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そういえばこの頃、よく周囲に指摘されるのも原因はこれだったのか、と妙に納得がいってしまった。




少し距離があるだけで、呼び掛けられても気付けない。

「何度も呼んだよ」なんて後で言われて、詫びながら憶えのない過ちに首を捻る。



大人数で話していると、二転三転する会話についていけない。

声は確かに聞こえているのに、言葉の部分がはっきりしない。

まるで自分が耳栓をしているみたいに、或いは水中で聞いているみたいに、ぼやぼやと言葉が濁るのだ。


堪らず、何の話をしているのかと問うと、当然会話は停滞し、場の空気が盛り下がる。





成程、そういう事だったのか。





「でも…」と医師が再び口を開く。


「日常生活には、あまり支障はないでしょう」落ち着いた声で、そう続けた。




私を、いや、恐らく主に母を、励ますつもりで言ったんだろう。

母は心做しか安堵の表情を見せた。



…対する私は、軽い憤りを感じたが。




どうして分かる?

何を根拠に?



他の誰でもない私自身の現状を、どうして貴方が語るのか。



妙に腹が立った。



ただの八つ当たりに過ぎないことは、自分でもちゃんと理解していた。



この頃の私は、あまり冷静ではなかった。

ただ、それだけのこと。


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普通じゃないって言わないって 涼愛♡ @Mialice23

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