第51話 あの問題が国外で再現されたらシャレにならない

大戦の傷跡がまだ癒えぬ頃、男は生まれた。


巨大な野望を抱いて、彼は邁進した。

掛け値無しに優秀だった。超人と呼んで誇張ではない。


彼は巨大な企業を一代で作り上げた。

間違いなく、ある時期において日本で最も成功した人間だった。


ただ彼は、いくら『金貸し』としても、それでも厳しすぎた。


その厳しさは延滞客だけではなく部下にも及んだ。

男の野望は、業界全体を飲み込み全てを消滅させるキッカケにもなる。


日本中に彼の、苛烈とも呼べる行跡が流れた。

その中には眉唾なものもあったけれど、事実もあった。

少なくとも『あの男の会社ならやりかねない』と言われる強烈な『追い込み』の噂は──それは延滞客ではなく成績不良な部下に対しても行われた──半ば事実として囁かれた。


彼の野望の中心ともいえた企業は消滅し、男は表舞台から消えたように見えた。


時代の傑物、またある時期は怪物として注目された彼の名を聞く事は現在、殆ど無い。



では彼は全てを失ったのか?


とんでもない。


彼の野望の中心となった企業は消えたが、グループ企業は存続している。

彼自身の姿は社外からは見えにくくなっているが、歴然とそれらの企業の中で存在している。歩いて怒鳴る、形ある人間としてそこにいる。


往時と比べて、いささかも揺らいでいないとすら思える噂もある。


日本で生まれて育った彼が、日本国内で何をしようと、国内問題だ。

だがいまや彼の企業は国外にも存在し、当然に現地の人間相手に商売をしている。


その苛烈さをいまだ内包したようにみえるまま、だ。


殆ど具体的な情報を書かずに恐縮なのだが、なんとなくわかってくれる人に向けて書いている。

わからない人に向けるなら──『かつての事業者金融・消費者金融の強引な取立てを、日本企業が外国で外国人相手に行ったらどうなるか?』を想像してもらいたい。


いつか大問題に発展すると思わないだろうか?


その企業が焼き討ちにあおうがどうなろうが正直、私にはどうでもいい。

そして私自身は彼の『苛烈さ』が悪いとも思ってない部分はある。

(私に関係ないから)

ただ、世間の大方はそう思わない事も知っている。

何せかつて日本では大問題となった。

今だったらもっとだろう。


私は、彼の企業が存在する国で反日感情が惹起される可能性を恐れる。

その国には、私が好きな人々が住んでいるから。

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