ヴィーンでの勉強と苦難の日々17


 二年も経たないうちに私は社会民主党の教説はもちろん、その技術的方法もはっきりわかった。私は卑しむべき精神的テロ行為を理解した。


 この運動はそれを第一に、こういう攻撃に対して道徳的にも精神的にも抗えないブルジョワジーに行っている。同時に彼らは最も危険だと思われる敵に対しては虚偽と中傷の連続を正面から決まりきったやり方でいつも浴びせかけ、神経が疲れ、二度と立ち上がらなくなるまで手を緩めないのだ。


 しかし、この愚か者どもはこれだけで満足しない。


 ゲームはまた始まる。そして狂暴な赤い恐怖が繰り返し与えられるのだ。


 社会民主党は今までの経験から力の価値を知っているので、彼らは本質を嗅ぎつけた勢力に対しては何度も攻撃する。逆に反対派でも弱者には自分たちが認め、あるいは推測し、あるいは注意深く、あるいは大声で彼らを褒めるのである。


 彼らはたとえ控えめな人物でも、力のあるものを無力で意志の弱い天才よりも怖れるのだ。逆に精神と力の弱いものに対しては徹底的に褒める。


 社会民主党はあたかもそのような方法でのみ安寧が保たれるかのように見せかける。その間に彼らは怜悧な用心深さで、しかも不撓不屈の精神で、陣地を一つ一つ占領しているのだ。


 注意が他のものに向けられて妨害されたくないと思っている時や、些細なことでセンセーションを巻き起こしたり、悪意のある敵を刺激したくない時には、ひそかに恐喝したり、窃盗することでわずかな間に占領するのだ。


 これは全て人間の弱点を正確に計算した上での発見された戦術であり、相手が毒ガスをもって戦うことを考えない限り、その結果は数学的正確さで成功することだろう。


 弱い人間はこれがまさしく生きるか死ぬかの問題だということを知らなければならない。


 個人や大衆に与える物理的テロの意味が私にはわかってきた。ここでもまた、心理的効果が正確に計算されている。


 仕事場での、工場での、広場での、時には集団示威でのテロは、同程度のテロで対抗しない限り必ず成功する。


 もちろん、この政党は途方もない叫び声をあげ、泣きわめき、すべての国家の権威を頭から軽蔑しているのに、たいしたこともない場合にもその目的を達するために金切り声をあげて官権を叫ぶのだ。――すなわち、彼らは高い官職にある愚物を見つけてくる。


 彼らはそのためにいつかは自分たちの怖れている反対者に好意を示してくれるだろうと馬鹿げた望みを持って、この世界のペストでも相手を手助けするのだ。


 このようなことが味方はもちろん、敵の大衆にどんな印象を及ぼすかということは本からではなく生活から民衆の気持ちを知ったものでなければはかることはできない。


 というのは、味方ではこの成功がそれ以後自己の権利の勝利と思うのに対して、打ちのめされた反対者はたいていの場合、今後の抵抗が成功するかどうかについて絶望的な気持ちになるからである。


 私は何より物理的なテロの方法を知れば知るほどそれに属している何十万という大衆に謝りたい気持ちが大きくなった。


 私は当時苦しかった時代に感謝している。その時代だけが私をわが民族の本来の姿にかえしてくれたのであり、犠牲者と誘惑者を区別することを知ったのだ。


 この誘惑の結果は犠牲以外にない。というのは、今私がこの最下層の人々の生活から二、三の像を描こうとするならば、これを完全にするためにどん底においても、特に当時の年老いた労働者たちの中に稀に見る献身、誠実な友情、非常な節制的な謙遜の形の中に光明を見いだせるからである。


 この美徳はすでに大都市の影響を受けて、若い世代では次第に失わているが、なお生活の卑俗な下劣さを超えたい健全な血を持っているものでさえ、ここにいるのだ。


 しかし、これらの善良な人間が政治活動においてはわが民族の敵と協力しているのは、彼らがこの新しい教説の卑劣さを理解しようとせず、また理解できなかったためであり、そのほかに誰も彼らのことを心配してくれなかったからであり、結局社会環境がその他のあらゆる反対意志よりも強かったからである。


 いずれにせよ、彼らがある時落ち込んだ困窮が、彼らを社会民主党の陣営に赴かせたのである。

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