第七話 「両手に花を持った原人。」

 「何もない。」


 瑞月がポツリと呟く。


 ー ベッドが二つ……。


 ここは見覚えのある場所。


 ー さっきまでヘルプコミュニティに居たはずじゃ……。


 どうやら家に戻って来てしまったらしい。


 ー という事は死んでしまったのか……え!?は!?


 ヘルプコミュティでメモをとってた所までの記憶が残っている。


 その後の事は思い出せない。一体何が起きたのだろう。


 ー 記憶を受け継いで生き返ったのか……?


 「瑞月も死んじゃったんだな。」


 「え?……死んだって何?」


 「いや、ここに居るって事は一緒に亡くなったんだと思って。」


 「何言ってるの?」


 ー あれ?通じてない?


 「何って……この前にヘルプコミュニティに居たじゃん。」


 「どこ?さっきの所って転入者案内所でしょ?」


 どうやら記憶が残ってるのは俺だけらしい……。


 ー 本当に二人とも死んだって事で良いんだよな?


 ふとポケットに手を入れるとメモが入っていた。


 メモもここにあるという事はヘルプコミュニティに居たのは事実で生き返ったという事にする。


 「瑞月、これ。」


 「何?」


 瑞月にメモを手渡す。


 「それおもてにはここの地図が描かれてんだけど読めないからメモ代わりにした。」


 「地図?いつ貰ったの?」


 「勿論、ここでだよ。」


 真顔で見つめられる。


 「そこに書いてあるのはここでの事。」


 「死ぬとこの世界で初めて来た所に生き返る……って。」


 「そう。」


 「……最後の所にヘルプコミュニティって書いてある……ここの前に居た所?」


 「そういう事。俺は覚えてるんだけどね。」


 「瑞月は覚えてない。」


 「なんで俺だけなんだろうな……。」


 「ここに書いている事は全部本当なの?」


 ー まぁ、疑うのも無理ないよな。 


 「そうだよ。ちょっと貸して。」


 瑞月から受け取り目を通すと鮮明に記憶が蘇っていく。


 「思い出せる……もしかして紙に記したから記憶として残ったのか……?」


 「どういう事?」


 「メモに書いている通りでこの世界に文字が無いって事が解ったんだよ。死ぬ前に。」


 「え?」


 そして瑞月に一つ一つ丁寧にメモに書いてある事を説明していった。


 「そうか、解ったぞ。」


 「何が?」


 「どうして俺だけしか記憶が無いのか。まだ確定とは言わないけれど。メモを書いた事によって記憶を受け継ぐ事に成功したんだよ、きっと。」


 「それしか無いと思う。」


 「分かりきっていたような反応だな。」


 「話を聞いていたらなんとなく。」


 要するにゲームで言うセーブ機能。ゲームでも日記を書いたりしてセーブなんて事があるがそれに似たものなのだろう。


 「とりあえずヘルプコミュニティに戻ろう。色々とやらなきゃ行けない事が沢山あるしな。」


 「うん。」


 道を覚えていた俺は寄り道はせずに瑞月と共にヘルプコミュニティまで足を進めた。


 「ガチャ」


 「よく来て……おかえりなさいナモ。」


 「おかえりなさい。」


 ナモ兄さんとハイルに出迎えられる。


 「どうも、ハイルまだ居たんだな。」


 「うん。」


 瑞月にとっては初対面という扱いになるのでやや混乱している模様。


 「さて話を聞こうか。俺ら二人さっきまでここに居たよな?」


 「居たナモ。」


 「ここで光って空まで昇ったのか?」


 「そうナモ。」


 「一体何があったんだ?」


 「わからないナモ。フードを被った人が居たのは覚えてるナモ。」


 「僕もわからない。気付いた時には光っていた。」


 「そうか……。でもここで死んだのは確かか…。」


 初日で中々の第一歩を踏み出した。ハイルやナモ兄さんには敢えて記憶を受け継ぐ方法は封印する事にした。変に広まってしまうとおかしな事になり兼ねない為である。


 「マーケットに紙とペンとかって置いてあるのか?」


 「あるナモ。紙を重ねたスケッチブックナモ。」


 「したらハイル、それを貰ったら魔法を教えてくれるっていう人の所に行こう。」


 「わかった。」


 俺と瑞月はスケッチブックとペンの他に荷物を持ち運ぶためにリュックのような袋を貰った。


 ヘルプコミュニティに戻り早速、俺と瑞月は出来事や情報を書き記す。


 「これで大丈夫だな、ナモ兄さん世話になった。」

 

 「誰がナモ兄さんナモ?……ミーがナモ兄さんナモ!?」


 「え……だって名前とかわからないし。」


 「名前は『コージ』ナモ。」


 ー 日本人か!?


 思わず吹き出しそうになったが堪える。


 俺と瑞月とハイルはヘルプコミュニティを出発する。


 「今から行く所は遠いのか?」


 「門を越える。」


 「門!?城か!?」


 「少し大きな建物。」


 「それで遠いのか?」


 「少し。」


 マーケットやヘルプコミュニティとは反対側らしく引き返す事に。


 歩く事、体感一時間程。


 「やっと門が見えてきた 、ゼェゼェ……。」


 スキル・運動不足が絶賛発動されている。


 「愁、もう疲れたの?」


 瑞月は疲れてすらいなそうだ。


 「ハイル……ゼェ……ここでいいんだよな?……ゼェゼェ……。」


 「うん。」


 城という程でも無いが立派である。


 「ハイルさん、お久しぶりです。」


 門の前で立ち尽くしているとと綺麗な女性が出迎える。


 瞳の色は濃い水色で髪の色は薄いライトブルー。めちゃくちゃ透き通っている。前髪が長く片目が隠れている。


 「ハイルさんのお知り合いですか?とても疲れているようですが……。」


 「大丈夫だ……ゼェゼェ……。」


 「とりあえず中へ御入りください。」


 広い庭を通り建物の中へと案内される。


 「ここで休んでいてください。」


 そう言うとその女性は他の部屋へと消える。


 建物の中はまぁそれはもうとても立派で。


 瑞月と俺は高そうなソファに腰掛ける。ハイルは他の部屋へと移動してしまう。


 「ああー、疲れた。本当瑞月やべーよ。ずっと家に居るとは思えないわ。」


 「どういう事?ちょっと歩いただけだよ?」


 「大丈夫ですか?」


 女性が戻ってくる。


 「あぁ、なんとか落ち着いた。ありがとう。」  


 「いえ、問題なければ大丈夫です。わたくしは『スティーリア・フロスト』と申します。皆からは『スティーリア』と呼ばれていますがどうぞお好きに。」 


 「俺の名前は愁、んでこっちが瑞月。よろしく、スティーリア。」


 「素敵なお名前です……今日はどうしてこちらに?」


 「あ、そうだ。ハイルに魔法を教えてくれる人が居ると聞いて案内されて来た。」


 「そうだったんですね、ハイルさんが挨拶に行っているのでもう少ししたら来ると思いますよ。」


 「じゃあここで大人しくしておくか。」


 「ここでは初めてお会いするのでどこか違う街から来たのですか?」


 「いや、違うけど……いせか、あ、通じないもんな。」

 

 「異世界からですか?」


 ー 通じた!?


 「え!?分かるのか!?」


 「はい、もちろんですよ。」


 「まぁ、その……異世界から来た。」


 「では、ようこそですね。」


 微笑む彼女の笑顔に胸を撃たれる。むちゃくちゃ可愛い。ここに来て初めての女性だからなのかつい高鳴ってしまう。


 「そんな堅苦しくなくて良いよ。」


 「いえ、良いのですよ。わたくしはこれで慣れているので。」


 「そうか。」


 スティーリアは瑞月に視線を移す。


 「瑞月さんの髪とても綺麗ですね……。」


 「え、あ、はい。ピンク好きなんです。」


 瑞月も女性相手には少し緊張しているようだ。


 「少し触ってもよろしいですか?」


 「ど、どうぞ……。」


 ー なんだこの展開!?


 「では失礼して。」


 スティーリアの白く美しい手は瑞月の毎日丁寧に手入れされた髪をゆっくりと撫でる。瑞月は思わずビクッとし目を瞑る。


 「柔らかい……。ありがとうございます。」


 手を離すとまた笑顔で礼を言う。


 瑞月は顔を真っ赤にし膝へ顔を隠す。


 「どうしたんですか?」


 「大丈夫、照れてるだけだよ。」


 俺が代わりに答える。


 「可愛いです。」


 ー 貴方もとても可愛いです!!


 思うだけで言う勇気は持ち合わせていない。


 「まだ来ないのか?」


 「今丁度来ましたよ。……『レイラ』さんお客様が待っていますよ。」

 

 「ステア、ご苦労さま。」


 ハイルを連れた金色にライトグリーンメッシュのヘアーをした女性は俺達にハローした。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夢死後のアンリアルライフ。×妄想シミュは使いよう。 小春日和。 @Hqru_589

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ