第52話 いずれ登場するウェブサイト
私は20年くらいずっと『お金を払ってください』という仕事をしている。最初は消費者金融で。現在は家賃保証会社で。
法人の代表への督促が苦手な人間は多い。法人代表といっても、社員が数人だったり、代表1人だったり、その程度だ。それでももちろん立派だと思う。経営者である。私みたいな会社員には想像もできない苦労がある筈だ。
経営者は会社員より大したものなのかもしれない。だが人格まで立派かといえば、そうではない。貧すれば窮すのか、元々そうなのかしらないが、プライドが高い人間は多い。
言葉尻をとらえてやたらと激高したり、居丈高だったり。それくらい気が強くないと経営者なんでやってられないのかもしれないが、迷惑だ。
神奈川県のA市で、ある法人代表が会社名義で借りている一戸建て。賃料18万円。法人だが社員はおらず、その戸建てが自宅兼事務所だった。
コンサルティング業。WEBサイトにはお客様と寄り添って──などという言葉が綴られている。
家主から連絡が来た時すでに8か月分延滞していた。督促すると支払った。100万円を軽く越える額だ。大したものだ。次の月も延滞した。
支払いを約束した日に入金は無い。
だから翌朝電話をした──「昨日お支払いはお済みでしょうか?」
法人代表はプライドが高い。無駄に敵対しても仕方がないので、下手に出る。
「オマエ、本当に払ってないって確認したんか?」
ずいぶんな言い方だ。昨日支払いは無い。
「もう一度確認しろや」
たぶん今朝がたか昨夜かに入金したのだろう。データ処理の問題で、話の途中で入金が確認できた。
支払いが確認できた事を伝える。謝罪も加える。それは客商売の礼儀だ。私は高圧的にも話していない。
電話する前にはデータ処理ができてなかった。話の途中で処理がなされ支払いが確認できたと正直に伝える。
「オマエはそういう言い訳するんやな? だったら俺も言い訳して払わんようにするわ」
本当に、面倒くさい。何回支払いの約束を履行しなかったのか、覚えてないのか?率直にいえば、払わないならそれでいい。むしろその方が『解決』は楽だ。
結局、資金繰りに窮しているのだろう。カネがなければ人間はキレやすくなる。毎月延滞し、ああだこうだとクズみたいな事を電話でわめていてくる。
延滞が解消するのは1カ月に数日間だ。支払った3日後には次の支払日が到来する。その繰り返し。
面倒くさい法人代表は、多い。
私は予見する。そして私自身がそれを行う事はないが、期待すらしてしまう。
以前、破産者マップ事件というネット上の事件が起きた。
官報に記載された破産者情報をデータベース化して、Googleマップに表示させたものだ。
官報自体は誰でも見れる。しかしこのサイトは大問題になって結局、閉鎖された。
賛否両論あるサイトではあったが、少なくとも開設者は刑事罰までは問われていない。
私はいずれ『嫌いな法人』マップができると思っている。
ぐるなびの『頭のイカれた法人代表』版とでもいうのか。それはSNSで罵られる法人名、代表名をデータベース化したものかもしれない。
そのサイトができるとすれば、尖兵となるのはカネの回収をしている人間ではないか。とても嫌なメにあっている。
なあに、我々だって嫌いだアタマがおかしい取り立て屋だのとネットに書かれているのだ。我々が書いて何が悪いのか。もちろん、悪い。我々が『なぜこの法人が嫌いか』まで書いてしまえば、情報漏洩だ。プライバシーの侵害だ。誰が顧客か? ですら明かさない。それくらいは心得ている。しかし、それでも、やってしまうヤツが現れると私は思う。
そして私はたぶん、彼あるいは彼女を批判しない。いずれきっとそういうヤツが現れる。
いつリストラされるかわからない世の中だ。失業すれば貧困層へ一直線。いや、現時点ですでに家賃保証会社はキックバック合戦に突入している。
ありえないキックバックを不動産会社へ渡す業者も現れている。その保証会社の給料はとても安い。
なんでこんな給料で、ここまで我慢しなければならないのだ? もうどうでもいいや──そう思う人間が出てくる可能性は、いうまでもないだろう。
いつか必ずそういう法人『罵倒』サイトが現れる。その存在を私は肯定しない。だがたぶん、否定しない。
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