第84話 東京
2018年10月*日 15時半。東京都E区。
1階には6室。2階にも同じく6室。2階建てのアパート。元は壁は白く、屋根は青く塗られていたのだろうが、今やどちらもグレーに近い色となっている。
通路には空き缶や壊れた自転車が放置されている。
最寄り駅から徒歩20分はかかる物件だが、それでも東京23区。賃料は42000円。
その102号室の前で視線を上げる。錆の浮いた、沢山の傷が目立つ青いドア。私がドアの上辺に張ったテープは切れている。ドアと枠の隙間に挟んだ通知も無くなっている。
ドアを開閉した証拠だ。
ドアの金具にテープは貼っていない。理由はよくある話で、グリスみたいなものが金具に塗られているから。入居者が塗ったわけではない。
グリスなのか何の別の粘液なのかは、本当に所はわからないが。
この場合、仮にテープを貼ったとしても意味がない。テープがグリスで滑ってねじ切れないから。
そういう時は、ドアの上辺と枠を渡すように小さくテープを貼る。そしてボールペンで横に半分切る。そうすれば開閉した時にほぼ必ずテープは切れる。
テープを貼るだけだと、ドアの開閉時に単に剥がれてしまう。そうすると、ドアの開閉で剥がれたのか、風の影響か、テープの粘着性が薄れただけなのか、或いは他の要因なのかよくわからない。
時間を3日遡る。東京都**区。
壁は何の装飾も無い白一色。床は薄いグレー。何の飾りも無い長テーブルを1辺に2つづつ組んで、正方形が設えられている。
ブラインドで閉じられた窓を背にした一席に、私は座っていた。プロジェクターが次々と映し出す顧客情報を眺める。
部屋にいるのは10人程。殆どが関東首都圏を担当している、私と同じ管理(回収)担当者。
会議室入口に近い席の男がキーボードを叩く。連動してプロジェクターが表示させる顧客情報が移り変わる。彼が室内の最上席者だ。管理(回収)部門を統括している部長。
その隣に座っているのは、私の所属する第3課の課長だ。
「先月の退去は若い人が多いね」──部長が呟いた。
その言葉は雑談に近い。なぜなら『退去』したのなら──それが追い出したにせよ──後はもう、残った債務を追いかける部署の仕事だ。
我々は『滞納した家賃を支払ってもうらうか』、『部屋を出て行ってもらうか』、或いは『滞納した家賃を支払ってもらった上で出て行ってもらうか』までが仕事。
退去しているのなら、マイナスは生じたとしても担当者個人としては『解決』している。
実際、会議は既に手持無沙汰になりつつあった。それぞれの担当者が抱える難易度の高い顧客に対する対応策は出た。
先月に数字の悪かった人間は『今月はああします・こうします』と発言した。課長は『今月の施策』とやらを発言した。毎月の恒例行事は終わったのだ。
管理(回収)担当者なら──消費者金融でも家賃保証会社でも──大抵は同意してくれると思うが、『今月の施策』なんてものにさしたる意味はない。もしかしたら有害かもしれない。
なぜなら先月も『今月の施策』を挙げているのだ。
他の仕事にも当てはまる筈だが『季節指数』というものがある。ボーナスが出る月は売り上げが上昇するとか、そういうものだ。
管理(回収)の仕事にもそれはある。
例えば12月はボーナスが出るので回収数字が上がりやすい、偶数月は年金が出るので数字が上がりやすいとか。
延滞客自身にボーナスや年金が出るという事もあるが、周辺の人間のカネ周りが良くなるから、カネを借りやすくなる。
話を戻す。極論を言えば、管理(回収)部署だけの『毎月の施策』──年間、或いは数年を通さないと効果測定ができなくないか? 毎月やる事を変えていては効果がよくわからない。
しかしそれでも、先月の数字が悪かったのなら──それが全く個人の責任に帰するとは思えなくとも──『今月の施策』を作らねばならない。
会社員ならわかってくれると思うが、一つの部署だけで決定できるものには限度がある。
管理(回収)部署が直接はタッチしない審査基準の見直しなどは、その場でどうにかできるわけでもない。
では例えば、担当者個人の『今月はこうします』──例えば夜の時間帯の訪問件数を増やします、延滞客の昼休憩と思われる時間には必ず電話します、親兄弟へのアプローチを増やします、分割での支払いは受けずに『払うか出て行くか』の二者択一を選ばせるようにします……とか。
或いは第3課としての『今月はこうします』──例えば土日の出社人数の割合を増やします、封筒の色を目立つ色に変えます……とか。
これで、延滞発生時に管理(回収)担当者が知る事になる『派遣会社で働いて手取りはせいぜい16万円なのに家賃8万円の部屋』、『有名なブラック企業に入社したばかり。案の定、入居後にすぐ退職』、『2人で月収25万円にも満たない同棲カップル。家賃は16万円』……等々。この状況をひっくり返せると思うだろうか? 契約時点で延滞するのはわかりきっているのだ。
けれどもそれを全て自部署の、或いは担当者個人の力量不足が原因と捉え、『今月はこうします、ああします』とひねり出す。同僚のアタマの中は私にはわからないが、傍から見ればとんだ茶番だろう。
私は消費者金融で働いていた頃からずっと繰り返している。もう20年程こんな茶番劇に出演している。年数だけならそれなりのベテラン役者だ。
私は会社員。取り換え可能なパーツ、歯車。茶番劇への出演料がお給料とは心得ている。しっかり演じ切るのは当然の義務である。
そしてその時点で、各担当者は演じ終わっていた。今月の公演は終わったのだ。だから手持無沙汰。
「東京に夢をもってやってきて、でも結局どうにもならなくなる……のかね」
部長は続けて呟いた。質問ではなく、単なる独り言。彼は地方出身者だ。
隣の課長が頷いた。彼も地方出身者。
まさか皆が皆、夢を抱いて東京にやってくるわけでもないだろう。それに、何十年も前ならともかく今時、夢をもって東京へ……なんてのもあまり無いのではないか。
少なくとも私は、何か夢があって上京したわけではない。たまたま配属されただけ。他のその場にいる同僚も──首都圏出身者を除けば──私と似たようなものの筈だ。
「でも、払えないなら出て行ってもらわないとね」
更に彼は呟いて、視線を全員に向ける。その言葉で本日の茶番劇は終幕。
時間を戻す。
入居者は33歳の男性 D。単身者。
入居から3ヶ月目で初の延滞発生。『月末に親方からもらうお金で支払う』と言って、その通りに支払った。それから毎月、延滞。
熱中症で入院したから給料が少なかっただの、友人にカネを貸したから返ってくるまで待ってくれだの、色々な支払えない理由は聞いた。それでも、毎月1ヵ月分の家賃は遅れながらも支払ってはいた。結局そのサイクルも、半年もたなかったが。
現在、連絡は取れていない。電話には出ない。現時点で2ヶ月分の家賃の延滞がある。
ドアの開閉はある。
登録時の仕事先は、ウェブサイトも無い**建設という会社。法人登記しているかどうかもわからない。電話番号は携帯電話番号である。
先月の中頃に電話をすると社長が出た。代表の方ですか? と尋ねると、照れ笑いと共に『一応、そうだけど』という返事。代表というか『親方』なのだろう。
彼は同時に、契約書に記載する緊急時の連絡先でもあった。普通は親兄弟、或いは子供等は記入する。独居老人なら『友人』を書く事もあるし、役所の電話番号という事もあり得るが、勤め先の社長の名前・電話番号を書く事はあまり無いのではないか。
Dは現在と同じE区から転居してきている。
そういう延滞客の場合『前の所は追い出されたのかな』と発想する管理(回収)担当者は多い。
もちろん何の根拠もない。だが経験に基づいているのも一方の事実である。
地方の場合にこの傾向は強いが、部屋から退去してもらった延滞客がそれなりに近くに転居するケースは多いからだ。
もっとも、そんな統計があるわけでもないが。あくまで経験からの連想。
Dから私宛に連絡するように親方には何度か頼んでいた。結局、Dからの連絡は無い。先月の末からは無断で仕事を休んでいる。
親方はそれなりに話しやすい人で、延滞している事も知っている。家賃保証会社から連絡があるのだから最初から察してもいた。隠せるようなものでもないし、緊急時の連絡先へ記入もされているのだ。私も滞納状況を伏せる気は大して無かった。
上げた視線を左に移す。ドアに貼られたテープは切れていた──が。
ポケットに入れたスマホを取り出す。『親方』へ電話を架ける。
7日前にも電話していた。Dが仕事に来なくなって連絡も取れない。貸した道具もあるので部屋に行った。ドアが開いており、貸した道具は部屋の中から持ち帰ったと言っていた。
その翌日に私は訪問し、テープを貼っている。
5コールで出た親方へ質問する。Dと連絡は取れていない事を確認し、続けて質問する。道具を持ち帰って以降、Dの部屋には来たのか?
「昨日、行ったよ。いるかなと思って」
ドアを開けて部屋に入ったが誰もいなかったと平然と続けた。勝手に他人の部屋に入るなよ。
「一応、他人の部屋ですし、問題になる可能性がありますから、勝手に入っちゃダメですよ」
「Dはどこかに逃げたんだろうし、もう行かないよ」
親方はそれなりにDの世話をしている。頼みもしないのに以前からペラペラ喋ってくれた。前の部屋に住めなくなったと泣きついてきたDに、転居時(現在の部屋)の契約金を貸してもいるのだ。もっとも、給料から天引きして既に回収はできているそうだが。Dはパチンコばっかりやってたから借金だらけだとも言っていた。だからこそ『逃げた』という表現を使う。
まぁ、家賃を延滞して職場を無断欠勤して『消える』など、大抵そんな理由からだろうが。
ただし、Dが本当にどこかに『消えた』かどうかはわからない。単に親方とバッティングしてないだけかもしれない。
テープが切れているのは、Dが部屋に出入りしているせいか。或いは、親方や、貸金業者がドアを開けたせいか。それは現時点では不明である。
もっとも、ドアを勝手に開けているならマトモな貸金業者ではないだろうが──。
足元に埋められた、水道メーターの収まるボックスの鉄のフタを開ける。ほんの少しだが変動している。しかし変動量は蛇口の閉め忘れ程度。それに、一見して閉め忘れなど無さそうでも多少の変動をする事はある。
ドアの左のガスメーターのパネルには『停止』の表示。電気メーターはゆっくりと動いているように見える。
その時点では室内に入る許可を会社には取っていない。加えるなら賃貸借契約解除の通知は今朝、不動産会社名義で送っている。内容を簡単に書くなら『着後〇〇日以内に延滞した家賃を払わないと部屋の契約は解除になりますよ』。つまり、まだ賃貸借契約を解除する手順は踏めていない。
もちろんその手順を踏んだら、例えば部屋に入って荷物を撤去してもいいのかというと全く別問題ではあるのだけど。
一瞬考える。ドアノブに手をかけた。ドアを開く。ドアポストの受けカゴは開いたまま。玄関に請求書や通知やチラシが積み重なっている。ドアノブに手をかけたまま、視線を上げる。
暗く細長い通路の端には空き缶が並べられていた。
居室のカーテンはいつも閉じられていた。それでも隙間から滲む陽光のお陰でテーブルが見えた。手前には丸められた洋服。散らかっているが、ゴミだらけではない。物は少ないように感じた。人がいる気配は無い。
ドアを閉める。現時点でこれ以上、部屋の中を見る意味は無い。本当にドアの鍵がかかっていないか、そして室内の雰囲気を知りたかった。ドアが本当に開いたままなら、不用心だ。急ぎはしないが、不動産会社に伝えておくのが親切だろう。
そして10秒程度で感じた雰囲気──Dは、帰ってこない。材料は乏しいが、経験から確信する。根拠薄弱? 然り。もしもフィクションでミステリーならまさにその通り。しかしこれはリアルなお仕事。今まで何度も経験している。直感はかなりの率で、当たる。
ドアの上辺と枠にテープを貼る。ドアと枠の間に通知を差し込む。単なる作業──これから数日様子をみて、改めて室内へ入る許可を会社から得る。今月末には家財道具の撤去をして『解決』かな、と目算する。
5日後の朝。スマホが鳴った。Dの部屋のあるアパートを管理する不動産会社だ。担当者の女性の声。「警察から連絡があって──」
Dの部屋の家宅捜査を行いたいという。理由は不明。部屋が開いている事は一昨日、伝えていた。
たぶんどこかに『夜逃げ』しているので、しばらく様子を見て家財道具は撤去しますよ──と大体のスケジュールを話してもいた。それが、警察?
部屋の鍵は不動産会社には無い。物件近所に住んでいるオーナーがもっている。もっとも、ドアのカギは開いているが。
明日の昼に家宅捜査が行われるという。どこの警察署かと質問すると、N県の警察と答えた。電話番号を教えてもらう。通話しながらPCに入力する。N県警T警察署……? 東京近郊と言えばいえるが、何というか一生行かないようなマイナーな土地だ。Dの氏名をGoogle検索してみても、ニュースにはヒットしない。
家宅捜査に同行するか? と聞かれたが、他の仕事が入っているのでやんわりと断る。それにどこの警察署かわかっているのだし、同行する理由があまりない。
担当の警察官の名前は聞いておくように伝えて、通話を切った。
ちょっと、面倒になったと嘆息する。
夜逃げとはいささか事情が異なる。逮捕されているのだ。部屋に帰らないのではなく、帰れないが正しい所。
単に家財道具の撤去をして解決、というわけにはいかないかもしれない。
できるならDの家財道具の撤去・処分の同意が取りたい。
逮捕されたのがいつなのかはわからないが、できるなら面会をしたい。いや、少し遠いな……どうする?
1週間後に、N県警T警察署の留置係へ電話をかける。『不動産関係の者』で、部屋をどうするのか確認したいので面会したいと正直に伝える。
いきなり電話を架けて、留置されている人間がいるのかいないのか答えてくれるのか? と疑問に持つ方もいるだろう。
これは運と、少しのばかりのコツ。
ある人間が生活保護を受給しているのかを役所の担当部署(生活福祉係とか)に尋ねる時とも通じるが──『そこに留置されている・生活保護を受けている』事は当然知っていますよ、という話し方をする。
間違っても『留置されていますか?』『生活保護は受けてますか?』という話し方はしない。
そんな尋ね方をすれば『答えられません』という返答に決まっている。もちろん前置きとして『部屋をどうするのか』『家賃が滞納していて』という、電話を架けた理由も口にしておく。全く嘘ではない。まさにその理由で電話しているのだ。本当の事だ。
まだ留置されている。面会も可能だ。ただし、いつまでいるのかがわからない。そういう回答。
困った。私は他にも仕事があるのだ。正直、家賃42万円ならともかく4万2千円の部屋のためにN県まで行く時間が無い。N県を担当する同僚もどうにもすぐには時間が取れそうになかった。
仕方がないので、部屋を明渡をするか? 家財道具はこちらで処分しておく、と書いた手紙を送った。処分に同意する書面と返信用の封筒、そして切手も同封。
更に1週間が過ぎた。手紙の返事は無い。しかし面会に行ける時間は作れた。もちろんDが断れば面会はできないし、『家財道具の撤去』に同意しなければ意味はないが。
再度、T警察署留置係へ電話を架ける──「移送されましたよ」。そして『移送先は回答できない』と彼は続けた。
もっと困った。どうする……?
移送先としてもっとも可能性が有りそうなのは、T警察署から近いW拘置所だ。だがこれは単に距離が近いからという理由だけの予想である。全く遠方に移送されるケースもあるだろう。
W拘置所へ電話を架ける。回答は『Dはいない』。翌日、再度、ダメ元でT警察署留置係へ電話を掛ける。移送先は一切回答できない──当然か。そして当然、Dへコンタクトを取る手段がない。
一つだけ、良い事があった。家宅捜査が行われた時、オーナーから借りた鍵で不動産会社が施錠をしたのだ。
つまりこれでドアの開閉があるなら、Dが戻ってきたという事。親方や、貸金業者(かどうかわからないが)がドアを開ける事はできない。
1ヵ月。1ヵ月間様子を見て、Dが戻ってこなければ室内を見る。その上で家財道具の量を確認し、撤去・処分するのか裁判へ進めるのか考える事にした。
実際『夜逃げ』はしている様子なのだ。夜逃げした先で逮捕されたというのが実際だろう。周囲の人間──親方だけだが──が『夜逃げした』といっている。そういう場合は大抵、本当に夜逃げしているのだ。
3週間が経過。念のために取得した住民票には移動はない。
明日で1ヵ月。ドアの開閉は無い。
更に念を入れて『親方』に電話をかける。もしかしたらDから連絡があっているかもしれない。
Dが逮捕された事は知っていた。家宅捜査があった同じ頃にT警察署から電話がかかってきたという。
詳しい罪状までは知らなかった。強盗とからしい……とは口にしたが、曖昧。
逮捕されたのと同じころ、DのFaceBookには自殺を仄めかす投稿がされていたと続けた。これはDの同僚から聞いたそうだ。
自殺するヤツが何で逮捕されるんだよと思うが、相槌だけを打つ。話を聞きながら、Dの名前でFaceBookを検索してみる。平凡な名前だからか、特にそれらしきものは見つけられなかった。
いまどこにいるのかは知らないし、もう関係ない。そしてA県──中国地方の県名を口にした。A県出身だから、そっちの刑務所にいるんじゃない? 結構、面倒見たつもりなんだけどなあと、大して興味も無さそうな声で彼は締めくくった。
逮捕されたのは事実だろうが、起訴されたかも不明である。仮に起訴されても刑務所まで行くかな? とは思う。少なくともニュースになるような事件ではないのだ。
翌日、部屋のドアを開ける。以前、10数秒見た時から変わったのは、玄関に積もった通知や請求書の数だけのように思えた。
家財道具は多くない。散らかってはいるが、ゴミばかりという事もない。TVはある。小さな冷蔵庫もある。洗濯機も一応ある。所々に丸められた洋服。ベランダ側には、引越してきた時からそのままだろう段ボール。カーテンレールに掛けられた作業着。薄い布団。寂しい部屋。そんな印象。
そして決定的に欠けている清潔感。
Dが帰ってくる事は無い。夜逃げしたという事前情報はたぶん正しい。警察が来る事ももう無いと確認もしている。
家財道具は撤去はするが処分はしない。会社が契約している倉庫で保管はしておく。もっとも、ある程度の期間が経過すれば処分するが。
Dが帰ってくる事は無い。家財道具の量や状況から判断した。
もしもDが帰ってきて文句を言ってきたら? もちろん、リスクと効率を秤にかけて考慮している。──その時はその時。そして私にそんな経験はただの一度も無い。
これまで家財道具を撤去した数は、100や200どころではないのに、だ。
これで『解決』だ。
例えば2022年1月1日における東京都世田谷区の人口は約91万6千人。2015年には約84万7千人。2018年には90万人だった。
勿論、人口流入と同時に流出もある。流入の方が多いから人口そのものは増え続けている。
私は東京という街は好きである。私のような、自分の意思ではなく住み始めた人間でも好きになれる場所だ。
これほどに各街ごと(各駅ごと?)に特色のある都市は──私が地方出身者だから余計そう思うのかもしれないが──他の日本の道府県には無いのではないか?
少なくとも私の地元の地方都市には、各街・各駅にこれほどの変化はない。
楽しい街だから皆、集まってくるんだろうと思う。便利な街だから皆、引越してくるんだろうと思う。
一方には、出て行く人もいる。
自分の意思かもしれないし、そうでないかもしれない。
東京から出て行く人の中に、Dのような人間はどれ程いるのだろう。
何故、彼はわざわざA県からやってきたのだろう? Dの部屋の玄関ドアを閉める時、積もった請求書やチラシを見て一瞬だけ、考えた。
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