第50話 どちらがより良き在り方なのか?

東南アジアのある国における債権回収事情を実務担当者より聞く機会があった。

日系企業の話である。


国名は伏せるが、ASEAN諸国の中でも名目GDPや一人当たりGDPが明白に下位グループの国。

貧富の差は大きい。

金持ちはそれなりの数、存在する。

だからこそ日本企業が現地で貸金業を営んでいる。


当然だがカネを貸す相手はそれなりの資産をもった階層。

いやしくも日本企業がその国の貧困層(日本のワーキングプアなど問題にならないレベルだ)に貸しても、労多くして得るものがない。


基本は現地人を使っての回収。言葉の壁もあるのだから当然だ。

交渉でラチがあかない時は法的回収も行う。

『金〇〇を払いなさい』という『判決』は取得できるが、動産や不動産に対しての『執行』が殆どできないそうだ。

司法があまりワークしておらず、執行手続きが進まないから。


だから賄賂を渡した警察官を同行させて動産を差押えたりもするという。

相手が銃を持ち出す事もあるので、その場合は同じく賄賂を渡した警察官に同行を依頼する。

日本の回収手法とは似て非なるものだ。


もちろん、相手次第だが日本で昔やっていたような強い交渉も行う。

しかし相手が銃を出してくる事がある。

日本とはやはりルールが違う。


加えるなら役人や実力者へ『貸したカネ』は回収がひどく困難。

警察すら敵に回ってしまう。


日本では有り得ない金利で貸すのでそれでも儲かってはいる。


そんな国で『金貸し』日系企業の日本人社員は休みも無く働く。

当たり前だが日本人以外の社員は休みを取っているけれども。


話を聞いていて、日本とどっちが良いのだろうと思った。

奇妙な感想だ。

絶対に日本の方が良いのだ。にもかかわらず、そう思った。


私は家賃保証会社で働く前は消費者金融の管理(回収)担当者だった。

いまは家賃保証会社の管理(回収)担当者。

『お金を払ってください』という部分は同じ。


延滞客から聞こえてくる言葉もたいてい同じ。


『支払いは妻に任せている。払ってないのか?払うように言っておく』

この男からは月曜以降、毎日支払の約束を取得している。月曜日から、毎日。

今日は金曜日だ。

毎日同じ言い訳を繰り返す。


何度妻に『払っておくように』言ったのだ?


もしも月曜日から木曜日まで本当にそう言っていて、それでも払ってないなら『妻』とやらは言葉が通じないか正真正銘の木偶の棒だろう。


『半分なら今月払える。来月にまとめて払う』

25000円の家賃である。

プノンペンの大した事のないアパートだって200ドルくらい家賃を取るのだ。

本当に日本は先進国なのか?


生活保護から支給された住宅扶助を酒にタバコにギャンブルに浪費し、借金返済へ充ててしまう連中が毎月々々湧いて出てくる。


法の庇護のもと、そんな連中も家を追い出されるわけでもなく居住を続けている。


90年代の某国の売春村では、逃げ出した売春婦は指を切り落とされたそうだ。

彼女たちは借金を背負っていた。

困窮した家族に渡されたカネ。彼女自身の『値段』だ。

贅沢したとかいうものではない。


カネを払えないという事は同じなのに、日本ではそれなりに清潔(延滞客の部屋は大抵自らゴミだらけにしているが)な部屋で延滞を継続できる。

もちろん、それは素晴らしい事だ。先人が築き上げた秩序というインフラ、福祉制度の結果である。法治国家に万歳三唱。


他国の事情を実体験として知らないから安易に比較は出来ない。

出来ないのだけれども、本当に、何でこんなに面倒くさいのだ。


もっとシンプルに物事解決しないのか?


もしも大量の移民がやってきて、外国人ばっかりの国になればもっとスッキリ、シンプル、ストレートに物事進むのだろうか?

過剰な『延滞客すらお客様』論は無くなるのだろうか?


ヤマアラシコンプレックスという心理学用語がある。

距離を縮めて身体を暖めたいが、近づくと互いのトゲで傷ついてしまう。

適切な距離を見つけましょう、というヤツだ。


別にこれは恋人や友人だけに当てはまる用語ではない。

人間社会一般に対してのものだ。


仕事のストレスからきているのかもしれないが最近、思う。

延滞客に対して、距離感がおかしくなってないか?

日本の管理(回収)システムは。

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