惨めな人
私の母は、短気で利己的だ。
「全く、来るのが遅いわ!」
いきなり怒鳴られた医者達は溜まったもんじゃ無いだろう。だが、母のターンはこれで終わりでは無かった。母は、一番偉そうな医者に一歩一歩近寄りながら質問責めにしていった。
「この子は入院するんですか?」
「この子は何処を怪我したんですか?」
「この子は何故倒れたんですか?」
口を開きかけていた医者は、さっきの疲れも消えていないのに母からの質問を一気に受けて、若干のパニック状態に陥っていた。
(元々老け顔なのに、更に老けちゃった様に見えるわ)
あたふたしている医者の代わりに、4人いる看護師の中で一番年上そうな女看護師が口を開いて言った。
「ご説明する前に、診察室に来て下さい。」
清潔感のある診察に呼ばれた私たちは目の前の椅子に座るよう指示された。私たちが安物のパイプ椅子に座るのを見届けてから、あたふたしていた医者がやっと重たい口を開いた。
「えーっと、貴女のお子様の事なのですが……その倒れた理由というのが……。」
だが、歯切れが悪い。これじゃあ火に油だ。
「これ以上私の時間を無駄にしないで!」
「す、すみませんっ!」
完全に縮こまっていた。蛇に睨まれた蛙みたいでちょっと面白いと思ってしまった。情け無い姿を晒した医者を元気づける様に笑顔を向けてみたが、ますます縮こまってしまった。子供に同情された所為で、もうプライドもズタボロなんだろうなと思った。
元々、偉い立場として崇められてきたから、こんな屈辱は初めてなんだろう。頑張って走って来たのに、いきなり怒鳴られ、質問責めにされ、また怒られた。この人の人生の中で私達親子にあったのが一番の不幸だろう。
私と一番年上の看護師は、今にも泣きそうな医者を見て、深い溜息を吐いた。
心臓の声 雨吹 零 @siokuma
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。心臓の声の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます