第27話 家賃保証会社 その商品の欠陥

家賃保証会社へ保証料を払いたがらない人は多い。


支払わないと入居できないのだから入居時には払う。が、2年目以降の年間保証料を払いたがらない人は本当に多い。

この気持ちはわかる。納得感がない。


そもそも、受益者とコスト負担者の関係が歪なのだ。


家賃保証会社が入居者へ提供するサービスは、保証人代わりになる事。

保証会社と契約する金額は、住居用物件ならば大抵1ヶ月賃料の半額〜80%が相場だと思う。



賃貸人(部屋の貸主)や不動産会社へ提供するサービスも、入居者の保証人代わりになりますよ、という事なのだ。

保証会社が保証人代わりなのだから延滞リスクを回避できますよ、というサービスである。


当然、入居者とも賃貸人とも家賃保証会社は契約書を交わす。

保証人になりますよ。我々が入居者の保証人代わりになりますよ、延滞した場合は代わりに支払いますよ、という契約。シンプルに説明するなら、その図式だ。



入居者が保証会社へ支払う契約金額の5%~多い場合は30%程度が、不動産会社へキックバックされる。

このキックバックの事実が入居者へ説明される事はもちろん、無い。



年間保証料は大抵2年目から発生する。金額にして1万円程度。

仮に支払わなかったとしても保証は継続される事が多い。支払われなかったからといって保証が終了するのなら、そんな商品は賃貸人や不動産会社が使いたがらない。



不思議に思わないだろうか。



空き室が埋まれば賃料を得られるのは賃貸人(物件オーナー)。

入居希望者が入居できれば仲介手数料を受け取れるのは不動産会社。

入居をしたいのは入居者(賃借人)だ。


3者がそれぞれ、空き室が埋まる事でメリットを得る。



賃貸人は空き室を埋めたい。しかし賃料を延滞されれば困る。


不動産会社は、仲介手数料を取るために入居させたい。だから入居希望者が部屋を貸すに足る信用がある事を説明したい。


入居希望者は、入居がしたい。だから部屋を借してもらえる信用が自らにある事を証明したい。


この希望は、家賃保証会社との契約によって解決できる。



不思議に思わないだろうか。3者それぞれ利益を得るのに、費用を負担するのは入居希望者だけなのだ。


ここに家賃保証会社のサービスの納得感のなさの根本がある。



特に延滞をまったくしない9割方の入居者にとっては、これほど納得感の無いサービスもないとは思わないだろうか?



解決策をいくつか考えてみよう。

家賃保証会社と契約していて良かった──と思ってもらえれば納得感もでるのだから、たとえば賃料が割安になる、更新料が発生しない、などの入居者への実質的なキャッシュバック。


これに同意する賃貸人も不動産会社もいない事は容易に推察できる。



では、契約者だけが利用できる割引サイトなどの会員制サービスの提供。

いろいろな商品を多少安く買えるサイトを開設している会社もある。しかし当たり前だがAmazonなどに太刀打ちできるわけもないのは、一見すればわかる。



発想を変えて──受益者からまんべんなくカネをもらえば良いとは思わないだろうか?



保証の契約料が10万円なら、5万円は入居者が払う。50000円はオーナーから支払ってもらう。賃貸経営という商売上必要なコストではないか──という理屈は成り立つだろうか?


成り立つかもしれないが、たぶんうまくワークしない。


もし仮に、家賃保証の商品とは賃貸人・賃借人が折半して費用を払わなければならない、という法律ができたとしよう。



今ですら入居希望者から支払われる保証料から不動産会社へキックバックが行われている。その金額は年々増加傾向にある。

競争の激化から、家賃保証会社は明らかに消耗戦に入っている。


賃貸人・賃借人が折半して保証料を支払うという商品を売りに出したとする。


どうせ、賃貸人側の費用負担が発生しないようなキックバックが行われる。

保証会社が自社商品を使ってもらいたい一心でそのようなダンピングを提案するだろう。


いや、それでも入居希望者の負担は確かに半減するではないかと言われるかもしれない。


それではダメなのだ。


なぜなら、それでは家賃保証会社で働く私のお給料が下がってしまうではないか。それだけはダメだ。



私が思う解決策は、賃借人・賃貸人(というより物件)双方のスコアリングだ。

レインズのような、日本国中の全物件を登録し、そこが住みやすいのかどうかを入居者が点数をつける。

賃貸人は賃借人が良い借り手だったか──延滞しないとか、周囲に迷惑をかけないとか──を登録する。


もちろん、賃借人の情報を一般公開するのはマズいので、不動産会社か保証会社しか見れなくする。

勤務先や年収のデータは必要ない。



ちなみに貸金業では絶対使う信用情報機関。その家賃保証会社版の全国賃貸保証業協会で登録されるのは下記の情報。

(ちなみに貸金業と違って信用情報機関を使用する義務はない。ここの会員である会社は、全家賃保証会社の極一部だ)


氏名、生年月日、旧住所、電話番号、免許証番号等の個人特定番号、

保証対象物件名・部屋番号、保証対象物件住所、保証開始日、月額賃料、

保証終了日、入金額、代位弁済残高。


こんなものは必要ない。あまり詳しくしすぎると、弊害も発生する。しかも私が提案するのは、賃貸人の主観も含めた情報なのだ。

単に氏名、生年月日に加えて、良い入居者かどうかの5段階評価、程度で良い。

そこに保証会社から見た点数も入れる。ちゃんと年間保証料を払ってくれていれば──大変よくできました、だ。

この情報は、異議申立ての余地が残るように、本人だけには見れるようにしたい。



同時に、物件のスコアリングサイトも作る。これは、誰でも閲覧可能としたい。

入居の時の判断基準になるからだ。

ただし評価できるのは実際の入居者だけ。良い物件だったかどうかの5段階評価。



このスコアは、保証料の負担比率や金額を決める交渉材料にならないだろうか。


私が今回問題にしているのは、賃貸人(オーナー)も受益者なんだからコスト負担しろよ、という事である。


こういうサイトがあれば、あなたの物件はこんな評価なんですから、最高評価の入居者に全額保証料負担させるのは、あんまりじゃあないですか? と不動産会社も言いやすくならないだろうか?

保証会社も、こんなスコアの物件じゃあ、ちょっと保証料をオーナーも負担してもらえませんかねえ、と言えないだろうか?



株を買うのは、会社にカネを貸すという行為だ。だから利益から配当金を株主は得る。

これは正当だ。

株が暴落したり会社が破綻すれば株主は損をする。リスクを取っている。



しかし、現在の保証料の支払いは、受益者である賃貸人、不動産会社が一切リスクを取っていないのだ。



少子高齢化はどんどん進む。その是非は問うまい。

ただ、空き室は増える。貸し手の力は低下する。


だから少子高齢化はチャンスだと思う。


家賃保証会社の収益源は、保証料である。

仮に立て替えた家賃を100%回収したとしても、回収コストの分だけマイナスである。


保証料を納得感をもって支払ってもらえると、我々は嬉しい。

入居者だって、どうせ払うなら納得感をもって支払いたいだろう。


一つ。そもそも家賃保証会社を必要としなくなる方法はある。

自力救済を可能とすればいい。

延滞した──荷物も入居者も自力で叩き出す。


それが許されるなら、不動産会社のタチの悪い連中が、延滞した入居者を勝手に公然と追い出す。


保証会社は必要性が減少する。


「保証会社もつけなくていいです。敷金礼金0です」、という誘い文句で、仲介手数料だけを取って貧困層から入居させるだろう。


もちろん、自力救済条件の緩和は、どう考えても政治的に不可能だ。

治安も確実に悪化する。そんな社会を誰も、もちろん私も含めて、望まない。


更にいえば借地借家法を賃貸人有利に変更するのは、たぶん非現実的だ。


入居希望者のスコア、物件のスコアで相対的に保証料負担の比率を決めていくというシステムの構築はできないだろうか。

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