第2話 蜜と密

レアの事が早速妹にバレ、俺は母親の前に突き出された。

気分は最早、判決を待つ囚人である。


「せっかく勉強出来たからと思ったけど。

エクレアは没収!……って無い!?」


母さんや、俺が甘いものを放っておくとでも思ったのかい?

だとすれば本当に残念なだ。俺が異常とののしられる程度には甘党である事を、さては理解していないな……?


「まあ一人で食べちゃったなら良いや。

取ってあった『 』食べさせてあげないから」


明らかに『 』の中のフレーズは、『べこ餅』と言っていた。

俺があの、黒砂糖をふんだんに使ったあれを愛してやまない事を知っていて、母さんはおとりに使ったのだ。許すまじ。


だがちょっと待て…………。

俺の思考はその瞬間、からっとした炎天下の中干した洗濯物よりも早くドライになった。

このゲリラ豪雨の中、俺の食べたエクレアはレアとなって現れた。

ということはもしや、べこ餅も…………?


「……やっぱ良いや、エクレアで満腹だし」


面倒が増えるのはごめんだ、と僕は、母さんがこれ見よがしに目の前に差し出したべこ餅を突っぱねた。




俺が母さんと話している間、レアは蜜柑と話していた。

「レアさんはどこから来たの?」

「……覚えてないのです」

「じゃあさ、家はどこ?」

「家はここなのです」

「じゃあ私のお姉ちゃんだ!よろしくね、レアお姉ちゃん!

はぁあ、私もとうとう妹が出来たぁ……」

「お、おおお姉ちゃん――――!?」


パニックに陥るレア。喜に酔いしれる蜜柑。

そして唖然としてそれを見る、俺だった。




「――――レアお姉ちゃんは、なんでそんなに丁寧にしゃべるの?

お母さんめてたよ!

『透治にはもったいないくらい良い子だわぁ』って」


母さん、そりゃあんまりだ。

俺にだって権利くらいあるでしょうに。


「言葉は……習ったのです。あの人は母親、と言うべきなのかは分からないですが。

私はエクレアとして生まれ、来るべき時にスイーツ達を救う為にここにいるのです。

そして、甘党のトージがエクレアだった私を食べた事で、そのエネルギーが私に流れ込んで【覚醒】したのです」


「うーん……難しい話はあんまり分からないけど。

……レアお姉ちゃんって、スイーツなの?」


はっ、とした表情で、今更タブーを口にした事に気が付いた様だった。

レア…………お前もしかして天然なのか?


レアと蜜柑はとても仲良くなった。

年頃の女子同士、何か通ずるものがあるのだろう。

そしてここで、『互いの秘密』までも暴露してしまった。


レアは、自分が実はエクレアだということ。

蜜柑は、自分が実はゲーマーだということ。


本来なら蜜柑は、自分からゲーマーだと名告なのる事はしない。

俺にだって最近伝えたくらいなのだから。


「私のハンドルネームは【Mico☆】!

誰もがビビる最凶キラーよ!!」


そう。俺の妹、蜜柑は【Mico☆】という名前でネットに知れ渡る、超凄腕ゲーマーなのだ。

基本FPS、STG(PK推奨)しかプレイしない【Mico☆】だが、別名義でコスプレイヤーなんかもやっているらしい。

何故、と聞いたところ、

『発音がデストロイヤーに似てるから』

と返ってきた。あな恐ろし。


で、蜜柑はどうやらレアとゲームがしたい様だった。

最初からネトゲはキツいだろう、という配慮からか、1回戦はリバーシ。


「ルールははさんだところをひっくり返すだけ。簡単でしょ?」

「分かったのです、やりましょう」


…………まさかこの勝負がきっかけで、レアにあんな事が起きるだなんて、この時は考えてもいなかった。

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