えるなら消費者金融には課せられている統一ルールが、家賃保証会社には存在しない。金銭的ペナルティのバラバラさ加減はその象徴といえるかもしれない。


 私は家賃保証業界の市場がこれからどんどん拡大するとは、全く思っていない。

 もしかしたら家賃保証業界は見た目上は市場が拡大するかもしれない。新たに上場する会社も出てくる筈だ。

 それでも、例えば葬儀業界がそうであるように、介護業界がそうであるように、斜陽産業ではないかと考えている。

 そしてそれらの業界がそうであるように『中で働いている人』の待遇が良くなるとは思っていない。

 

 私は管理(回収)担当者だから、その話を書いている。だからその側面だけを見たならば、消費者金融の管理(回収)面と似通っているように思う人もいるだろう。確かに共通する部分は多分にある。消費者金融・事業者金融出身者も多い。

 しかしあの業界の貸付・管理(回収)業務は良くも悪くもルールに縛られている。それに比して家賃保証会社の、特に管理(回収)面は殆ど自主ルール、ハウスルールの世界である。


 私の知人が働く同業他社は平気でロックアウト──ドアの上からもう一つ鍵を取りつける──をする。部屋に入れず困った延滞客から連絡をさせる手段だ。

 私が現在ロックアウトを行う場合はせいぜい──10年前ならともかく──不動産会社や家主から頼まれた場合くらいだ。夜逃げした、だから家財道具を撤去する、カギを交換する前に万が一、延滞客が帰ってこないようにロックアウトしておいて──と頼まれたから実施する程度である。そのロックアウトキーとて不動産会社が用意したものだ。こちら側ではない。


 会社によって実務がバラバラである(勿論『御社は延滞客から連絡をさせる目的でロックアウトをやってますか?』と問われて『やってます』と答える家賃保証会社はゼロだろうが)。

 前述した死亡後に『撤去する』or『しない』に至っては商品や会社方針の問題である。これ自体はどちらが正しいという問題でもない。その会社が決めれば良い問題。金銭的ペナルティに話を戻せば『ここまで会社によって違うかね?』というくらいの差がある。


 だから、私の書いた話を読んで『日本のどの家賃保証会社も同じ』と思われたなら、それは違いますよと書いておく。 

 もしかしたら世の中のどこかには全家賃保証会社を知っている人間もいるのかもしれない。だが私はそうではない。そんな人間も知らない。

 私が書いたのはあくまで私が経験し見聞きした話。そしてストレスの溜まった管理(回収)担当者の単なる愚痴である。

 

 繰り返す。バラバラである。実際の運用は契約書を読んですら多分わからない。これはそんな業界のお話です。

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