挿話4 金色の鈴は闇に響く

 シャァン――と澄んだ音が響いた。


「ねぇえ? まだ見つからないのお?」


 気怠げで、甘えるような声が謁見の間に響いた。

 ねだるような声色だが、奇妙な緊張感が存在した。声の奥に刺すような鋭さが見え隠れする。


「はっ、……迷宮の中はかなり荒れておるようで」


 跪いた姿から声が答えると、黄金色の瞳が細められた。そんな小さな動作にさえ、艶やかな色があった。

 夜色に彩られた謁見の間に、黄金で装飾されたワインレッドのカウチソファが玉座として君臨していた。そこから伸びた足先がつまらなそうに揺れた。シャン、と小さく鈴の音がする。

 その艶めかしいほどの足の持ち主――彼女は最小限の布だけを纏い、豊満な体を惜しげも無く晒していた。優美な足の先には豊かで柔らかな丘が曲線を描き、今にもはち切れんばかりの、膨らんで滑らかな果実が二つ。しなやかな髪は金糸のように流れ、彩る羽毛は冠のようだ。すべやかな肌に無駄なところはひとつもない。美貌を飾る緩やかな布には、彼女を象徴するが如き黄金の鈴が花を添えていた。


「迷宮がひどい有様なのはわかってるわよう」

 

 女がつまらなそうに指先が揺らすと、手首を彩る金色の鈴が小さな音を立てた。


「あの前の主サマが……、怒りに駆られて迷宮ごとめちゃくちゃにしたって話だものねえ。アタシだってかわいそうな弟を何人亡くしたかあ……」


 ほろほろと涙をぬぐうように目元に指先を当てる。

 同情を刺激するその指先は、ぎくりとするほどだ。


「あの勇者だって早めに潰しておかないとお。噂じゃあ旅に出たとか、傷を治しているとか死んだとか……どうも巧妙に隠されてる気がするわねえ……」


 指の間から見る目は鋭く、隠しきれない本音が漏れる。

 しかしそれもすぐに消えて、唐突にぱっと笑った。


「……じゃっ、そっちも引き続きおねがぁい。早いうちにね?」

「御意に、姉君」


 自らが弟と呼ぶ軍勢の一人を下がらせると、女はごろりと転がった。


「はあーっ、やんなっちゃう」


 女が呟くと、すぐさま弟の一人が機嫌を取るようにカウチのそばに控えた。

 そんな弟をかわいがるように頭を撫でてやる。


「でもねえ、あの勇者だかいう存在も、いいことはあったわねえ。この迷宮がアタシのものに……ううん、今やアタシのものだわあ! そんな迷宮に、前の主サマの墓があるなんて! 考えただけでも汚らわしいじゃなあいぃ?」


 同意を求めると、兄弟達は無言のまま笑った。


「封印の中で、主サマが……ブラッドガルドがどんなにかみすぼらしく死んでいるか、見物だわあ? うふふっ!」


 女の笑い声が部屋の中に木霊した。

 女は総勢四百の兄弟たちからなる部隊とともに、行動を開始したのだ。


 それは、新たな時代の幕開けとなった。

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