第47話 わかっている おかしくなっているんだ 麻痺してるんだよ とっくにな



私は家賃保証会社の管理(回収)担当者として働いている。

毎日毎日、家賃の督促をして、明渡訴訟の手続きをして──十年一日同じように。



仕事を辞めて家賃が延滞した人間。

考えなしに会社を退職しているため、退職時点で生活費が干上がっている。


うつ病になって家賃を延滞した人間。

貯金など無い。


借金で家賃を払えない人間。

どうやりくりしてもそもそも支払い困難な状況。


生活保護費を使い込んだ、落とした人間。

論外だ。そして彼らは往々にして開き直る。


そもそも払える筈のない家賃の部屋に住んでいる人間。

脳みそが、生き様がデカダンスな連中である。話すと非常に疲れる。言葉に主語がなく、述語はいい加減で、補語が欠けている。


そういう人間を相手に、毎日毎月同じような会話に終始する。


『家賃が払えない』から話はスタートする。返事にはいくつかパターンがある。相手の状況によるが、生活保護受給を提案するのはその一つだ。


確かに受給条件を満たしているのなら有効な手段ではある。

無事受給できれば、少なくとも申請時点からの家賃は支給される。

現在の住居の家賃が住宅扶助費より高いのなら、引っ越し費用や新しい部屋の契約費用も支給される。


だが、考えてみて欲しい。


『仕事を辞めて家賃が払えない。どうしたらいいだろう?』

そんな相談を友人から受けたとしよう。

『生活保護を受けろ』と即答するか?


私なら、しない。

飛躍し過ぎだ。貯金がまったくないのなら、

寮のある仕事を探すよう勧めたりするかもしれない。派遣でも何でもいいから当面の生活費を稼ぐ手段を考えるかもしれない。

失業保険等の受給でどこまで食いつなげるのか確認もするだろう。

もちろん実家に戻れないのか尋ねもする。

特に親しい人間なら、少しの期間であれば寝床を提供しても良い。


そんな所ではないだろうか。


60歳以下独身男性にとって、生活保護というのは選択肢の順位としては結構低い筈だと思うのだ。

独身である。食っていくだけなら、他の手段を模索すべきだろう。


だが我々は比較的簡単に生活保護受給を提案するし、受給のサポートも行う。


どう考えても我々のアタマは麻痺している。


毎月延滞する。しかし延滞発生から10日くらい経過すると払ってくる。

ただ毎月、延滞する。それが何年も続いている。


優良顧客である。何の問題もない。そう思う──そんなわけがない!


2年も3年も毎月延滞しているのである。どこが優良顧客だ。


あなたの周囲で、家賃の延滞を2年も3年も繰り返している人間がいるだろうか?

あなたの兄弟姉妹は、恋人は、友人はそんな人間だろうか?


そんな人間はそうはいない。

何万円分もガチャを回してやっと出てくるSSRのカードみたいな連中なのだ。


しかしそんな人間ばかりを相手に仕事をしている家賃保証会社の管理(回収)担当者は──『世の中そんな人間ばっかりだ』と思ってしまう。



どう考えても我々のアタマは麻痺している。


消費者金融の頃は生活保護受給者と話をする事はあまりなかった。

当たり前だが生活保護の人間に消費者金融は貸付をしない。

だが家賃保証会社は違う。

延滞客のそれなりの割合を生活保護受給者や、もうどこからもカネを借りられない程に借金まみれの人間が占めている。


家賃を遅れる人間は、カードでの延滞などの比ではなく『最低辺』だと言われる。


そうなのかもしれない。


私はもう20年くらい『お金を払ってください』という仕事をしてきた。


麻痺したアタマでも感じる。


少し、疲れた。

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