chapter17 実務技能-金品管理-

 ある日の学校帰りの電車内にて…


「ねぇねぇ、ちょっと聞いてよ~」


「どうしたのぉ?」


「昨日、バイトに入ってたんだ~」


「あぁ、先週から始めたって言う、コンビニのバイトのこと?」


「そうそう。それでねぇ、あるおじいさんが領収書が欲しいって言うもんだから、「お名前はどうしますかぁ?」って聞いたの。そしたら、満面の笑みで…」


『そうだなぁ…「」とでも書いてもらおうか?』


「って言ったの!」


「かっ…「神様」!?」


「そう!それで、領収書に「様」は印字されているものだから、宛て名を書くアンダーラインの中央部分に「神」って書いて渡したんだ」


「本当に「神」って書いて渡したんだ…」


「そうしたら、そのおじいさん、とっても怒って…」


『もういいわい!!』


「って言って、買った商品とおつりを持って出ていっちゃったんだぁ…」


銀杏大学いちょうだいがく前~銀杏大学前。扉の前のお客さまから順番にお降り下さい~”


「着いたわね」


「早く降りましょ」


「それからさぁ、こんなことも…」


「…」


”発車しま~す。ご注意下さい~”


「…ねぇ、お姉。さっきそこにいた女子高生2人の会話のことだけど…」


「「カミサマ」の話よね」


「おじいさんは、本当はどういう風に宛て名を書いて欲しかったのかなぁ…」


「そのおじいさんは、きっと「上様うえさま」と書いて欲しかったのね。「ウエサマ」と「カミサマ」を引っ掛けた、他愛もない洒落のつもりだったのよ、きっと」



***



 サービススタッフに求められる技能の一つに「金品管理」があります。


 これには、お客さまとの金銭の受け渡しはもとより、その際の言葉遣いや領収書の発行に関する知識も必要となります。


 金銭の受け渡しの際は…


・つり銭を渡すときは、金額に間違いがないか必ず確認する。


・つり銭の紙幣を渡すときは、同じ向きに揃え、できるだけ綺麗な紙幣を選らび、お客さまに見えるようにして数えながら渡す。


等に注意して渡すようにします。



 領収書の発行については…


・領収年月日は、元号から書く。


・金額は、算用数字で丁寧に記入する。最初に「¥」記号をつけ、終わりには「これ以上はない」という意味の「-」を記入する(後から金額の訂正ができないような書き方をする)


・領収金額が5万円を超える領収書には収入印紙を貼り、割印を押す。


・宛て名は、基本的にはお客さまにお聞きし、個人名か会社名を記入するが、「『ウエ』で」と言われた場合は「上 様」と記入する。


等に注意して渡します。この時、レシートはお渡ししません。


また、言葉遣いは「敬語」を駆使しつつ「バイト敬語」にも十分に注意をして受け答えをする必要があります。


レジ担当は、サービス接遇の「」重要な役割を担っています。

業務でレジ担当に携わる場合、そのことを意識したサービスの提供を心掛けたいものです。



***



「それにしても、なんで「上様うえさま」なのかなぁ…」


「江戸時代、お殿様のような偉い人を名前で呼ぶのは畏れ多いから「上様」と言っていたのを領収書のお客さまにも適用した、とか…」


「「上客様じょうきゃくさま」(お得意様の中でも特にひいきにしてくれている上得意のお客さま)が省略された形、とか…」


「諸説あるみたいだけど、はっきりとしたことは分かってないみたい。ただ、現代の企業の会計監査は厳しくなりつつあるみたいで、宛て名が「上様」だと、みたいよ」


「確かに、文化祭の時とかも、先生が領収書の宛て名は「けやき商業高等学校○年×組」って書いてもらうよ~に、って言ってたよね!」


「領収書は「法律」で守られた書類な訳だから、厳格に扱いなさい!ってことね」


「私も、友だちの親が経営するスーパーでたまに頼まれるバイトのレジ打ちの時は注意しよ~っと!」



chapter18 に続く



-検定問題にチャレンジ!-


 デパートの食品売り場のスタッフ坂上里奈は、幾つかの惣菜を購入したお客さまから領収書をもらいたいと言われた。次はそのとき坂上が領収書の発行に関して行ったことである。中から「不適当」と思われるものを一つ選びなさい。

(第32回 サービス接遇実務検定3級より)


「1.領収日は、今日の日付を書いた。」



「2.宛て名の欄に、お客さまから言われた「上(様)」と書いた。」



「3.領収額は、お客さまが空欄でと言ったので金額を書かなかった。」



「4.ただし書きは、「食品代として」と記入してよいかと確認した。」



「5.領収印は、店名住所は印字してあるので自分の担当印を押した。」



「不適当」な選択肢は…



























「3.領収額は、お客さまが空欄でと言ったので金額を書かなかった。」



-解説-



 領収書とは、発行者がその金額を受け取ったと第三者に証明するための文書なので、金額を記載しなければ意味を成しません。

 従って、お客さまが希望したからといって金額を書かなかったのは「不適当」ということになります。

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