赤い糸

餅月 柏

赤い糸

貴方がこの小説を読んでいるとふと左手の小指に何かが巻き付いていることに気付く。


赤い糸だ。


貴方が赤い糸を目線で追ってみると赤い糸は壁を通り抜けて続いているのが分かる。


気になった貴方は扉を開け外に出てみる。


赤い糸はただ一点の方向に続いているようだ。


貴方は気になって赤い糸の方へと足を進めることにした。


赤い屋根のお家の横を通り、赤いポストがある道を曲がる。


赤い糸は何処までも続く。


赤い看板のお店を横切り、赤い首輪の猫が向かった方へと足を進める。


赤い糸は何処までも続く。


赤い車の前を通り、赤い暖簾の屋台の反対の道を進む。


赤い糸は何処までも続く。


赤い顔をした酔っぱらいをはた目に、赤いステンドグラスが目立つ教会を横切る。


赤い糸は何処までも続く。


ふと自分とは真逆の方向に赤いランプを灯したパトカーと赤い消防車が狂ったように走り去っていく。


そして赤い糸は深夜の病院へと貴方を導いた。


赤い糸は4階の窓へと続いている。


病院の閉じきった扉を見てどうしようかと迷う貴方は謀ったかのように開いている窓を見付ける。


コツコツコツ、コツコツコツと非常ベルの赤いランプに照らされた病院内を歩く。


誰もいないかのような静寂のなか貴方はゆっくりと赤い糸の先を目指して歩く。


薬物禁止と書かれた赤い張り紙の前を通り1階、2階と階段を上っていく。


4階にまで上りきると赤い糸はひとつの扉へと続いている。


赤い折り鶴の千羽鶴がぶら下がっている部屋だ。


貴方はゆっくりと扉を開ける。


そこには……


















「いらっしゃい、待ってたわ」


いつの間にか赤色に変わった月光に照らされて彼女はベットに寝ていた。


その左手の小指には赤い糸がつながっていた。


「*****」


貴方は彼女に話しかける。


それは「こんばんは」だったかもしれないし「やっと会えた」だったかもしれない「見つけた」でもかまわない。


貴方は彼女に話しかけた、それが大事なことだった。


ぐぅ


その時、可愛らしいお腹の音が響いた。


彼女はクスクス笑いながら言う。


「ちょうど、お腹が空いてたの」


そんな彼女を見てつい笑ってしまう貴方。


彼女はちょっと怒ったようだ。


ふくらみ少し赤くなった頬が可愛いと思った。


「ねえ、早くこっちにきて」


貴方は彼女の隣に立った。


「少しの間目を瞑ってくれる?」


彼女のお願いに少しの期待を胸に貴方は目を瞑る。


「じゃあ、」


目を瞑り真っ暗な中彼女の声が響く。



がぶり。


視界が真っ赤に染まる。


動悸が激しくなる。


痛い。


苦しい。


何で。


困惑と激痛の中で彼女の声が鮮明に響く。


「私に食べられる為に来てくれてありがとう。動けなくてお腹が空いてたの。赤い糸に導かれるなんて素敵でしょ?」


どんどん貴方が無くなっていくのが分かる。


そして、最後に。



彼女の可愛らしい声が聞こえた気がした。



























ジリリリリリ


目覚ましの音で貴方は目が覚める。


貴方はどうやらこの小説を読んでいる間に寝てしまったらしい。


ふと、貴方は左手の小指に赤い糸が付いていることに気がついた。


貴方は辿る? 辿らない?

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