第53話 新型コロナウイルスだ。また一つ、言い訳が増えたぞ。

 これは私の働いている会社だけの問題かもしれないが、2019年中頃、全国的に回収数字が下落した。


 それこそ、それまでの『寝ていても達成できる』レベルの数字にも届かなくなった。一人二人ではない、全国的に、だ。


 個々人での優劣はあるにせよ、トータルでは明らかに異常な数字。いままで見た事がない程に悪化している。消費増税より少し前から。増税の影響だと言うつもりはない。


 当社の審査の問題かもしれないし、日本人が2018年よりも貧しくなったからなのかもしれない。


 2020年3月初旬。新型肺炎のニュースが世界中から届く毎日の狭間。


 関東圏はそれでも比較的『下落率』はマシだ。他は酷い。なぜなのかはわからない。単にカネがないだけだろう。

 私は経済専門家ではないので、地方経済の分析はやめておく。


 埼玉県のB市で飲食店を経営する──個人営業だが──女性から電話が入る。

 新型コロナウイルスのせいで送別会等の予約が全てキャンセルになった。今月はお先真っ暗だ。いつ支払えるかわからない。


 この女性は、娘と2人で居酒屋を営んでいる。


 3年以上ずっと『不況』だ。娘と暮らす部屋の延滞。いつ支払えるも何も、ずっと延滞は継続している。新型肺炎など、関係ない。

 なぜ娘が他で働かないのか、私には理由がわからない。



 埼玉県のC市に、2月末に支払うと言っていて、そのまま連絡が取れなかった男がいる。男の『友人』と名乗る人物から電話が入る。


「彼はコロナウイルスの疑いがあり入院している。今月の15日頃に支払うと言っていた。別にあの病気と決まったわけではないけど……」──本当に新型肺炎ならニュースになる。だから『疑いがある』か。バカバカしい。大体、なんでアンタが電話してくるんだよ。


 もしもあなたが入院したとしよう。友人に家賃の延滞の事実は伝えられる状態。保証会社に連絡してくれと頼むか? 友人に伝えられるのだから自分で電話できるだろう。



 埼玉県のD市に50代の男がいる。自営業者と申告していたが、実態は日払いの派遣社員。新型肺炎の影響で仕事が全く入らないと懸命に喋っている。延滞は現在3か月ある。入居5カ月目である。

 月収は新型肺炎流行前でも手取り15万円で、家賃は7万円だ。


 そもそも保証会社がこの世に存在しなければ居住はできなかっただろう。あまりに収入と家賃のバランスが悪い。支払えない理由は新型肺炎とは何の関係もない。


 私と同僚の予見。現在はインフルエンザを支払いに行けない理由にする客がいる。新型肺炎なら絶対にニュースになる状態だから、インフルエンザを使う。しかしいずれ、ニュースにもならなくなるだろう。その時、彼らは新型肺炎を支払いに行けない理由にし始める。


 酷暑であれば熱中症で入院した。雪が降れば積雪のため、雨が降れば豪雨のため仕事がなくなった。

 春には親戚の入学祝いで、夏には結婚式で、秋には葬式で、冬には年末の付き合いで。春夏秋冬、暑くても寒くても雪でも台風でも、彼らはそれを『支払えない理由』にする。


 今度は新型コロナウイルスだ──また言い訳が一つ、増えたぞ。

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