SEASON3:This is my life like THE STAR
CASE:The DEVIL 朝山数多と奈落村事件
1 プロローグ
これまで、六つの話を語ってきた。
僕の終生の恋人である夜島帳と、彼女が部長を務めてきた
現役女子高生DJである笹原色が、なぜ万年一人部活動だった僕の所属する弁論部に入部し、後輩となったのかという経緯。
女子プロボクサーであり僕の姉とも妹ともつかない切槍
千回以上の勝負を負けてきた超不幸体質の
高校生探偵たる僕にすら話しても信じてもらえないだろうと推測するだけの過去を持つ謎の少年
そして。
再会。
五年前の奈落村事件で死んでいたと思われていた、神の目を求める新興宗教心眼会の
こうして並べて見ると、僕の人生のわずか断片に過ぎない、高校三年生の夏はあまりにも冒険に満ちていた。
いや。
これこそが、日常か。
探偵の日常が探偵的とは限らない、というのは土台、無理な話なのかもしれないと思わされる。
まあそれはともかくとして。
まあ。
まあまあ。
ここまで六編でだいたい、僕、猫目石瓦礫という人間とその周りに蠢く人たちについてはだいたい分かってくれたのではないかと思う。
いや分かんねえよと言いたくなる各位についてはさておき。
そら、ねえ。じゃあ君は、自分という人間を説明するのに高校三年生の夏休みに起きた出来事だけを抜き出して、それで十分な解説とすることができるのかと言いたくなる。無理でしょ。他称高校生探偵であり、他称名探偵の後継者である僕だからこそこの短い一夏の間に様々なことに巻き込まれ、こうして長々とした物語として語れているのであって、たいていの人間は一夏にここまで語れることはないだろう。
だから僕のことをこのわずかな期間で知ろうというのがまず無理な話だ。
とはいえ、だ。
この物語が、タロット館事件で変化し始めた僕という人間と、周囲を語るための物語であり。
おそらく秋学期から始まる新たな非日常への離陸期間であると考えるのなら。
可能な限り語っておいて、準備とするべきなのは確かだろう。
なんか聞いた話では、既に『最後の事件』と銘打った二月から三月ごろの物語が語られているとか、僕の娘を名乗る殺人鬼が出てくる短編があるとかかしましいけれど、夏休み時点の僕にとって、それは知ったことではない。
まだ僕という人間について、探偵について語るべきことは多々ある。
そして僕の周りの人間についても。
例えば僕はまだ、友人のひとりであり、あの大企業タチバナグループ総帥の娘である橘花音との関係を語っていない。
彼女と知り合うきっかけになり、哀歌の兄となるきっかけともなったタチバナドームランド事件についても話していない。
例えば僕はまだ、上等高校の相談役である紫崎雪垣の
彼女を知るきっかけになった連続刺青魔事件、その延長戦もとい後始末や、この夏休みに彼女と巻き込まれたミステリアスラグーン事件など、いくつかの番外編についてまだ口を閉ざしている。
例えば僕はまだ、今のクラスメイトであり友人でもある、元グルメサイエンス部副部長の千草千里について述べていない。
彼女と初めて出会った、朱雀女学院と心眼会の大立ち回りとその後の顛末、そして高校一年生から二年生にかけて起きたいくつかのちょっとした謎解きについてまだ物していない。
そして例えば。
僕はまだ、奈落村事件の四人目の生還者について説明していない。
奈落村事件。
僕が中学一年生の夏に遭遇した、あの事件について。
当時死亡していたと思われていた真名子を除き、あの事件には生還者が四人いた。 ひとりは言わずもがな僕。ひとりは紫崎雪垣、ひとりは渡利真冬。
そしてもうひとり。
奈落村の住人が、生還者としていた。
名前を朝山数多という。
朝山数多。
朝山、という名字で何かピンとくる人もいるかもしれないが、その想像は不正確だとあらかじめ釘を刺させてもらう。
彼が朝山姓を名乗ったのは奈落村事件の後のことであり、当時の彼はただの数多くんだった。おそらく名字は、戸籍上存在していたはずだが、僕は彼がそれを名乗ったのを聞いたことがない。つまり、そういうことなのだろうと思っている。
さてここから、物語を再び語るとしよう。
SEASON1は、僕の物語だった。
僕の恋人、僕の後輩、僕の姉の物語。語りつくした彼女、語り始めた彼女、語るべきだった彼女たちとの物語。
SEASON2は、妹の物語だった。
血はつながらず、戸籍上の関係すらないが、確かに僕の妹である木野哀歌と、彼女をとりまく人物模様の物語。そこに無理くり存在を差し挟んでくるあたり、目童真名子という女の強烈さはいかんなく発揮されているが。
そしてここからは、補足の物語だ。
僕が語るべきだった、しかしこれまでおざなりにしてきた物語について。
当然、その物語そのものを語ることはできない。これはあくまで僕の、一夏の日常に過ぎないのだから。それぞれの事件については、日を改めて語り直すとしよう。
だからここから語られるのは、その事件の後。
事件が僕や、その周囲にどういう影響を及ぼしたのかという物語だ。
まずは、奈落村事件から。
物語はお盆の
事件被害者を悼む、毎年恒例の式典から始まる。
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