「友達として、最低の行為であることはわかっていた。」

 帰り道。タケルと一緒に下校していたぼくは彼から意外な一言を言われた。

「ごめん。ちょっと用事があるから、今日はここで解散でもいいかな。」

今日はゲーセンにでも行って、暇を持て余す予定だった。タケルの突然の申し出にぼくは驚いた。しかし用事というならしようがない話だ。ぼくは彼に別れを告げて、一人帰路をたどることにした。

 一歩一歩踏み出すことに、どうにも納得のいかない気持ちがぼくの中で大きくなっていった。タケルがぼくと取り決めていた約束を取り消すなんて、はじめてのことだった。そこまで重要な用事はなんなのだろう。家族関係だろうか。それとも、勉強関係だろうか。ともかく、ぼくに打ち明けてくれないことが少し不可解だった。

 後をつけてみるか。

 友達として、最低の行為であることはわかっていた。しかし、彼の行動がどうにも気になって仕方がなかった。なにより、自分と一緒にいないときのタケルくんがどんな様子なのかが知りたかった。

 振り返ると、幸か不幸かまだぼくの見える範囲に彼の後ろ姿があった。ぼくはできるだけ目立たないように彼の後ろを追うことにした。

 彼は途中まで自分の家の方角に向かっていた。ぼくは少しがっかりした。なんだ、家の用事かなにかだったんじゃないか。これじゃあ尾行していてもつまらない。

 近所のスーパーマーケットの角を右に曲がれば、彼の家はすぐそこだ。タケルくんは陽気に口笛でも吹きながら、スーパーマーケットの方にずんずん進んでいった。いやに明るい彼の行動に拍子抜けして、ぼくは尾行をあきらめて帰ろうと思った。

 しかし、次の瞬間。

 タケルくんはスーパーマーケットの角を左に曲がった。

 その姿を見たとき、ぼくは自分の心臓の鼓動がうるさく脈打つのを聞いていた。

 彼はどこに行くのだろう。

 ドキドキしながら、ぼくは彼の後をたどることにした。

 彼が向かう先に、影のようにぼくはついていった。足早に、はやまる気持ちを抑えるように、彼は歩き続けていた。ぼくも興奮しながら夢中になって歩いていた。

 突然タケルくんは立ち止まった。ぼくも立ち止まって辺りを見回した。

 気がつけば、見慣れた風景が待っていた。それは僕とタケルくんがよく行くゲームセンターの前だった。

 なんだ。一人でゲーセンに行きたかっただけじゃないか。

 ぼくはまたもやがっかりしたが、あまりにも彼が楽しそうに見えたので、とりあえずゲーセンの中まで行くことにした。

 彼はゲーセンで格闘ゲームを一時間ほどしていた。ぼくは彼に気づかれないようにしながら、音ゲーをやっていた。

 もう、帰ろうか。人をつけるなんてあまりいいことじゃない。

 そう思い、音ゲーの機械から離れたとき。

「ごめん、待たせたわ。」

うるさいゲームセンターの中でもはっきりと聞こえる透き通る女性の声。

 反射的に、ぼくはその声がする方を向いた。そこには、タケルくんに話しかける美しい女の子がいた。すらりとした体型で、いやに大人びている。

 フフ…。女か…。

 ぼくはもう少し二人を観察することにした。

 

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ふたり・ファンタジー じゅん @kiboutomirai

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