第4話 毒をも隠す夏の花

 「政治家、ですか‥‥?」

ある日、静音は某大物政治家の暗殺の仕事を任された。その政治家は闇取引に手を出していて、調子に乗ってうちの会社にまで手を出したとか‥‥。とは言っても、依頼されただけで詳しい情報はまだらしい。


「‥‥情報‥どう集めれば良いものか‥‥」

「どうした、静音。」

「‥白夜‥‥先輩。暗殺の仕事が来たけど‥情報がまだで‥‥」

先輩を遅れて付けたことに対してか、一瞬顔をしかめてから白夜は答えた。

「あ~、お前はまだだったな。一応、情報屋はいるんだぜ。」

「‥‥情報屋‥知らなかった‥‥」

「地下3階の奥の手前に看板が掛かった部屋、そこにいんだけど‥‥」

言葉を詰まらせて、少し遠慮気味に白夜は言った。

「ちっとめんどくせぇ奴でな~、情報収集力は桁外れなんだかな~。」

「‥‥大丈夫、行ってきます‥」

「お~、気をつけろよ~」

そう言うと静音は白夜に背を向けて、階段へ通じる廊下を歩き出した。


薄暗い地下の階、その暗闇は下の階へ行くごとに増していった。

「‥‥暗い‥寒‥」

地下3階に着き、

やがて奥に看板が掛かったドアが見えてきた。

コンコンッ

「‥赤野静音です‥‥依頼があってきました‥‥」

「こんにちは、どうぞ中へ入ってくださいネ。」

中から出てきたのは、想像とは全く違った、明るい感じの女の子だった。

血色の良い肌に明るめの茶髪をサイドテールにしているその子がキル唯一の情報屋だった。

「‥‥改めまして‥赤野静音です‥‥数週間前に来たのに挨拶にも出むかわず‥‥失礼しました‥‥」

「そんな敬語じゃなくていいヨ~、堅苦しいの嫌いネ。私鈴谷芽卯、ヨロシク!」

白夜が言っていためんどくさいとは、正反対のフレンドリーでいい子だった。

「‥‥じゃあ、早速依頼の方を‥‥」

「その前に!誕生日いつデスカ!」

「え‥4月12日‥‥です。」

ふんふん、そう言いながら手帳に書き留めていくのを見た静音は、一瞬にして白夜の言ったことを悟ったのだった。

 その後も、血液型や好きな色、趣味など謎の質問が繰り返されるのだった。

「、ふぅ‥ありがとうネ、もう満足ヨ!」

「じゃあ‥‥依頼を、あの‥‥この‥政治家の人なんですけど‥‥」

「あ~、こいつならすぐ出てくるヨ、取り合えず最近の動向とか調べてまとめておくネ!直ぐに出来るからちょっと待ってネ!」

「‥‥お願いします‥」

仕事の話になるとスイッチが入ったかのように真面目に話しはじめた芽卯に、若干の疲れを見せながらも、別の作業に取り掛かる静音であった。


数十分後‥‥

「出来たヨ~!あー疲れたネ」

「‥‥お疲れ様です‥ありがとう‥ございました‥」

出来上がった資料に目を向けると、たった数十分で作り上げたとは思えないほど、情報が細かく印されていた。

暫く目を通していると、不意に芽卯が口を開いた。

「恥ずかしい話、私此処に来る前、ホームレスだったネ。」

今までの元気は何処へ行ったのか、しんみりとした表情で言葉を紡いだ彼女は、弱々しかった。

「親いなくて孤児院行ったけど、捨てられちゃったヨ。」

「‥‥」

静音はそれを、黙って聞いていた。

「もう、嫌だったヨ、私も皆と一緒に学校行って勉強したかったネ。」

「‥‥でも‥学校は‥‥友達はすぐ裏切っちゃう‥あ、ごめんなさい‥‥」

「ううん、気にしないでいいヨ。人間は嘘つきだもん。暗闇の中をさ迷ってた時、ボスに誘われたネ」

いつの間にか芽卯の瞳には涙が溢れていた。

「私、何もできてないヨッ、救ってくれた皆のためにッ何かしたいのに‥私、案外いなくてもいい気がするネ」

その言葉を聞くと、なぜだか静音はやるせない気持ちになった。

気付いたら、口を開いていた。

「‥‥何もしなくて良い‥そこに居てくれるならそれで良い‥‥人は人の能力があるから‥‥無理に背伸びなんてしなくて良い‥‥」

芽卯は、涙がこぼれた瞳を大きく開いて、静音を見つめていた。

「それに‥‥芽卯さんは皆に必要とされてる‥‥だから情報の収集も任される‥‥幸せを掴もうとする前に、一回手の平を覗いてみなくちゃ‥‥」

やがて、また涙を流しながら、芽卯は言った。

「そうだネ、私、急ぎすぎたヨ!私は私のペースがあるネ!」

そう言って、また太陽のような笑みを見せた芽卯は、会ったときよりも、心なしか楽しそうだった。


「‥‥そういえば‥何でいろいろ質問してたの‥‥ですか‥」

「あぁそれはネ!私何でも知りたがりヨ、だから情報集めるのも好きネ!」

「そう‥‥だったんですか‥‥じゃあ、そろそろ帰りますね‥‥あの‥」 

「何?どうしたヨ?」

少し躊躇いながら、静音は決心したように聞いた。

「たまに‥遊びに来ても‥良いですか‥」

「もちろんネ!此処中々、人来なくていつも暇してるヨ!大歓迎ネ!」

そう答えた芽卯の、静音は少しだけ笑みを零した。

此処に来て初めて見せた笑顔だった。


これで『一旦』芽卯の心の闇は無くなったのだった。


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マフィアの秘密事情 詩風 稀恋 @akanosinon

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