第54話 ほんのちょっとした夢

 水で、

 水で満たされていく。

 私は水中で息が出来る女子高生色をしたマーメイドになる。

 豊かな胸を貝殻で包み下半身は魚である。私はその気分を着衣する。

 そこはまるで沈没船の船底に迷い込んだ教室であった。

 私の気持ちはゆめうつつ。ただ、遠く海の浅い場所で黄色の歓声が聞こえてくる。

 私は海の中にいた。


 私はキスをしている間、唇を君島先生と重ねている間、瞳を閉じて意識をトリップさせていた。私の中の感覚がそうさせたのだ。

 その瞬間に私は恋の終わりと知覚する。未だ始まったばかりだけど、それには終わりがあるのだ。物語の終わりが。

 そのフィナーレを私は見てきたような気持ちになっていた。

 夢の終わり、そうこれは君島先生の言うとおりこれは夢なのである。私は目が覚めればそれは終わり新しい生活が待っている。

 このまま覚めないで良いのだろうか、私はまた海原を思い浮かべる。

 それは目を閉じれば直ぐそこにあった。

 どことなくそれはアメリカンな陽ざしで満たされた海で、私は水上からそれを眺めていた。これから沈む船の上でただそれを待っている。

 ここで言う船とは夢であり、私の中身と君島先生の中身が触れ合っている夢の中に私は船上で海を見つめている。

 ただたゆたっている。

 ゆれうごいている。

 さざ波に揺られ。


 この夢を終わらせたいの?私は自分の心で考えてみる。終わったら、この世界の私はどうなるんだろう。

 全てを決めるのはあまりにも早計だった。あるいはそれを終わらせるのは。

 現実世界の私はステファニーと×××をしている最中で彼女の魔法によって無意識に夢を見せられている。君島先生は単に寝ているだけであったが。

 何の符合か私達の夢は交錯しあってしまった。

 私だけが夢から覚める術を知っている。私は君島先生をここに閉じ込めているのだ。

 夢から覚める方法、それは自分の中の魔法を精一杯使うことである。快楽によってもたさらされた未来世界の魔法を。

 私はどうすれば良いのだろうか。



 そんな時、授業のチャイムが鳴る。

 ハッと息をすると君島先生は私を見つめていた。

「それじゃあ僕はこれで、授業行ってくるから」

「待って、君島先生、これは夢なんです」

「やっぱりそうだよね。抹茶はこれが夢なんだってわかったのか?」

「私と君島先生の夢が交錯してしまったんです。夢から出るには、ただ私が魔法を使えばいい」

「もう少しこの夢を見ていくかい?」

「どうしよう。私、消えてなくなりそうで怖いんです」

「なら、もうちょっとここにいようか。抹茶が怖くなくなるまで」

「良いんですか?」

「ああ、いいよ。夏のほんのちょっとした夢さ」


 ほんのちょっとした夢、私はその響きが喜びであふれているのを知っている。


「じゃあ、授業に行くからな。抹茶ゆっくりでいいんだよ」

「はい!」

 先生はそう言うと教室から去って行った。

 クラスの生徒達が私に群がってくる。

 その中の一人、ステファニーが「とうとう始まったね、あなたと先生の恋物語」と言った。

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