登場人物のその後 3


【メッテルニヒ】


メッテルニヒの名が出てきたので、軽く触れておきます。


1848年の革命で、オーストリアを亡命したメッテルニヒは、3年後の1851年、ウィーンに帰ってきます。新帝フランツ・ヨーゼフ(いちごバニラアイス赤ちゃんだった……)の許しが出たからです。


以後の彼は、時折、若いフランツ・ヨーゼフの下問に答えることはありましたが、政府と接触することはありませんでした。


3年後、メッテルニヒは、31歳年下の若い妻メラニーを亡くし、失意の日々を送ります。かつてメッテルニヒが宰相だったころ、強気な性格のメラニーは、政務にさえ口を出し、ゆえに、「雌鶏」と呼ばれていました(「1848ウィーン革命」エステルハージ伯爵夫人も、心の中でそう呼んでいます)。けれど、夫より先に亡くなっていたのですね……。


メッテルニヒは3回、結婚しましたが、3回とも、妻に先立たれています。なお、3番目の妻メラニーの没後、2人目の妻の息子と、最初の妻エレオノーレの孫娘が結婚しています。これもまあ、結構な血族婚ですよね。


メッテルニヒの公的な最後の言葉は、「私は秩序を守る岩石である」だったそうです。






【ディートリヒシュタイン】


家庭教師のディートリヒシュタイン伯爵について。

私の参照したライヒシュタット公に関する評伝の中では、“NAPOLEON’S SON”(ANDRÉ CASTELOT)が、一番新しい資料でした。この評伝には、ディートリヒシュタインが、パルマのマリー・ルイーゼに送った手紙が、数多く引用されています。


そういうわけで、この小説でも、ディートリヒシュタインの視点が多く採用されています。子どもの頃の不名誉な小さな失敗が広まってしまい、殿下にとっては、誠に不本意でしょうが、ディートリヒシュタイン先生は、とてもイジリがいがあったもので。


ライヒシュタット公が亡くなった時、彼がウィーンを留守にしてたのは、お話の通りです。この一点を以て、私は一時期、ディートリヒシュタイン自身も、政府寄りの人間として描くことを考えました。実際、フランスのバーセレミーの詩の影響で(6章「キリストの犠牲」)、19世紀から20世紀初めにかけて、ディートリヒシュタインの評判は、非常に悪かったのです。


しかし、ライヒシュタット公が書いた、彼への感謝の手紙、及び、ご自身の肖像画を贈っていたこと(9章「この世で最も優しく、繊細な贈り物」)、また、以下のエピソードを知るに及んで、徹頭徹尾、ライヒシュタット公寄りの人間として描きました。



ライヒシュタット公が亡くなって、間もなくのことです。

生前のライヒシュタット公との会見について、メッテルニヒは、「彼に、少しばかり苦い薬を与えてやったのだ」という意味の発言をしました。この時、ディートリヒシュタイン伯爵は激怒し、この権力者に噛みついたのです。彼は、新聞紙上に、公開抗議文を寄せました。頑固で融通の効かない、くそまじめなディートリヒシュタイン伯爵の、深甚なる怒りです。あまりの剣幕に、さしものメッテルニヒも、発言を取り下げるしかありませんでした。


ディートリヒシュタインも、長生きでした。彼は、89歳まで生きています(妻も長生きでした。彼の死の4年前に、妻は81歳で亡くなっています)。長寿の恩恵は、ライヒシュタット公の逃げ……あんまり早く死なれて、自分の所へ来られでもしたら、またぐちぐち言われる……だったのかも。





【フォレスチ】


先日、フォレスチのカバンがオークションにかけられていたのを見つけました。

2019年4月4日のカタログで、希望価格8000~10000ユーロのところ、10140ユーロで落札されていました。


カバンの中には、彼がライヒシュタット公の家庭教師に任命された時の証書や、ライヒシュタット公の練習ノート、手紙の下書き、彼宛ての手紙、などが、詰まっていました。これらは、フォレスチの親族(の子孫)が保管していたものです。

フォレスチ先生は、恐らく、自分が死ぬまで、教え子の残した書類を、手元に置いて、大切にしていたのでしょうね。マリー・ルイーゼが、パルマで焼いてしまったのとは、えらい違いです(12章「メフィストフェレスの花火」)。


ライヒシュタット公の遺髪をみんなが切り取っていくので、彼の頭に帽子を被せたのは、フォレスチ先生です(同上)。

いかにも、子どもの頃から彼のことを知っている人がやりそうなことだと、胸が痛みました。


ライヒシュタット公の没後、フォレスチは、「プリンスは、治療されるべき病は治療されず、治療されなくてもよいことで治療された」と、自分の兄弟に書き送っています。深い、無念を感じます。


wikiに、フォレスチの墓の写真がありますが、とても、寂し気に見えます。





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