第2話日課
「心ぴょんぴょん可能♪たーのしさ求めて・・・」
携帯が心をぴょんぴょんさせるアラームを鳴らしている。
目覚まし時計の音を先日ダウンロードしたごちうさのopに変えてみたのだが、ダウンロードして正解だった。
僕は流れるような動作で、携帯のスヌーズ解除ボタンを押した。
心がぴょんぴょんするんじゃー。
「そういえば・・・」
昨日の寝る前を思い出す。
ーー寝る前に明日の朝ご飯を軽めに用意しとこうと思って、でも眠たいから朝早起きして作ろうと思って寝たーーという一連の思考を一瞬で思い出し、携帯の画面を見る。
そしてその時間に驚愕した。
「五時・・・だと?」
僕は普段から朝寝坊しないように意識して、朝五時から二十分ごとに六時まで目覚ましをかけているのだが、今日はその一回目で起きている。
しかも心をぴょんぴょんさせて、だ。
しかも心をぴょんぴょんさせて、だ。
大事なことだから二回言った。
いやあ嬉しい。
早く起きれたということは読みかけのラノベも読めるかもしれない。
リゼロの最新巻途中だったんだよなあ。
朝ご飯はみそ汁とごはんのみにして調理時間を短縮してできた時間と通学時間で読み終われるかもしれない。
他に小説をもう一冊持って行っておこう。
あ、でもその前に素振りと魔力操作の練習ぐらいはしとかないとな。
リビングから玄関に回り、立てかけてある剣を持ち出す。
この家の庭はそこまで広くない。
だが剣を振るには十分だ。
鞘から剣を抜く。
その件は装飾はほとんどなく武骨で古いように見えるが、シンプルなデザインだからこその威厳を感じさせる。
正中線に剣を構え、振り上げ下す。
体に忘れさせないようにするための確認行為でしかないのだが、朝の素振りと言うのはこちらに来る前からの、というか小さいころからの日課であり何気なくやらなきゃという感じで欠かしたことはない。
二十分ほどしたところで汗をかいてきたので、剣を鞘に納めて懐から小さな五センチ四方の正方形の宝石のようなものを取り出した。
魔力付与の特訓だ。
この小さな石は聖晶石と呼ばれていて魔力をためる物体なのだが、この物体は魔力を通しにくくなっている。
だから溜めるのは大変で五溜めてやっと一ぐらいのものだ。
常人なら。
僕ならば二で一くらいだ。
だがしかしそれはまだ僕が未熟な証でもある。
聖晶石に魔力が伝わりにくいのは材質が常に震えているからであって、技術さえあればなんとかなるものなのだ。
力を籠めるイメージで体中からエネルギーを引っ張る。
聖晶石に光が宿る。
僕は一定量力を流したところでやめる。
そろそろご飯を作り始めないと、リゼロを読む時間が無くなる。僕は大きく背伸びをして意気込んだ。
「今日も一日頑張りますかあ」
空は雲一つない快晴だった。
僕は今リゼロを読んでいる。
そして僕の今いる場所は学校である。
はいここ疑問点。
学校に着く前までには読み終わっているのではなかったのか。
そうなのだ。
そのはずだったのだ。
しかし今日の朝は人身事故で電車が遅れるようだったので、自転車で行く羽目になったのだ。
人身事故は恨まない。
だが、なんだろうこのどこに当てればいいかわからない怒りは。
とりあえず前の席の荒川にぶつけた。
「痛っ、何すんだよ?あ、そういえばさ昨日さくら荘周回してさ、もうさすが鴨志田ってなったわー」
そう、荒川はこういうやつなのだ。
僕は思わず笑ってしまった。
「なんで笑うんだよ?」
「いやだってさ、最初の突っ込み水の泡のように消えたのが面白くて、」
「いやだってお前、人身事故の影響で電車乗ってこれなかったせいで俺から借りたラノベよめずに自転車で急いできたんだろ?だから聞いても無駄だな早くラノベ読ませてあげようと思ったけど昨日見たさくら荘があんまりにも面白かったから話を膨らませてしまったって感じ。」
「・・・」
こいつ頭の周り方どうなってんの?
「いやいや、俺が自転車できたなんてわかるの?」
「ポケットの膨らみ、風が当たって少し乱れた髪、ズボンの癖の付き方とかである程度分かるだろ。」
「・・・」
授業開始のチャイムが鳴った。
割と真剣に俺よりお前のほうが勇者向いてない?
僕は聞きたくても聞けなかった。
終わりのチャイムが鳴り、僕はリゼロを机の中から取り出し、しおりを挟んだページを開き、そこで気付いた。
「荒川、なんでみんな何かにせかされたかのように教室を出ていくんだ?」
荒川は大丈夫かこいつ、とでも言うような視線で僕を見て実際に言った。
「大丈夫かこいつ。次は体育だろうが、忘れてたのか?」
僕は顔を青ざめさせる。
体操服って今日必要だったっけ?
「やばい持ってきてない・・・」
荒川がそれを聞いた途端自分のバッグの中をあさり始めた。
そして何かを取り出し僕に投げつけてくる。
「何これ?」
「体操服」
僕は思わず吹いた。
「なんで二着持ってんだよ」
「間違えて持ってきてた。これで俺の昼飯おごりな?」
荒川はこういうやつなのだ。
なんだかんだ言って周りに優しい。
だからこそ、
「お前の厚意に甘えて借りるよ。昼飯代は払わないけど。」
僕はその一言を残し、荒川から逃げる。
「うんうんそうだなっておい!」
荒川がワンテンポ遅れて飛び出す。
そして走りながら二人は確認のため時間を見た。
僕たちは驚愕し、遊んでいる暇がないことを悟った。
「「あと一分・・・だと!?」」
僕は勇者として自分の能力をフル活用し、転移魔法まで使った。
結果・・・
「えー、今日は野球をします。」
生徒が歓喜に湧き上がる。
一方対照的に僕と荒川は同時に溜息を吐いた。
もう疲れた。
と言うかそもそも体育苦手だし。
力加減が難しいのだ。
サッカーで覆いっきりボール蹴ったらボールが消え去るし、本気で走ればそれなりにこの世界最速ぐらいは出せると思う。
だから、体育は嫌いだ。
チーム分けが始まった。
生徒たちで話し合うそうだ。
どんな偏ったチームが出来上がることになるやら。
とりあえず荒川と同じなら他はどうでもいいが。
チームが決まったらしい。
僕はどこだ?
「よしっ」
思わず声が出た。
荒川と同じだ。
これなら今日の体育はある程度は楽できるんじゃないか?
きっとそうだそうに違いない。
チームで集まり作戦会議をするらしいので集まる。
確かにこういうのは大事だと思う。
前の世界でも僕は戦いの前、士気を上げるために毎回やっていた。
だがしかしどうせ本気でやらないのだから聞かされても同じと思い、ぼくはぼーっとリゼロの考察などして時間を過ごす。
すると作戦会議が終わったらしい。
今度はチーム同士で先行か後攻か決めるらしい。
先行だそうだ。
一番バッターは誰だろうとふと思い番号表を見ると、一番バッターは俺だった。
「は?は!?」
なんで俺なんだ。俺なんか推薦するやつチーム内に一人も、てそうか。
「荒川貴様っ」
僕は叫ぶ。
荒川が大爆笑して転げまわっている。
あいつはあとで殺す。
むしろ今から殺す。
僕はいいことを思いつき、バッターボックスに素直に向かう。
そしてバットの材質、振るルート、風向きを考える。
野球の始まりの合図が鳴る。
ボールが投げられる。
それに向けて僕はスキル限界突破を使い、限界まで引き上げられた知覚がボールのスピンに至るまで完全に把握する。
そして僕はワンテンポ遅らせてバットを振る。
抜けざまに切るように、軽く触れる感じでルートをずらす。
少し斜め上にそれたボールは追い風で加速し、荒川のいる席めがけて飛んで行った。
「はあ!?」
荒川はそれに気づき即座に横に飛び避ける。
それと入れ替わるようにボールがすごい勢いで座席に突っ込んだ。
僕はうまくいったと思い内心ガッツポーズ。
荒川がキレる。
「お前勇者としてのプライドはないのかプライドはあ!」
「勇者?ごめん何言ってるかわかんなーい。僕の名前は勇士です。」
よしまあこれだけやっておけばいいだろう。
あとは軽くヒットでも売っとけばクラスメイトに文句も言われない。
と思っていたのだけど。
投げる側が下手な所為でボールにしかならない。
あと一回でフォアだ。
フォアで行くと、士気が上がらないんだよなあと思い、無理やりにでも打つことにする。
明らかに僕の右上辺りを通る軌道でボールが投げられる。
それを風魔法を使い、ルートを修正しながら打とうとしたら、目前がまぶしくなり眼がくらむ。
よく見ると荒川がガラス板のようなものをもって太陽の光を反射させ僕の目に当てている。
僕は目がくらんだせいでろくに打てず、変な方向に飛んでいった。
その方向に不幸にも女子がいて、友達らしき生徒と談笑などしている。
僕は打って0,1秒で悩む。
ここで助けに入らないと後で相当に言われるだろうし、評判も悪くなる。
だが目立つのは極力避けたい。
いやむしろ飛んでいくのが予測できているなら当たりそうになったことが気付かれる前に処理してしまえばいいのか。
僕は足に力を籠め全力で飛ぶ。
飛ぶボールに追いつき、空気を蹴って止まり、ゲートから聖剣を抜き一閃。
バチバチと言う音を鳴らして雷が一閃の上を走る、その光で他生徒の目が眩み、ボールは聖剣に打たれてはるか彼方に、ぼくはそのままやり切った感を出して汗を拭く。
この一連動作が1秒。
荒川が爆笑している。
あいつは見えているだろうな。
他の人から見た感じなら僕が瞬間移動したようにしか見えなかったはず。
これなら大丈夫だろう。
勇者の価値観はまだこの世界の常識に順応しきれないようだ・・・
オタク勇者の愛した日常 @佐野 @sagachan1218
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