私の兄は仮面ライダー

9741

第1話

 私の兄は仮面ライダーだ。

 1号やビルドのようなテレビで放送されるメジャーなやつではなく、主に地方で活動する、所謂ご当地ヒーローだ。


 私は兄を誇りに思っていた。


 高校卒業と同時に、兄は二輪免許を取得し仮面ライダーに就職した。


 もちろん周りは反対した。

『そんな危険な仕事やめろ』だの、『大学に行った方が将来の役に立つ』だの、ありきたりな理由で、反対した。


 でも兄は皆の反対を押し切って、仮面ライダーになった。


 芯のある兄が私は誇らしかった。



 ある時、私は兄に頼んだ。


 兄のバイクに乗せてほしい、と。


 仮面ライダーには原則として専用マシンが支給される。兄はご当地ライダーだが、ちゃんとバイクを持っている。


 私は、兄の運転するバイクに乗ってみたかった。


 というより、仮面ライダーのバイクに乗りたかった。


 だから兄に頼んだ。


 しかし、兄はそれを拒否した。危険だから、だと。


 もちろん危険なのは重々承知の上。


 何せ仮面ライダーのバイクは普通の二輪車よりも馬力がある。

 ウィキペディアで調べてみたら、仮面ライダー1号のサイクロン号は最高時速400キロメートルだとか。


 だが私はなにも、爆走独走激走暴走しろとは言っていない。


 制限速度以内で2ケツさせてくれ、と言っているだけだ。


 だが兄は了承しなかった。


 それでも私は、毎日兄に頼み込んだ。

 

 しかし、兄は首を縦に振らなかった。


 何度も断られると、さすがに私も心が折れてくる。


 私が諦めかけていたある日のこと。


「乗れ」


 兄が私に言った。ヘルメットを私に投げ渡しながら。


 私は喜んでヘルメットを装着し、兄の後ろに乗った。


 私を乗せて発進する兄。


 この高揚感と風を切る疾走感は、きっといつまでも忘れられないだろう。


 道の駅でコーヒーを飲みながら私は兄に聞いた。


「ねえ。今までは駄目だったのに、なんで今日は乗せてくれたの? 別に誕生日でもないのに」


 すると兄は、こう答えた。


「今日で免許取ってから1年だからな」





 道路交通法71条より意訳。


 免許を取ってから1年間は2人乗りはダメ。

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