第54話 管理(回収)担当者の新型コロナウイルス偶感(2020年4月1日時点)

「コロナウイルスの被害で……今月の家賃、払えません」

 相手に悟られぬよう嘆息する。胸中で呟く──『オマエ、生活保護じゃん!コロナ、微塵も関係ないじゃん!』


 誰も彼もが新型コロナウイルスを『支払えない理由』に使い始めた。


 自営業や非正規雇用ならあり得るかもしれない。が、それ以外の人で2020年3月末の時点で収入と新型肺炎に直接の関係はあるのだろうか?

 もちろん、風俗業の方はすでに収入が激減している可能性がある。それは理解できる。しかし、まがりなりにも──観光業や飲食業以外の──会社員であれば、影響が出るとしても『これから』ではないのか。


 会社員でもコロナウイルスで収入が減ったから家賃が払えないとやたらと口にするが、それはそもそも分不相応な所に住んでいるからではないのか?

 普通、1月に働いた分が2月の給料として、2月に働いた分が3月の給料として支給されると思う。

 仮にコロナウイルスの影響の給与減があるにしても、大抵は3月の給料からだろう。

 それで即、家賃が払えなくなるなら、そもそもの生活の組み立てがアンバランス過ぎるし、毎月毎月延滞していた人間がコロナウイルスを理由に持ち出す事が多い。

 コロナウイルスなんて関係なくアンタは延滞していたじゃないか。


 今後はどう考えても大不況が到来するとは思う。が、それはあくまで『これから』だ。ましてや生活保護など、公務員ばりに盤石である。


『コロナウイルスの疑いがあり入院していた──……そこで生活保護費の家賃分(住宅扶助)を使ってしまったからカネがない』


 ここで『現場』を知らない人は指摘するかもしれない──「生活保護は医療費がかからない。だから嘘だと論破すればいい」

 そんな事を現場でドブさらいをしている我々がわからない筈がない。確かに医療費の自己負担は『基本的』には無いのかもしれない。だが、下着類を買うにはカネが必要だ。彼らはそのような雑費に住宅扶助を使ったと主張する。仕方がないのだ、と。

(ところで、下着類まで医療扶助の対象と書いてあるサイトを稀に見かける。私はそんなものまで対象にしている自治体を聞いた事がない。どこかにあるの?)


 家賃を全てはたいて下着を買ったんだって。どういう事? 生活保護なのに下着はドルチェ&ガッバーナやディオールしか着けないとでも言うの?


 タチが悪いのは、言っている事は嘘まみれでも、カネが無い事だけは真実である点だ。論破しても意味がない。


『カネがない』状況から話を展開せねばならない。不条理な設定。貧困の紙芝居。不毛な作劇。こんな事を十年一日繰り返す。


 私は10年以上、消費者金融の管理(回収)担当者だった。今は家賃保証会社の管理(回収)担当者だ。こんなバカな寸劇をずっと見続け聞き続けている。


 それでもまだ続けているのは、私はこの馬鹿馬鹿しい茶番が、そんなに嫌いではないからかもしれない。


 私はどこで道を間違えた?

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