1-2-05
「んー。なんとなーくわかったよーな、わからないよーな。わかったよーな。ふわわわわ」メサは大きなあくびをした。「考えたら眠くなっちゃいました」
「おい、こたつで寝たら風邪ひくぞ」
「ふあい」
言葉とは真逆に、こてん、とメサはこたつに入ったまま横たわった。
まったく世話の焼ける。
俺はメサを抱き上げようとして、手を体の下に入れた。
「ウキョウさんもー、こたつで寝ましょうよー。ぐでー」
メサが俺の首に両手をまわして、全体重をかけてきた。
「おいこらやめろ、重い」
そのとき、突然リビングのドアがガチャリと開いた。
ドアの方を振り返るまでもなく、俺は一瞬で状況を把握していた。
何なの? この展開。
「京ちゃん」
「わかってます。合意でもダメですから。犯罪ですから」
俺はひりひりする頬を撫でながら、ほたるにいった。
「だいたい、俺はメサが風邪をひかないようにだな――」
「メサちゃん、風邪ひいちゃうよ」
さらっと俺を無視して、ほたるはこたつで寝ているメサを起こしている。
だからさっきから、俺がそういってるんだって。
「なあ、あのイグアナのことなんだけど」
「わかってる」ほたるは俺の目の前に、二つに折った紙切れを突き付けた。「その前に、悪いけど、これ買ってきて」
差し出された紙を開くと、そこには葉物野菜と果物が数種類書かれていた。
「なにこれ」
「餌。もしかして、ストックある?」
「いや。ちょうど切れたとこ」
「いってらっしゃい」
まったく人使いの荒い奴だ。
スーパーから帰ってくると、メサとほたるがリビングのこたつで丸くなって、みかんを食べていた。
「おかえりなさーい」ふたりがユニゾンでいった。
「ただいまー」
「何にやにやしてるの」ほたるが眉間にしわを寄せる。
「いやぁ。女の子ふたりからお帰りっていわれるの、なんかいいなぁ――」
「メサちゃん、あの子に餌あげてみる?」
「――って、おい、聞いてよー」
「あげる!」メサがぴょこん、とこたつから飛び出した。
「やれやれ」俺はメサに野菜と果物の入っているエコバッグを渡した。「ほい、これ」
「ありがとうございます」
いそいそと、メサはアクリルケースの前にしゃがみ込んだ。
「大丈夫だと思うけど、イグアナは噛むかもしれないから、触っちゃだめだよ」ほたるが注意する。
「はあい」メサが元気よく答える。どうやら眠気はどこかへ行ったみたいだ。
俺は、ほたるの隣に座った。
「なあ。親父が面倒見てくれって、いったのって……」
「イグアナのことね」ほたるがうなずく。「おじさんから電話があって、輸入業者からイグアナが届くから、京ちゃんに渡してくれって頼まれた。あと、メールで飼い方とか、注意事項がいっぱい届いてる。京ちゃんにも転送しておいた」
「そりゃどうも」
ほたるはメサのほうを見た。
「いっぱい食べてー、大きくなってー、早く火を吹いてねー」
メサはぶつぶついいながら、ベイビー・ドラゴンに餌をやっている。
「でも、俺の名前と住所を知っていたということは、やっぱり親父がらみ、なんだろうな」
「私もそう思う。こういうの、初めてじゃないし」
「いやでも、今回のは前の二回とはちょっと違うだろ」
「このあいだは、どこの人だっけ」
「イタリア。セリエAの特集記事書いてたときだったから」
「その前は?」
「アルゼンチン」
「どっちもラテン系かぁ。熱いなぁ」ほたるは天井を見上げた。「でもすごいよね。いくら好きになったからって、単身海を渡って会いに来るなんてさ」
「ああ。考えられないよな」
「うん。でもちょっと、うらやましいかも」
それはどちらに対してのことなんだろう。会いに来る方なのか、会いに来られる方なのか。
俺の視線に気づくと、ほたるは照れくさそうに笑った。
「それにしても、罪な男だよねー。おじさんも」
俺は苦笑して、肩をすくめた。
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