SEASON END 海亀とスフィンクスと轍と
復習編 母と僕と妹たちと
運命の分岐点はどこにある?
よく考える。もしあのとき、別の選択をしていたら今の人生はどうなっていただろうかと。
十四年前、両親が殺された。もしあの時、レコードをもう一曲聞く前に「時間だから」と音楽教室を後にしていたら、僕はその現場に居合わせて、一緒に殺されていただろう。
あるいはその後、後に保護者となる女性と出会った時、「あたしと暮らす?」なんて冗談めいて誘ったあいつの言葉に肯かなかったら、僕は今みたいに多くの事件に巻き込まれていただろうか。
九年前、クラスメイトが教室で死んだ。友達の名探偵は「これは殺人だ」と言った。そいつの言うことは常に正しかったのに、どうしてかその時だけ「これは自殺だ」と思った。警察が動くより先に、あいつが動くより先にそれを伝えていたら、あいつは僕の前から消えていなかっただろうか。
あるいは「あなたはどう思う?」と、そいつの従姉妹に問われたとき、ただ肩をすくめてやり過ごしていたら、僕はあいつの代わりに探偵をしなくて済んだかもしれない。
五年前、所属していた中学の部活が半ば拉致されて、新興宗教団体の根城になった村に連れ込まれた。そこで「お前が死ねばみんなを解放しよう」と言われて、唯々諾々と死んでいたら、部活のみんなは死ななかったかもしれない。
あるいは僕が柄になく生きたいと願わなければ、あそこでみんなと一緒に焼け死んでいたかもしれない。
そしてつい最近、再会した名探偵の誘い――愛の告白に近い誘惑に肯いていたら、僕は今とは違う人の隣で肌のぬくもりを味わっていたのだろうか。
考える。
考える。
考える。
考える。
そういえば、僕が不可解な事象に遭遇したとき、それをどう解きほぐすのか、その方法をある人は「手あたり次第」と評した。
目の前で人が死んでいる。
事故の可能性は? ない。
自殺の可能性は? ない。
事件の可能性は? ある。
凶器は落ちている包丁? 刺さっているナイフ? その水滴は氷柱が溶けた跡か? 犯人が凶器を持ち帰ったのでは? その刺傷は本当に死因なのか?
考える。
考える。
考える。
考える。
そうやって僕が考えるのはきっと、僕が名探偵ならぬ探偵代理だからというだけではないのだろう。いつも考えている。もしあれが別の選択だったら。今一つの可能性が存在していたら?
しかし答えの終着点はいつも、同じところ。結局、今この場所この瞬間に到達していただろうというありきたりなもの。歴史の軌道修正能力みたいなSF的な話でもなく、僕が猫目石瓦礫である限りはどうあがいてもここに到達しただろうという確信と諦念。
木野悲哀に誘われるまま家族ごっこのようなものを演じ。
夜島錦に引っ張られ名探偵の助手をやらされて。
夜島帳と出会って名探偵をその座から引きずり降ろし。
木野哀歌と出会って探偵代理以外の役割を知る。
それが僕の運命なのだと、そう思う時がたまにある。
「そりゃあ、わたしも同じようなことを考えるよ。あの時、別のことをしてたらなあって。ビジュアルノベルゲームみたいに、選択肢を総当たりしたらもっといい結末を迎えれないかなって」
と、僕の考えに同意したのが
切槍愛珠。僕の妹である木野哀歌の実の姉で、僕の保護者にあたる木野悲哀の実の娘――長女にあたる。
現在は引退を考え次の挑戦を何にしようか優柔不断に悩む、現役女子高生プロボクサーであり。
過去は、実の両親と姉を殺した殺人犯である。
四歳の頃、強盗に両親を殺された僕とはむしろ真逆と言ってもいい存在で、だからというわけでもないだろうけど、彼女の結論も僕とは真逆だった。
「たぶん、あったんだよ。わたしがあの日、大人しく殺されていれば三人を殺さなかったし。大暴れして大怪我をお互いに負う程度に終わるケースもあった。でも現実はそうじゃなかった」
拳を前に突き出して、彼女は答えた。
「だからわたしは武力を得た。また同じような場面が訪れた時、もっといい選択肢を選べるように。今度は自分も他人も傷つかないで終われるように。…………っていうのはわたしに戦闘能力を仕込んだ人の言い分だけどね。わたしも同じことを思うよ」
まあ、その結果がプロボクサーだとは、二年前の彼女も想定はしていなかっただろうけど。
「二の轍は踏まない。二の舞は踊らない。その意志と、それを成し遂げる能力をもって未来に進めばいい。というか、そういうことにしておかないといけない。そうじゃないと、一度失敗した人間は、前に進めない理屈になるから」
過去を思考する僕に対し、彼女は未来を思考した。考えることは真逆だが、その答えを聞いた時、僕は彼女を妹と考えていいだろうとぼんやり感じた。その感覚は僕自身言語化不可能だったけれど、実際、哀歌の姉なら僕の妹に当たるわけだから間違ってはいない。未だに二人の実の母である僕自身の保護者である悲哀のことを、僕は便宜上以外で母と呼んだことはないのだが。
「それは理屈で、まったくその通りだと思うけど、それでも僕は過去のことを考えるんだよ」
あるいは、言う必要のまったくない自身の主張を、彼女にならぶつけてもいいと思ったから、彼女を妹と認識したのかもしれないが。
「二の轍を踏んでいないか。二の舞を踊っていないか。まあ、僕は案外同じようなことを繰り返しちゃう人間なんだけどさ」
「くるくる回って元の鞘、ね。木野悲哀――あんたとわたしのお母さんともそうなれるといいんだけどね」
そう。
二年前、この時この瞬間、僕たちが会話をしている頃、木野悲哀は失踪していた。
もっと露骨に言えば、僕と哀歌を捨てた。それは僕にとっては予定調和の出来事で、彼女にとっては二度目の経験だった。まあ、実態は捨てたのではなく、まさに僕の目の前で話している彼女――切槍愛珠の捜索のための旅に出ていて、同時に悲哀と愛珠の両方に向かってきていた切槍家の毒牙から僕たちを守るための失踪だったのだが、それは別の話で。
勝手な推測をするなら、たぶん愛珠が僕を弟と認識したのもこの時だっただろう。
くるくる回って元の鞘。
二年前の僕は、愛珠と彼女の実の兄を含めて家族ごっこが再開されるとはあまり考えていなかったが、ここで仮に真剣に悲哀との関係修復を望んでも、自棄になって悲哀との関係を断絶しようとしても同じ結果になっていただろう。
本当に?
本当に、違う世界は存在しないというのか?
「………………あれは何をしているんだ?」
夏休みのある日。実に夏らしい太陽の照りに嫌気がさしながらも上等高校に登校し、午前の補習を受け終わったところで僕のスマホに着信があった。相手は悲哀で、夕飯は外食にするから午後に迎えに行く。先に朱雀女学院にいる哀歌を回収してから向かう。時間は六時過ぎになるから、それまではどこにいてもいいけど六時過ぎにどこにいるか教えろ。それから、愛珠はバイクの件があるから早めにこのことを伝えるように。簡潔にまとめると以上のようなものだった。
僕、哀歌、悲哀の三人は互いに家事をローテーションしているのだが、悲哀が当番になると、何事も金で解決しようとする。実に大人な対応だ。掃除当番だからといってロボット掃除機を買ってきたこともある。ちなみに愛珠は普段は遠く関東の地で一人暮らしの身なので、帰省中(という表現も適切じゃないが)の彼女はローテーションのカウントには入っていない。まあどうせ、プロボクサーとして賞金を稼いでいる上に思考回路が血のつながりを感じさせる程度には似ている愛珠のことだから、悲哀と同じような結末を辿るだけだろうし。
愛珠への連絡は自分でしろよという話だが、機械音痴の彼女は携帯電話を携帯しないことに定評があり、連絡が取れないことに業を煮やしたジムのマネージャーに、背中にスマホをガムテープで貼り付けられた逸話がある。例によって例のごとく、スマホを持たずに出かけているという始末なのだ。
じゃあなんで僕のところに連絡しろという厳命が下ったのかと言えば、彼女が現在上等高校にいるからだ。彼女の所属する高校は本来、草霧高校という私立学校なのだが、帰省中の現在、上等高校の実行委員会に顔を出している。だから実行委員会の詰め所にいるだろうと見当をつけ、恋人の帳とキャッキャウフフとランチタイムを挟んだ後、そこへ向かった。その第一声が――――。
「………………あれは何をしているんだ?」
だったのである。
実行委員会――上等高校の行事一切を取り仕切るこの委員会の詰め所は一般的な教室のそれと同じ程度である。とはいえ、半分物置と化していて、特に文化祭の準備が忙しいこの時期はあちこちに段ボール箱が積まれていたり、机の上に紙や布の端切れが散らばっていたりと雑然としている。
そんな中で愛珠は、数人の実行委員生徒と一緒に昼食を採っていたのだろう。長机にパイプ椅子でたむろして、各々弁当であったり、菓子パンの袋であったりを目の前で広げている。しかしそのどれもが食べかけで、彼女たちは目の前のタブレットにじっと見入っている。
「知らない」
僕の問いに答えたのは、詰め所の隅でちょうど昼食を終えたらしい渡利真冬であった。ここしばらくは調子が悪いように見えると愛珠は言っていたが、僕の目にはいつも通りの険のある瞳がこっちを睨むように見つめている。元気なのは良いことだ。
「瑪瑙ちゃんがタブレットを開いて、何かやってるのは見てたけど。ずっと遠くで見てただけだし、話も聞いてなかった」
「ふうん。でもなんで一人で食べてたんだ?」
「………………………………」
彼女の眼は一層鋭くなって、愛珠の方を睨んだ。
「ああ、うん、そうか」
渡利さんと愛珠の相性は非常に悪い。まあそりゃ、かたや奈落村事件という、百余名が関わり、うち彼女自身を含め(僕も含むんだけど)四名の生存者しか出さなかった大事件の生存者、つまり事件被害者。かたや家族を殺し(少なくとも渡利さんの目には)のうのうと生きているように見える愛珠だから、相性がいいはずもない。
というか、本来は実行委員会そのものとも相性が最悪のはずなのだが。僕は愛珠が割合普通に馴染んでいることに驚いている。
「あの子、なんとかならない?」
「僕に言うなよ。来てほしくないなら、自分から言えばいい」
「………………いや、他の委員会の子たちはそう考えてないみたいだから。わたしの独り相撲みたいなもん。みんな、あの事件を忘れたわけでもないだろうってのに、呑気なんだか……」
あの事件。
七月末から八月上旬にかけて、僕は愛知県南部の太平洋に浮かぶ架空島、そこに建つ朝山家所有の別荘タロット館で事件に巻き込まれた。著名な推理作家たちを集めたお嬢様のお遊びに、お嬢様の友人である帳の粋な計らい(ああ、本当に粋だったとも!)で巻き込まれた僕だが、なんとか無事生還した。その事件の要点を三つにまとめると『①名探偵と名高いミステリ作家から死ぬ連続殺人事件!』『②館の主であるお嬢様は警察が大っ嫌いで通報なんてもってのほか』『③じゃあ君、探偵やろうか』という非常に淡白なものだった。密室殺人にクローズドサークルなんてありきたりじゃないか。
いやまったく。
が、世間に『タロット館事件』と呼ばれるその事件のことを渡利さんは言っているのではない。重要なのは同時期に、上等高校で別の殺人事件が発生したことだ。これも要点を三つにまとめると『①実行委員会の合宿が例年通り開催』『②校舎の壊れた時計に死体がぶら下がっている!』『③被害者も加害者も実行委員会の生徒? 最後は自首に持って行って大団円』という淡白なものになっている。
そりゃあ、同じ組織内、集団内で生きていればうらみつらみもあるだろう。それがふとした拍子に殺意になって、時計に吊るすことくらいはするだろう。学校で誰かが死ぬなんてそう珍しい事じゃない。世界に目を向ければ今この瞬間だって誰かは死んでいる。それがたまたま、自分たちの見える範囲に他殺という形で現れただけ。無論これはタロット館についても同じこと。
しかし世間は騒ぐし実行委員会の面々は精神的な苦痛を負った。幸いだったのはタロット館事件の方がニュースバリューが高いと判断されたのか、上等高校での事件――その事件を解決した探偵役ならぬ相談役の助手曰く『殺人恋文』事件――はあまり報道されなかった。まあ、幸不幸はコインの表と裏。彼らの幸運は僕の不運というわけで、僕はばっちり「名探偵に変わる新たな高校生探偵誕生か!?」という見出しとともに顔写真つきで週刊誌に載せられしまった。その週刊誌は以前にも未成年加害者を実名報道するなど問題のあった週刊誌だったので僕の件も無事問題視してもらえて、すぐに回収という段取りになったのが幸いだ。まさに表と裏。連中にとっては刷った雑誌がパーになった不運となったわけだ。
「それともわたしの方がおかしいのかもね」
と、珍しく自嘲気味に渡利さんが言う。
「どうして実行委員の仲間が仲間を殺す事件を経験した後で、元殺人犯と仲良くなろうって発想になるの?」
「……………………」
それに関しては僕にも一抹の原因があるので、何も言わなかった。
上等高校は事件によって精神的苦痛を負った生徒をケアするため、カウンセラーを常駐させるようになった。しかし一方で、ある人間の入れ知恵で、妙な対応策を考慮し、僕にその対応を求めてきた。
それが「事件関係者同士の交流」である。本来はたぶん、殺人事件で友達を失った者同士の交流とかを考えていたんだろうけど………………。
今いるのは元加害者である。
どうしてこうなった。
しかしまあ、たぶん必要なことだろうと僕は勝手かつ無責任に思うのだった。
なぜなら殺された被害者も人間で。
殺した加害者も人間だから。
決して殺人犯――加害者の悪魔化は許されない。自分たちの集団の中、敬慕すべき隣人が殺人犯に化けるかもしれないという可能性を、悪魔化は無視する。まるで白紙の上に落ちた黒墨の一滴、あるいはショッピングモールに現れた戦隊ヒーローの悪役怪人か。そういう「突発的で、理解できない存在」にしてしまう。
それじゃあ、犯人は、加害者は、戻ってこられない。この学校にも、この世界にも。
そのことを一番知っているのが愛珠で、だから僕の提案にも二つ返事で了解して、完全アウェーの上等高校にやってきて。
気づけばそのアウェーをホームにしてしまっている。本来はホームであるはずの渡利さんを押しのけんばかりの勢いで。
「それにしても………………」
自嘲気味、かつ敵対的な空気を少し弱めて、今度は呆れたような顔で渡利さんは愛珠を見た。
「ああいうのを、誰とでも友達になれるタイプっていうのかしらね?」
「いや、愛珠はそうでもないと思うけど……」
現に友達になれていない渡利さんがいる。彼女は実の兄との関係を(そこに微妙な空気感はあるが)――かつて自身を虐待した家族の一味である兄との関係を改善したという成功体験があるから、たぶん渡利さんとも最終的には友達になる気くらいはあるだろう。しかし絶対に友達になれないタイプだっていて、それは言うまでもなく彼女を悪魔化する連中のことだ。そういう意味では、ごく一部を除いて『犯罪関係者同士の交流』としてはいびつなこの関係も結果オーライに終わりそうではある。切槍愛珠というイレギュラーの存在が、結果的に事件のことからみんなの思考を引きはがし、回復の手助けになっているらしい。
「んん? ああ、弟。来てたんだ」
タブレットを見ていた愛珠がこちらを振り返る。哀歌もそうだが、スポーツ選手とは思えないくらい彼女の髪は長く、背中を覆うどころか腰から臀部辺りまで届く。普段は伸ばすまま流れるままにしているその黒髪はさすがに暑苦しいと見えて、後頭部の高いところで縛ってポニーテールにしている。
「来てたぞ、妹」
愛珠は立ち上がり、こちらに向かってくる。途中、かけていた眼鏡を外してポロシャツの胸ポケットにかける。部外者である愛珠は常に入場許可証を首から掛けているが、それだけでは事情を知らない生徒を威圧しかねないため、カモフラージュで現在は上等高校の制服を着ている。実際、初めて来たときはきちんと手順を踏んで入場許可証まで首にかけていたのに大騒ぎになったのだ。具体的には彼女の私服が赤かったために赤色嫌いの相談役様が卒倒し、それを愛珠が襲ったと勘違いされて彼女は教室の天井を二歩ほど歩くアクロバットを披露する羽目になった。
学校という場所が、制服姿でない同年代の少年少女が異様に目立つ場であることは確かだ。現在の彼女は、上等高校の夏服であるポロシャツとスラックス姿である。髪型もあってスポーティな彼女には似合うかと思いきや、どうもちぐはぐな感じがそこにはあった。サイズが合っていないからだろうか。
なにせ彼女が着る制服は本来は僕のものなのだから。
「いやー、暑いよね。この制服。ズボンって動きやすいけど、サイズが合ってないのもあってまとわりつくみたいでうざったくて」
「頼むからそれをどうにかしようとして裁ちバサミを取り出すとかは止めてくれよ。三年生の最後に夏服を新調するとか悲しすぎるからな」
「さすがにしないって」
最初は帳から借りる予定だったが、サイズが致命的に合わなかった。身長差もあるが、体格差が大きい。単に帳と愛珠をどちらとも華奢だと捉えていた僕には驚きの新事実である。まあ、窓辺で月明かりに照らされながら本でも読んでいるのが似合いそうな帳と、マジのガチのグラップラーな愛珠で体格が同じはずもなく、これは単に僕の人体理解と認識能力の問題だ。
帳の細さは手折れそうな花の茎を思わせるが、愛珠の細さは宿木の蔓のしなやかさと強情さに近いのだろう。その二つの差を意識して妹の哀歌を見ると、彼女も愛珠寄りの体格だったなと思い出す。趣味嗜好は(当人は不本意だろうけど)帳寄りで文学少女的なのに。意外なこともある。
とか、まあ、恋人や妹たちの肉体美の話はどうでもよくて、要するに同じサイズ不一致でもまだましな僕の制服を着ている次第だった――という話もどうでもよくて、本題である。
「悲哀から連絡があった。今日の夕飯は外食だから六時過ぎに迎えに行くって。お前は今日もバイクでこっちに来ただろうから、そのバイクをどうするか考えておけって」
「お母さんが?」
「お前のお母さまが」
わざと哀歌の口調を真似てみた。愛珠は素直に悲哀を「お母さん」と呼ぶが、いまだに哀歌は「お母さま」と呼ぶ。敬っているというより壁を作っているというのが正しいだろう。
「りょーかい。ああ、またスマホ持ってくるの忘れてた。そうだね、さすがにバイクを学校の駐輪場に置きっぱなしってわけにはいかないだろうし、わたしは今日は早く帰ろうかな。それで、お母さんと一緒に車で哀歌と瓦礫の回収行脚に参加するって流れで」
「そう伝えておく」
早速スマホを開いてLINEで悲哀に連絡を取る。その最中、果敢にも渡利さんは愛珠に話しかけた。
「何してたの?」
「え?」
「ほら、さっきからタブレットをみんなして睨んで。音が出てる様子もないから、ゲームや動画ってわけじゃないでしょう」
「あ、そうそう。真冬ちゃんなら分かるかも」
「…………………………」
肝が冷えたぞ。真冬ちゃんだけに。
なに、
命知らずかよ。
中学時代からの付き合いの僕でもまだ苗字呼びだぞ。まあ僕は愛珠ほどでないにしろあまり彼女に好意的に見てもらえていないらしい(帳がそう言ってたからそうなんだろう)からそうなるけど、比較的交友のある相談役の馬鹿でも苗字呼びだぞ。
というか中高通して渡利さんが真冬ちゃん呼びされたところなんて僕は見たことも聞いたこともない。
「わ、分かるって、何が?」
真冬ちゃん呼びには彼女自身触れない方針なのか、渡利さんは話の方向を名前から遠ざけた。
「ちょっと今、流行ってるアプリがあって。いやわたしはそういうのよく分からないんだけど、クイズっていうの?」
愛珠の言葉はあまり要領を得ない。が、二人が会話をしているとぞろぞろと実行委員会のメンバーが集ってきた。その中の一人、タブレットの持ち主である一年生の女子生徒――六角瑪瑙さんが代表して説明を引き継ぐ。
「先輩方は『ウミガメのスープ』というのをご存知ですか?」
そしてタブレットの画面を、僕と渡利さんの二人に見やすいよう示し………………って、あれ?
これ、僕も加わる流れ?
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