14*どうしよう。今日は一日、沙里緒さんと過ごすつもりだったから、
どうしよう。
今日は一日、沙里緒さんと過ごすつもりだったから、この後の予定が何もなくなってしまった。
沙里緒さんはすぐに戻ってくると言っていたけど、さすがにそれは無理な話だろう。
彼女は勇者として、異世界のピンチを救ってくるのだ。
けど、ピンチか。
いったいどんなものなんだ? いつか現れたドジっ子魔王、確かディアタナスだったか? あの子と違って、本当に強い魔王みたいな奴がいて、人類や世界を滅ぼそうとしていたりするのだろうか。
「勇者も大変だ」
ね、沙里緒さん、と呼びかけようとして、俺は隣に沙里緒さんがいないことを思い出した。
危ない、危ない。
あともう少しで、誰もいない空間に話しかけるちょっと痛い人になるところだった。
俺は額から頬を伝って流れ落ちる冷たい汗を拭った。
沙里緒さんと一緒に過ごすようになって、それほど日が経ったわけではない。
だが、沙里緒さんと一緒に過ごすのがいつの間にか当たり前になっていて、沙里緒さんがいないことが不自然に思えた。
真耶の言葉を思い出す。
「これでつき合ってないとか、確かにおかしな話だな」
苦笑した。
それにしても、この町に戻ってきた時は思い出のあの子と再会することばかり考えていたのに、今ではあの子のことをほとんど思い出さなくなっている。
沙里緒さんに振り回されて、それどころじゃなかったというのもあるけど……。
そこまで胸の内で呟き、思いつく。
「そうだ」
あの子と出会った公園に行ってみるのはどうだろう。
町中を捜し回ったりはしたが、あの公園にはまだ足を向けていなかったのだ。
大きくなった今、公園で遊んでいるとも思えないという理由で。
だが、今はやることがないし。
なかなかの名案であるような気がしてきた。
「よし、行くか」
そう呟いて、俺は歩き出した。
が、元々、散々迷いに迷って辿り着いた場所である。
どこにあるのか、正確な位置は覚えていない。
それでも微かな記憶を頼りに歩いているうちに、何だか見覚えのある道になってきたような気がした。
町中を走り、坂を上り。
「そうだ……ここだ……」
この先に、あの子と出会った公園はある。
……あるはずだ、絶対に。
果たして、そこに公園はあった。
思い出の公園にたどり着けたことに、よかったと胸をなで下ろすものの、しかし記憶の中の公園とは、少し様子が違っていた。
あの時、確かにあったはずの遊具がなくなっていたり、砂場の位置が変わっていたり。
俺は時の流れを感じた。
十五年しか生きていないようなガキが何を言うんだと思われるかもしれない。
けど、そう感じたのは事実だし、あれからもう十年経っているのだと、そんな現実を見せつけられたような気もして、なんとも言えない、ざわざわした感触を胸の中に覚えさせた。
とはいえ、変わらないものもあったのだ。
あの時、あの子が座っていたブランコである。
ペンキが塗り直されて、記憶の中のものよりカラフルな感じになっていたけど、記憶どおりの場所にちゃんとあった。
そのことがうれしかった。
公園には俺以外、誰もいなかった。
貸し切り状態。
せっかく来たのだ。
少し、遊んでいこう。
公園には俺以外誰もいない、貸し切り状態。
よし、まずはブランコに乗ろうと、そう思った時。
その子は現れた。
「あの、すみません」
呼びかけられ、俺は振り返った。
かわいらしい感じの女の子が、そこにいた。
年齢は俺と同じくらい。
赤毛をツインテールにしている。
俺はその子を見つめた。
どこかで会ったような気がしたからだ。
だから、聞いてみた。
「俺たち、どこかで会ったことないか?」
と。
一方で、思うことがあった。
これはもしかして運命というやつではないか?
ここは思い出の公園で。
たまたまやって来た俺の前に、どこかで会ったことがあるような気がする少女が現れた。
あの時は俺が彼女を見つけて声をかけたけど、今回は逆。
彼女が俺を見つけて声をかけてきた。
つまり、目の前にいるのは、あの時、出会った女の子。
思い出の、女の子。
そう思ったら、急にドキドキしてきて、格好とかが気になり始めた。
変な格好はしてきてないつもりだけど……。
脳裏に声が蘇る。
『かっこいいです、素敵です!』
それは沙里緒さんの声だ。
浮かれていた気持ちが一瞬で冷静になる。
この子が思い出の女の子だったら……沙里緒さんは?
俺のことを好きだと言ってくれて。
俺も沙里緒さんと同じ気持ちで。
今日、俺は沙里緒さんに自分の気持ちを伝えようと思っていたはないか。
それなのに……。
会ったかどうか、やっぱり答えなくていい。
そう言おうとした時、彼女が口を開く。開いてしまう。
「あ、ああああ会ったことなんか全然ないぞ!?」
聞きたくなかった――って、会ったことない!?
「え、本当に?」
「も、ももももちろん! 一度も会ってなんかいない!」
「そっか。……そうなんだ」
どうして彼女がやたらと慌てた感じなのかは気になったが、答えを聞いて安心した。
どこかで会ったような気がしたのは、俺の勘違いだったのだ。
「……そもそも、これだけかわいい子なら、もっとはっきり覚えているはずだしな」
「か、かわいい!?」
俺の呟きに女の子が猛烈に反応を示した。
そのことに驚きつつも、俺は頷いた。
「え、あ、ああ、うん。かわいいと思うよ」
「……そんなこと言われたの、初めてなのじゃ」
そんなことを言って、女の子ははにかんだ。
……のじゃ? どこかで聞いたことがあるような。
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