メイドのはなし

安達ロゴ

第1話

 蜜のように甘く、麻薬のように中毒性のある白色のロイド。

 口に含んだ、罪を抱きし魔宮のメイドはこの世界を嘆き笑った。

 ひどく曖昧で、他者の依存の中でしか得られらない。

 そんな彼女の生を笑うことなど誰ができるだろうか。


 祈りは届かない。

 願いは頭上にあるはずなのに表現することは許されなかった。

 彼女に思考の中にあった、ただ1つ。

 地獄の門へ手を伸ばす。


 主人は良い人物ではなかったが、その姿を目撃したことはない。

 彼の傍にいることを命令され、メイドは一人で立っていた。

 暗闇の中、その目に映っていたのは意外なことに小さな光だ。赤く人の命のようにあっという間に消えてしまう小さな光。

 静かな室内で彼女の仕事は始まり、終わっていった。


 その感触は覚えていない。

 手を伝うぬめりと、吐きそうな鉄のにおい、赤い目。足元に合った4つの目。

 愛は捨ててあった、むせかえるような嫉妬が部屋に充満する。

 落胆と期待は外で泣いていた。 

 

 小さな命は軽かった。

 思わず涙がこぼれてしまうほどに。笑ってしまうほどに。

 愛さなければならなかった、残されているのはこれだけなのだから。

 しかし、握り締めたロイドは離れなかった。


 大切なものは消えた。

 世界の崩壊の中、今度は光は見えなかった。

 天使も悪魔も踊らぬ世界で、一人笑う。

 これはきっと、彼女に唯一残された特権なのだから。

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