第49話 民法改正が家賃保証会社に追い風だって それはマトモな事なのか?

2020年4月に改正民法が施行される事をご存じの方も多いだろう。

およそ120年ぶり。


債権関係の規定について、判例や慣習などから運用してきたものはいくつもある。

それを明文化した側面が今回の民法改正にはある。


家賃保証会社も含めた不動産賃貸業界への影響でいえば以下の3点が大きいだろうか。

(売買契約に影響するものは別にある)


1・連帯保証人に対する保護が強化された。

(いくらまで保証するのか契約書に記載せねばならない)


2・保証人から賃貸人へ、賃借人の支払状況に関して問い合わせがあった場合、速やかに情報提供せねばならない。


3・トイレが壊れた、エアコンが動かない、などの場合賃料が当然に減額される。


他には『原状回復のガンドラインが明文化された』というのもある。

が、それは国交省の『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』が下敷きなので、実務としては今までと大差はない。

ただ、経年劣化も賃借人負担で当然、敷金は返金しなくて当然という一部の不動産会社は減るとは思う。



1・『連帯保証人に対する保護が強化された』について


今までは連帯保証人は賃借人と同等の無限の責任を負っていた。


今回の改正以後は『極度額(保証の限度額)』を明確にして契約せねばならない。

100万円までとか、200万円までとか、明確な金額だ。

『契約時の賃料の○○ヶ月分』など、明確な金額を記載する必要がある。


『賃料の12ヵ月分』では、いつの賃料なのかわからないので『契約時・・・の賃料の12カ月分』という風に明確化する必要がある。

実際にはまずありえないが、契約の翌月値上げする事も論理的にはあり得るからだ。


たぶん実際に連帯保証人が責任を負う上限額は『契約時の賃料の12~24カ月分』程度ではないかと言われている。


『言われている』というのは、金額が条文に書いてあるわけではないからだ。

改正以後に連帯保証人へどこまで支払義務を負わせられるのか、誰かがトラブルになって判例が出ないと結局のところわからない。

ただ、上限は24ヵ月分程度だろうというのが大方の見方だ。


大抵の不動産会社はそのラインで賃貸借契約書を作ると思う。


さて、そこで問題なのだが、悪質な入居者には賃料の24カ月分では足りないのである。

そして加えるなら、連帯保証人候補者もいざ明確な金額を見せられると、印鑑を押す手が止まるだろう。


保証会社にはこの『上限』は適応されない。

あくまでその保証会社の商品の上限まで責任を負う。


ちなみに事業用物件(店舗や事務所)の契約で保証人が個人の場合、更に面倒だ。

賃借人(借主)は財産や収支の状況、債務の有無や履行状況を『保証人へ』明らかにせねばならない。これは、賃借人は嫌がると思う。私だったら御免だ。


つまり『連帯保証人』の成り手は減ると予測される。

だからこそ民法改正は『追い風』と家賃保証会社も市場も意識している。


本当に追い風かどうかはともかくとして、だ。



2・『保証人から賃貸人(部屋の貸主)へ、賃借人(部屋の借主)の支払状況に関して問い合わせがあった場合、速やかに情報提供せねばならない』について


大家が直接管理している物件は別として、対応するのは貸主の代理である不動産会社だと思う。面倒臭いだろうな、と思う。


そもそも不動産会社は極度に属人的で、本当に遅れた業界である。

今時、ある物件の契約に関して『担当者しかわからない』など、不動産業界以外にあるのだろうか?


2019年にFAXでやりとりしている業界である。

家主は高齢者ばかりだ。確かに世代交代も進んではいるが(年寄は死にやすいから)、後継者だってそれなりの年齢である。


州によって異なるそうだが、米国では賃貸人と賃借人の立場は日本とはだいぶ違うそうだ。

ネットや本で少し読んだだけなので、実体験として知っているわけではない。

が、仮に本当だとしよう。

延滞すればすぐに裁判所へ申立てをして、判決取得。強制執行申立て。後は警察を呼んで強制的に退去させるのだという。


こう書けば日本とあまり変わらんじゃないかと言われそうだが、延滞発生から2~3ヵ月程度で強制執行まで進むという。

本当なら素晴らしい事だと思う。


日本では延滞発生を起点とするなら、10ヵ月程度は強制執行終了までかかると考えておく必要がある。

なぜなら3カ月分の延滞が発生してから明渡訴訟の申立てができる場合が殆どだ。

そして判決、強制執行。

申立てから強制執行まで、最短で進んでも6ヵ月はかかる。


その時間に何の意味があるのか?


もちろん、米国のようであれば家賃保証会社の必要性は薄れる。

しかし、それで良いと思う。


賃貸借契約の非効率さを補うために家賃保証会社が存在するのか?

ならば、効率的になればその存在は不要である。


馬車が走っている時代には鞭にも需要はあった。

自動車という便利な移動手段が登場したなら、需要は消える。

それだけの話である。


日本の不動産賃貸業界ほど非効率極まりないサークルは稀だろう。

賃貸物件程、借主が過剰に保護された契約は珍しい。


家賃保証会社はその非効率・不均衡を補うために生まれたのだと思う。


だからこそ、実際に保証委託契約料を払うのは賃借人であるのに──ビタ一文払っていない賃貸人(家主)・不動産会社の意向で契約するという、わけのわからない状態が現出しているのである。


本来的には家賃保証など、超高級物件以外には必要がないと私は思っている。



3・『トイレが壊れた、エアコンが動かない、などの場合賃料が当然に減額される』について


さすがにいくら減額とまでは明文化されていない。


今まではもしトイレやエアコンが使えない期間があったなら、あくまで賃貸人との話し合いで家賃の減額がされていた。


それが、賃借人からの減額請求が無くとも『当然に減額される』のである。


それが幾らなんだというのは、たぶん過去の判例や公益財団法人日本賃貸住宅管理協会のガイドラインの減額割合を参考に契約書に記載するのだろう。


例として挙げられているのは『賃料10万円の部屋でトイレが3日間使えなかった場合は2000円減額』。

(トイレの使用ができない場合、月額賃料の30%減額が目安として例示されている。1日は免責。2日間の減額のため2000円、の計算。1ヶ月が30日間の場合)

これが高いのか安いのかは人によりけりだろう。


実務上ではトラブル回避のために『賃借人は設備が壊れたらすぐに賃貸人へ通知をしなければならない。しなかった場合は賃料減額は主張できない』などと特約に盛り込まれる筈だ。


でなければ、一体いつから減額せねばならないのかわからない。


少なくとも減額割合が明確化される事は賃借人・賃貸人どちらにとっても良い事だとは思う。

今まではおとなしい人間が損をしていたのだろうから。



さて、本題である。

この法改正は現在、賃貸物件に住んで、延滞もせず家賃を払い。何の問題も無く退去

する大多数の人にとって、メリットがあるのだろうか?


『現在、賃貸物件に住んで、延滞もせず家賃を払い。普通に退去する大多数の人』が、新たに契約する際あるいは更新の際に家賃保証会社との契約を求められるケースは増えるとは予測される。


保証会社が新たなニーズを作り出したのではなく、法改正によって、その変化が起こる。


これは、良い事なのだろうか?


ちなみに私は賃貸物件にずっと住んでいるが家賃保証会社と契約した事がない。

今後はそうもいかなくなるかもしれない。それは正直、嫌である。


『オマエは家賃保証会社で働いているのにそんなんで良いのか?』と非難されるかもしれない。


良いのである。

株式会社シュガー・マトリックスには男性社員も在籍しているだろうが、まさか『STRAWBERRY-FIELDS』の服を着てはいまい。

私は今、契約する必要がないのだから、良いのである。


繰り返すが、家賃保証会社が新たなニーズを作り出したのではない。

にもかかわらず法改正によって、家賃保証会社と契約せねばならない人は増えると予想される。


それは本当に、良い事なのだろうか?

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