ヴィーンでの勉強と苦難の日々11

 いわゆる「知識階級」の大部分の人は「読書」を何か違ったものとして理解している。際限もなく多く読む人、一冊一冊、一字一字読む人を私は知っている。しかし、私は彼らを博識だとは思わない。


 彼らは確かに多量の「知識」を持っている。しかし、彼らの頭脳は自分に取り入れたこの材料を分類したり、整理したりすることを知らないのだ。


 彼らには本の中から自分にとって価値のあるものと価値のないものを選別する技術に欠け、またあるものは本の知識をいつも頭の中に入れておき、またあるものはできるだけ無視するというように、どんな場合でも必要のないものを無視するという技術に欠けている。


 読書とはそれ自体が目的ではなく、目的のための手段なのである。


 第一に読書とは各人の素質、能力を引き出し、骨組みを充実させるためのものである。だから読書は各人が自分の職業――これは原始的なパン売りだろうと高級な使命がある職業であろうと同様であるのだが――に必要な道具や資材を供給するためのものなのである。さらに読書は幅広い世界との橋渡しもしてくれる。


 しかし、いずれの場合にも読書はその時々に読んだ内容が本の記述や順序に従って記憶しているのではなく、モザイク様のように幅広い世界の中で与えられるべき地位に場所を占め、そして読者の頭の中に像を形成する助けとなるのである。


 そうでない場合は混乱を生じる。それは無価値であるだけでなく、その持ち主を自惚れさせるのだ。というのも、その人は大まじめに自分は「教養がある」と信じ、人生に関して理解しており、知識を持っていると思うからである。であるのに、その人はこの種の「教養」が新たに増すにつれ、世の中の実情からますます遠ざかり、サナトリウムで、もしくは「政治家」として議会で生涯を終えることになるのである。


 そうした頭脳を持っているものは、決して持っている知識の中から時代に適合した答えを引き出すことはできない。というのは彼らの精神的な重点は生活に沿って整理されておらず、読んだ書物の順に沿って、また入ってきた内容の順序に従って場所を占めているからである。


 もしも運命が毎日の生活の要求に従って彼のいつも読んでいたものを正しく適合するように警告するならば、運命はもう一度その本とページ数を述べなければならない。そうでない場合は永久に正しいものを見出すことはできないだろう。


 しかし、運命はそうではないのでこの何倍も利口なやつは危機的な状況に陥ったときにはいつも慌てて、痙攣をおこさんばかりに同じ場所を探して、そして当然のように間違った処方箋をつかむのである。


 もしそうでないならば、人々は病理学的素質の代わりにヤクザのような卑劣さを持っているのだと信じる以外に教養豊かな政府の英雄的な政治を理解できない。


 一方、正しい読書技術を持っているものはどんな本、どんな雑誌やパンフレットを読んでも有用であるか一般に知っておく価値があるという理由で長く記憶しておくべきだということがわかるだろう。


 こうした方法で得られたものがあらゆる問題について頭の中にある観念の中で意味のあることを見出すや否や、それが誤りを正したり、その観念の正確さや明瞭さを高めてくれるのである。


 今人生に突然何らかの検討や解決を要する問題があり、こうした方法で本を読んでいるならば、すぐに既存の観念をとらえ、そこから問題に関係している過去十年間に集められた個々に役立つものをすべて引き出し、問題を解明したり解決したりするまで検討し、新しい検分をしたりするための知性を提供するだろう。読書とはそうやって意味と目的を得るのである。


 例えばそうした方法で必要な情報を手に入れない演説者はその見解がいかに正しく、また現実的でも、反対意見を言われた際に自分の見解を弁護できないのである。すべての討論の際に記憶が彼を見捨てるだろう。


 彼は自分が主張する根拠も、反対者を反駁する根拠も見いだせないのだ。それも演説者のように彼個人の恥を晒す限りはまだ我慢できる。しかし、運命が博識家である無能力者を国家の指導者に任命したならば、事態は最悪だろう。


 私は若いころからずっと正しく読むことに努力してきた。それと同時に幸いにも記憶力や理解力もよかった。そのしてその意味としてはヴィーン時代の私には得るものが多く、価値のあるものであった。


 日々の生活による経験は様々な問題を常に新しく研究しようとする刺激になった。ついには現実を理論的に説明し、理論で現実で試そうとしたため、私は理論の中で窒息してしまったり、現実の中で浅薄化されるのを免れたのである。


 こうして社会問題以外の重要な問題についても、日常生活の経験から刺激されたのである。そのころ、もし私がこの問題に没頭していなかったならば、私はマルクシズムの本質に一度も触れることはなかっただろう。

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