わがヴィーン時代の一般的政治考察5

 オーストリアという多民族国家のためにここの国民の遠心力を克服する可能性はただ一つだけであった。この国が中央集権で統治され、それでもって内政的に組織されるか、もしくは国家というものが一般に考えられないことになるかであった。「至高」の地位にあるものもこういう考えを持ったが、たいがいはすぐに忘れるか、実行困難だと考えるのである。


 帝国をもっと連邦国家的に形成するという考えはすべて優れた権力のある強力な国家的中心を欠いているためになからず失敗するだろう。


 そのうえビルマルクのいるドイツ帝国とは反対に、オーストリア国家には別の本質的な前提条件が加わっていた。ドイツでは常に文化的に共通の基盤があったために政治的な伝統を克服することだけが問題であった。何よりもまずドイツ帝国は少数の異民族を除けば一民族の国家だったのである。


 オーストリアは逆であった。


 ここではハンガリーを除けば各地方における政治が偉大であったという追想がまったくなくなっているか、時間という海綿で吸い取られているか、少なくともぼかされて不明瞭にされていた。


 それに代わって今やいろいろな地方で多民族主義の時代に入り、民族主義的勢力が発展し、その克服は王国の辺境に民族国家が形成され始めることによって困難になってきた。


 その諸民族は人種的にはオーストリアに散在する個々の民族と同類か類似しており、彼らの側では逆にドイツ系オーストリア人がなしうる以上の引力を及ぼしてきたのである。


 ヴィーンですら長い間にはこの闘争に耐えることができなかった。


 ブダペストが大都市へと流行するとともにヴィーンは初めて競争者を持った。しかもその競争者の意識は全王国の連携ではなく、むしろ王国の一部を強化することにあった。


 まもなくプラハがその例にならい、さらにレムベルク、ライバッハなどが続いた。これらかつての地方都市がここの地方の国家的な首都に上ってくるとともに、その地方の自立的な文化生活の中心点を形成してきたのだ。


 ところでこのようにしてまず民族的、政治的本能がその精神的基礎をも深化してきた。それぞれの民族のこの推進力が共通の利益よりも強くなる時がいつか来るに違いない。そうすればオーストリアは破滅するに決まっているだろう。


 この進展はヨーゼフ二世の死後、その経過がはっきりと確かめられた。その要因の一部は王国自体にあったが、他の要因は当時のドイツ帝国の外交的立場が作り上げた一連の出来事が原因だった。


 もしこの国家を維持するための闘争を真剣に取り上げ貫徹しようとするならば、やはり仮借なき不屈の中央集権化のみが目的に達することができるものだった。その場合、まず統一的な国語を確立することによって形式的に共属であることを強調し、これによって行政に対する技術的方策が与えられなければならない。それなくして統一国家は存在しえないのだ。


 同様にそれができて初めて学校や教育による統一的国家観念が永続的に養われるのである。これは十年や二十年では達せられず、一般に植民地問題ではすべて瞬間的エネルギーよりも不屈の精神が大きな意味があるように、何世紀もの間を勘定に入れなければならなかった。


 さらに行政も政治的指導も極めて強く一元化されなければならないことは自明のことである。


 なぜそうならなかったのか、あるいはもっとよく言えばなぜそうしなかったのかということを確かめることは、私にとって有益極まりないことであった。この怠慢の罪を負うもののみが、この帝国の瓦解に責任があるのだ。


 古いオーストリアは他国以上に指導力が必要だった。その上にここには――指揮そのものも無能だったが――民族主義的な基礎の上に絶えずその維持力をもっている国民国家の基礎が欠けていた。


 統一的な民族国家は、住民の自然的な惰性とそれとを結合した抵抗力によって驚くほど長期間、内部的に崩壊することなく悪質な行政や支配に耐えうることができるのだ。


 さらにそういう身体には生命がなく、息が絶え、死んでしまったかのように見える時にも結局は死んだものだと思ったものが突然もう一度起き上がり、破壊しがたい生命力の驚くべき現象を他の人間に示すことがよくあるのだ。

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