俺の名は末喜

 俺は男だ。だけど、世間の連中は俺のような男を「絶世の美女」扱いしてやがる。だけどな、俺の精神なかみは紛う事なき野郎だよ。それなのに、何だ、この胸の肉の塊は? こんな余計なものがある代わりに、俺の股間には男の象徴がない。まるで、生まれつきの宦官ではないのか?

 本来の俺は筋骨隆々の戦士の身体であるべきだ。幸い、俺は大したチビではない。チビではないが、変になだらかな身体の線のせいで、俺は「女」扱いされちまう。くだらねぇ。

 俺の偽りの身体を常日頃もてあそぶこの男。こいつは俺が本来あるべき身体を持っている。それがあまりにも妬ましい。だけど、こいつは俺を「美女」だと見なしてもてあそぶ。ふざけるな。俺は自らの心の中にある逸物をしごく。本来ならば、俺の両足の間にあるはずのそれを。


 俺は男らしくふるまうために、武装する。当然、武芸の稽古は欠かせない。この剣は、俺が本来あるべき男の象徴の代わりだ。いつでも抜ける剣を帯びて、俺はこの傲慢な王のそばにいる。能天気な英雄気取りのクソ野郎。世間の女どもは、こいつみたいな野郎に侍りたがるんだ。しかも、こいつ自身ではなく、こいつが持っている富と権力が目当ての浅ましい奴らだよ。

 俺は山東の有施氏の息子だが、俺の親父はかたくなに、俺をあくまでも「娘」として扱い、この暴君に俺を「嫁入り」させた。ふざけるな。身体こそは「女」扱いされていても、俺は男色家ではない。しかし、この男の後宮の女どもは俺を自分たちと同じ「女」だと決めつけて、的外れな嫉妬心を向けてきやがる。

 もし俺が一人前の男でありさえすれば、この傲慢な王の代わりに、俺がこの後宮の女どもをものにしてやるのだがな。だけど、この後宮の女どもは顔や身体がきれいなだけのお人形たちだ。むしろ、働く庶民の女たちの方がよっぽど俺の好みに合う。

 こんな後宮のクソ女どもなんか、俺の同類でも何でもない。お前らの「女心」とやらなんか、男である俺にはさっぱり理解なんか出来ねぇし、したくもねぇ。


末喜ばっきよ、良い絹地だろう?」

 このクソ野郎が俺におもねる。バカバカしい。牛や馬の革の方がよっぽど良い。

 俺は内心、この男を嘲笑う。そうだ、こいつをぶちのめすために、あえて「女」のふりをしよう。

 俺は女のように化粧をする。銅の鏡に映るのは、仮ごしらえの「女」だ。俺は性悪女のように微笑む。

「『わたくし』、絹の布地を裂く音が好きです『わ』」

 ああ、こいつは単純な野郎だ。「絶世の美女」を演じる俺様の大根役者ぶりに騙されてやがる。面白ぇ。俺のために、どんどん狂っちまえ。


 俺は後宮の女どもの両足の間を、次々と剣で、すなわち俺の仮の逸物で刺していった。あのクソ野郎の代わりだ。


伊尹い いん、俺をどうする気だい?」

 俺はあのクソ野郎の国を滅ぼした王の軍師に尋ねる。

「そなたはどうしたい?」

「俺は男として死ぬ。ただそれだけだ」

 笑うしかねぇ。俺は自らの喉元に剣の刃を向け、うつ伏せに倒れる。

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