SWEETERS!
アーモンド
第1話 稲妻
甘いものが嫌いじゃない人であれば、俺が今食べている様なスイーツは人間のみに赦された至高のご褒美なのだ、きっと。
エクレアを頬張りながら、俺はそんな事を考えていた。
カスタードクリームの甘さをホットミルクで流し込む、いつもならやらない特別仕様の食べ方。
珍しくテストが良い点数だったから、という理由で母が奮発してくれた。
ああ今回の歴史のテスト、ありがたや。
さて今更だが、俺は根っからの甘党である。
練乳をおかずに
同時に俺はオカルトマニアだった。それこそ部屋の中は禍禍しいイラストや図式、果ては魔法陣なんかもあった。
この2つの趣味、そしてタイミング良く降っていた豪雨が、俺の手に取られひと口食べられたエクレアに奇跡を起こした。
――――ゴゴゴゴゥゥゥッッ!!
――――ピシャァァァアッッ!!
雷鳴、落雷。
それは他の家もあるだろうに俺宅に一直線。
一瞬のうちに家は暗転し、ひっそりとした闇に包まれた。
『まさか食べかけだとは思わなかったのです……。このままでは不味い事に……』
闇の中、声が響く。俺は怯え、しかし冷静に息を殺し部屋を出ようとドアノブに手をかけた。
『――――そこ、そこにいるのは誰なのです』
嗚呼、俺の人生終わった。
諦めて名乗る。
「俺は雨宮透治、生粋の甘党だ!」
『トージですか……私はレアと言うです。
ここはいったいどこなのですか』
「俺の家だけど……」
何が起こっているのか分からないまま、どうにか声の主の姿を確認しようと、辺りを手探りしてみる。
ちょうど、偶然触れたコンセントの近くでスマホが充電されていた。スマホのモバイルライトをオンにして、声を掛ける。
「……ちょっと
そこからゆっくりとスマホを上げ、脚、腹、胸、そして最後に顔を見る。
色白な少女がそこにはいた。
闇より暗い黒髪は、停電中の我が家に映える。
「君が……レアなのか……?」
「そうです。私がレア・ドゥ・エクレールなのです!トージに食べられていたエクレアは、何を隠そう私なのですよ」
えっ…………。
良く見ると、レアが着ているドレスのフリルに1つ、大きく噛み千切られた歯形が。
……それはどうやら、俺の歯形だった。
「……兄貴、
「――――ッッ!!」
まずい。この声は妹の
レアの事がバレたら面倒だ、どうにか隠し通せやしないものか…………。
勢いでついやっちまった。
レアを押し入れに突っ込み、俺まで入ってしまったのだ。
『……静かにしてろ。じゃないと妹が』
『分かったのです』
俺の妹はリーク魔である。口はとことん軽く、若干の妄想をスパイスにして話す為に、恐ろしい勘違いをされた事が何度もあった。
で、今回のこの状況。妹からすれば、
【見知らぬ女の子が兄貴と部屋にいる】
という状態であり、彼女はそれを
【兄貴が不純な恋愛をしている。悪い虫だと自分の学校での立場にも関わって困るから即排除しよう】と、勝手にもほどがある解釈をしてしまうのだ。多分。
だから、何をしてでも隠し通す。
レアの事は、俺が守ってみせる。
「わぁ美人!あなたはどちら様!?」
妹の声だ。何か嫌な予感と悪寒がする。
恐る恐る振り返って、レアの方を向いてみる。
「トージのガールフレンド、レアなのです」
押し入れからいつの間に出たのか、さらっと妹と話し始めてしまった。
ああ父さん母さん、何か微妙な人生でした。
「ちょっと兄貴!押し入れから出てきて!」
蜜柑が押し入れの戸を乱暴に開ける。
俺は
「いつの間にこんな美人彼女にしてたの!?おかしいよ、絶対おかしい!だってモテないじゃん兄貴!!」
――――心に刺さる五寸釘級のフレーズ。
妹よ、兄貴は今の言葉で傷ついたぞ、結構。
「レアさんもなんでこんな兄貴と!?」
「うーん、……食べられた、から?」
誤解を招く表現は止めてくれ!!
確かにエクレアは食べてたけどさ!
レアは食べてないぞ!断じて!!
「兄貴ィ、随分と遊んでんじゃん……?」
勘違いしないで蜜柑!お前は騙されてる!
……えっ、ちょちょちょ待って?
何で角材なんて持ってんの!?
振りかぶらないで勢いついて痛いから!
心の叫びも
勝利のゴング代わりの稲妻が、妹の為に空高く響いた――――。
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