第2話 追憶

 4月7日月曜日。聖誠高校、晴れの入学式。僕はこの日をとても複雑な気持ちで迎えていた。不安50%・緊張40%・その他(楽しみ、後悔等々)10%という感じだ。その原因を話すためにはもう少し昔の話をしなくてはならないだろう。

 

 中学校までは田舎で暮らしていた。僕が通っていた小学校は1学年10人前後、全校で約60人という田舎あるあるの学校で、廃校という言葉も年々強くなっていた。ただし、中学校は市内に1校ということもあって、1学年の生徒数が、小学校のなんと10倍以上!!1学年約120人(4クラス)。全校で約350人。入学当時の僕にとっては教室いっぱいに机が並び、教室いっぱいに同じ年の人間がいるという状況が嬉しくて仕方なかった。だが、その嬉しさもほんのひと時の感動でしかなく、徐々に悲しさに変わっていった。

 同級生というものは多ければ良いというものではなかった。それは人数の少なかった小学生の時には知りようもなかった知識であった。なんせクラスに10人しかいなかったあの頃はグループというものが存在していなかったのだから・・・言うなれば10人で仲良く1グループだったのだ。人数が少ないとはそういうものなのだ。(個人的見解であるが・・・)

 中学校入学から2週間。僕は焦っていた。実は極度の人見知りであった僕の周りには友達という存在がまだいなかった。1クラスに30人もいればいくつかのグループが自然に作られていくことなんて、初耳、初体験であった。それも運悪くクラスに同小の友達がいないという非情なクラス分けが行われていた。精神的な助けを求めて、休み時間や帰りは、他のクラスに出向き、同小の友達に会いに行っていた。やはり同小の奴らは仲間だった。入学してから1週間は同じように友達が出来ない奴ばかりだった。・・・が、2週間も経てば、

 「おぅー桜井!帰ろうぜ!昨日の日本対中国の試合見た?始めはさー・・・」

 (誰だよ桜井って!!)

 「あっごめん!今日は伊藤たちと一緒に帰る約束してるから。また明日!」

 (誰だよ伊藤って!!っていうか僕も同じ方向だろう!!)

 そのままどんどん同小の友達とも疎遠となっていき、孤独な学生生活がスタートした。

 ・・・と言っても、まぁ一応部活動にも入ったこともあり、決して3年間ぼっちだったわけではない。それに友達といえる奴だって・・・多くはないがいたと思う。

 そんなわけで、決して、悲しい中学校生活ではなかったということだけは主張したい。そう。決して!!それに高校進学にだって不安はなかった。確かに、人見知りなところはある。友達づくりは得意ではないことは自覚している。それでも、中学ではどうにかなったのだから、高校でも大丈夫だろう!!

 3月7日。中学校卒業式。その日まで僕は安易にそう思っていた。


 ここで話は戻って聖誠高校入学式。この明らかに、『都会で生まれ育ちました』という雰囲気を醸し出している人たちが集まる学園の門を僕はくぐっていた。なぜ田舎の中学校から大都会の高校に入学することになったのか、それは機会があればお話ししましょう。

 詰まるところ、この東京都立聖誠高校での3年間の学園生活が始まったのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私の存在証明書 蓮李家 @SoMC

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ