1-2-02

「ごちそうさまでした!」

 ユニゾンでいって、手を合わせる。メサが食器を洗って、俺が片付けた。お茶を飲みながら、俺たちはしばしほっこりすることにした。

「俺、風呂入ってくるけど、メサはどうする?」

「お風呂、お風呂……」何やらぶつぶつとつぶやいていたメサは、はっと、顔を上げた。「お風呂にしますか? それとも――」

「どこで覚えたのか知らないけど、お前、それ完全に使い方間違えてるぞ。いろんな意味で」

「そ、そうですか」メサはもじもじし始めた。「でも、でも。こういうときって……」

 俺はもう、メサが何をいおうとしてるのかだいたいわかってきた。

「うん、一緒に入らないからね」

「そ、そうですか」

 メサは再び、はっと、顔を上げた。

「もし、一緒に入ったら――」

「書くのは、やめないからね」

「そ、そうですか」

 さっき、メサには話だけは聞くといったけどうやむやになったままだ。でも、とりあえずここはあえて触れないことにする。

 俺は湯船にお湯をためて、給湯器やシャワーの使い方などをメサに教えた。

 メサは、湯船の中に浮かぶ黄色いアヒルをつついている。

「これ、とったほうがよくないか?」俺はメサの隣にしゃがんで、彼女の尖った耳をつまんだ。

「ふにゃあ!」

「うわ。びっくりした」

「ななな、なにするんですか」

「いや、なにって……。それにしても、よくできてるなぁ、これ」

「さ、触らないでください。お風呂入るときに、ちゃんとはずしますから」

「わかった、わかった」

 どうやら耳を触られるのが嫌みたいだ。

「じゃあ、お先にどうぞ」

 バスルームを出ていこうとする俺をメサが呼び止めた。

「ウキョウさん、ウキョウさん」

「ん?」

「き、気が変わったら、私としては、その……」

「……ごゆっくり」

 俺はそっと、扉を閉めた。


 風邪をひかないようにメサの髪をドライヤーで乾かして、暖かい格好をさせてから俺も風呂に入り、俺たちは出かける準備をした。

「どこへ行くのですか」靴を履きながらメサが尋ねた。

「市立図書館。本が読みたいんだろ」

「はい! ありがとうございます」

「二十分くらい歩くけど、大丈夫か? バイクで行ってもいいけど」

「平気です。エルフは足腰が丈夫ですから」

「そ、そうだっけ?」というか、その設定はいつまで続くんだ。

 ドアを開けた俺の脇をするりとすり抜けて、メサはパタパタと嬉しそうに廊下を走った。

 朝の冷え込みも和らいで、二月にしては少し暖かな、晴れた午後だった。散歩にはちょうどいい。

 俺が通っていた高校の前を通る。校庭ではジャージを着た生徒たちがサッカーをしている。今は女子もサッカーやるんだ。 

「ウキョウさんは、学校に行かなくてもいいんですか」

 メサは立ち止って、生徒たちを眺めている。

「ああ。大学には行ってない」

「そ、そうですか」

「メサこそ、学校は?」

「エルフの学校は、冬の間はお休みなのです」

「そ、そうですか」

「もう、マネしないでください」メサが頬をふくらませる。「あ、ほたるさんですよ」

 スローインした女子生徒がこちらに気付き、手を振った。

「よくわかったな」

「エルフは目がいいのです」

「まあ、確かに」

「ふふん」メサは得意げに胸を反らした。「ほたるさんとウキョウさんは幼なじみなんですよね」

「ああ。そうだな」

「私、幼なじみについて書かれた本が読みたいです」

「え。幼なじみについて書かれた本?」

「はい。ほたるさんのこと、よく知りたいので」

「……お前、変わってるな」

「そ、そうですか」

 再び歩き出しながら、幼なじみについて書かれた本のタイトルを、俺は脳内で必死に検索していた。

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