就職前に日本を発ち、「陸路で」イラクまで行こうと思いたった、ある関西出身の青年のお話です。
――簡単に書くと上記の一行なのですが。何しろ「陸路」。中国、パキスタン、アフガニスタン、イラン……とバスや列車を使って移動していく道中では、騙されたり道に迷ったり、ぼったくられたり奢られたり。宿や食堂のオーナや通りすがりの人々に親切にされたり、警察に捕まってスパイ容疑をかけられたり……と、さまざまな出来事が起こります。それらを一つ一つ、幸運と努力で切り抜けていく過程に、旅の醍醐味を感じます。
中国を出るまではモテモテだった北野君。「日本で待っている彼女はどうするの?」「そんな約束しちゃっていいの?」と、オバサンはやきもきし、「この調子で全編チャラ男だったらどうしよう?(いえ、どうしようもないのですが)」と心配していたのですが……。パキスタンに入った辺りから真面目になり(要するに、女の子の登場が減った)、安心しました。
198帖以降は、幼馴染の女の子と再会し、彼女のボディーガード役をしています。
イラクを目指す理由は、たいへん真摯なものです。
おそらく、作者さまの体験に基づくからでしょうが、現地の事情に根差したリアリティのある紀行文として、楽しむことが出来ます。
32000km離れたところにも、日本と同じように暮らす人々がいる、そのことを改めて感じさせてくれる作品です。
更新を楽しみにしている作品の1つです。
中国、パキスタン、アフガニスタン、イランなどを経てイラクを目指す、アジア8カ国、3万2千キロの旅。実体験がベースになっていると感じますが、旅行記風の小説です。
シルクロード(とは書かれていませんが、通過する国はシルクロードを連想させます)の雄大な風景、各国の独特な食べ物(サソリを食べたりします)、ちょっとしたトラブル、現地で出会う人々との交流、ほのかな恋……。
この作品は全編、近江弁で書かれているんですが、それが何とも上品で優しいです。
たとえば、新疆ウイグル自治区で出会ったパリーサという少女に「愛しています」を日本語で何と言うか、教える場面があるんですが、
「好きやで」
ここは会話文ですが、地の文もすべて近江弁。それがアジアをさすらう風情とマッチして、ゆったり、まったりとした心地良いリズムをつくり出しています。
心だけでも日常を離れ、アジア旅行を疑似体験したい人にオススメです。