私の存在証明書

蓮李家

第1話 盲点

 「じゃあ立花。続き読んでくれ!」

 先生のその言葉に、クラスの約8割が一斉にこっちを見る。不思議そうな、驚いたような顔で。


 人間には、見えているのに見えていない世界がある。

 『盲点』という言葉がある。だが、そういうものとは少し違う。家の周りを今度散歩してみてください。もしかしたら「こんなところにパン屋が!本屋が!歯医者さんが!」ということがあるかもしれない。視野には入っているが、認識されていない。見たいものしか見ていない。見ようと思わなければ見えないものがこの世には溢れているのだ。

 ・・・冒頭に戻るが、なぜクラスの8割もの人が不思議そうな、驚いたような顔で僕の方を見たのか。それは単純に僕、立花という人間の存在を8割のクラスメイトがその時初めて認識したからだ。いや、おそらく残り2割の人は先生の話を聞いてなかったか、クラスメイトに対してさほど興味を抱かない人間だろう。

 この聖誠高校に入学して1週間経った。まだ1週間ともいえるが、徐々にグループができ始める時期ともいえる。もちろんまだ馴染めて無いやつもちょこちょこいるだろうが・・・

 (まぁ1週間も存在にすら気付かれない空気は僕だけだろうな。)

 「はい。えーと、下人は、六分の恐怖と四分の好奇心とに動かされて、暫時は呼吸をするのさえ忘れていた。旧記の記者の語を借りれば・・・」

 至る所でコソコソ話が始まった。

 『立花君?A組にあんな人いた?』『あいつ今日初めて来たんじゃねぇ?』

 (聞こえてるんですけど――――!)

 一応言っておくが、今日まで1週間無遅刻無欠席だ。

 何故こんな事になったのか、正直自分にもわからない。

 とりあえず・・・まず・・・1週間前、聖誠高校入学式の日から振り返ってみようか。

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