第7話 男と女の
2017年4月
東京都S区。
私より年長の同僚『Nさん』から電話がかかってきた。
昼食に呼ばれた。私もNさんも社外にいた。
それは問題ない。が、指定された待ち合わせ場所がマンション前だった。
不思議に思う。単純に、場所に対してだ。なんでマンション前?
駐車場へ車を停めて、マンション前のNさんに声をかける。
「なんでここで待ち合わせなんですか?」
聞けば、4ヶ月未納の契約者が退去するので、その立会いだという。
立会いといっても、単にカギを受け取って室内に何も無いかどうかを確認するだけ、が普通だ。もちろん物があれば撤去・処分するための同意を得る必要はある。
ただ、退去するというか「退去させた」が正解でもあったが。
「で、Nさんは、いま何してんすか?」
マンションを見上げて尋ねる。立会いが終了したのなら、他の場所で待ち合わせれば良いし、まだ終わってないなら、早く済ませるのが正しい。マンション前に立って何してたんだ?
晴天に映える白いマンション。
家賃は15~20万くらいかな、と一瞥して見当を付ける。
たぶん1LDKや1Kの集合体。間違いではないだろう。
「セックスが終わるの待ってんだよ」
……はあ?
唐突な言葉に意味が読み取れない。
聞けば、単身世帯だが彼女と同棲のような状態だったという。部屋を出ねばならない事は承服させたから、最後に室内での2人きりの1時間をプレゼントしたそうだ。
「1時間ならセックスできるだろ?」
こんな時間の無駄があるかよ。
私とは仕事のスタイルが違い過ぎる。私ならひたすら最短時間で終わらせる。
彼は仕事を楽しむタイプなのだろう。羨ましいと思うが、趣向が下衆に過ぎる。
「で、Nさんには何かメリットあるんですか?」
「あるわけないじゃん。ま、良い部屋でセックスできるのも最後だろうし、1時間2人で楽しみな、って言っただけ。あと5分で1時間だからさ、ちょっと待っててよ」
彼の雰囲気がそうさせるのか。
たぶん、私が同じ事をいえば、深刻に「これからどうしよう」という男女の話し合いの時間になると思う。
見上げたマンションのどこかの部屋ではセックスしているのだろうと本当に思う。あと5分で1時間終了なら、さすがに終わってもいるだろうが。
楽しいか?こんな状況でセックスして。
清く正しくあれば幸せになれるわけではない。
しかし、こんな男女交際は、普通嫌だろう。
さて、初めて彼氏或いは彼女の部屋に行ったとき見た方が良いポイントを、督促を業とするモテもしない私が書いてみよう。
まず玄関前では、ドアのヒンジを見てみよう。扉の蝶番の事だ。
そこにセロテープが張ってあれば、出入りの確認のためだ。ドアの開閉があればテープが切れる。切れてなければ開閉がない。この開閉──人の出入りの確認のために貼られている。
誰かが彼或いは彼女を監視している。
やたらと電話が鳴りまくるのも問題だ。
サラ金なら1日3回は電話する(したい)ので、スマホの画面に着信数30回など表示されていれば危険信号である。どう考えても、どんなリア充だってそんなに電話、鳴らないだろう?
それに普通、画面を確認すれば表示は消える。
営業マンなら大抵確認はするだろうから、そんなに長時間表示が残らないと思う。
それ以前に私用電話を仕事用にはあまり使わないだろうが。
いわゆる消費者金融での、一社あたりの貸出額にはその会社毎に上限が当然ある。
いまは総量規制(全社トータルでどこまで貸せるか)もあって基準も変化していると思うが、以前は、「全部でいくら借りているか?」よりも「何社から借りているか?」に重きを置いていた。
1社から300万借りているより4社から100万借りている方が審査は通りにくい場合があった。
加入しているのが社会保険なら5社までなら貸出OK、ただし国民保険なら4社まで、なども基準に加わる。
ある大手消費者金融ならば、**県在住の人間は貸出上限額が低く抑えられる、などという根拠が全くわからない基準もあった。
ただ、新規の貸出を作るのも目的の一つだから、どんな人間にだって貸出できるカードを発行したいのも、一方の事実でもあるのだ。
マニュアルで排除されない人間相手ならば、回収できなくてもダメージにならない範囲ならば貸出はしたいという本音があるにはあるのだ。
払えない場合は当然通知が来る。色々な所からたくさん来る。
だから、ポストに債権回収会社や法律事務所からの通知が大量に溜っていたらレッドアラーム。特に集合ポストからはみ出す程に溜まっていたらエマージェンシーといっても良い。
普通、ポストにものがあったら処理するものだ。
それをしないのは、するのもめんどうなくらい嫌なものが沢山きているからか、あまりにルーズだからだろう。
裁判所からの通知がきていればリーチどころかハネ満確定だが、いずれにせよその彼或いは彼女はオススメしない。
ただ、20代中盤の健康な──人にやたらと喧嘩を売るくらい──男性なのに、生活保護を受けて彼女と同棲している連中もいる。
まさに捨てる神あれば拾う神ありというか、蓼食う虫も好き好というか、そんな男女交際もあるのだろう。
幸せになる権利は誰にもあるが、延滞はしないでくれ。
延滞がなくなれば私の仕事もなくなるかもしれないが、それでも、だ。
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