第21話 幽霊船オルガ号
僕はレオナ号のエンジンを始動した。僕たちと一緒に格納庫まで走ってきたシモンおじさんにジェミヤンが言った。
「お父さんがこんなとこに来てるなんてびっくりしたよ。はじめから乗ってたの?」
シモンおじさんはあまり体力はないようで、ハアハアと肩で大きく息をつきながら息も絶え絶えに答えた。
「いや――、ガヴ、ガヴリイル様と一緒に――」
シモンおじさんは床にドカッと座り込んだ。
「リーディア号に、行こうとしてたガヴリイル様に、たの、頼んで連れてきて、もらったんだ。まな板の、後ろに乗せてもらってな」
おじさんはそう言ってニヤッと笑った。
「ええっ! 音速まな板に乗ったの!?」
「ああ、そうだ。しかし、死ぬかと思った。もう乗るのは――ごめんだ」
「うらやましいなあ。俺も乗りたいな」
そう言うジェミヤンに僕が言い返した。
「何だよ。ジェミヤンはレオナ号に乗ってるじゃないか」
「あっちのほうが遥かに速いよ」
「スピード速いと怖がるくせに」
そうこうしているうちに、滑走路の先のハッチがゆっくりと開き出した。僕は後ろを振り返った。ジェミヤンは準備が整ったようで、親指を立ててみせた。
「よし、行くぞ!」
誘導員が僕に合図を送ってきた。僕はレオナ号を滑走路に進めた。その時、ドンという衝撃がリーディア号を襲った。レオナ号がズルッと横に滑った。ハッチの向こうを光の帯が走り去った。タイミングが悪ければ、ハッチから飛び出す瞬間に吹き飛ばされるなと思った。でも、逆に、光の線に襲われた直後の今こそが、飛び立つチャンスでもあった。僕は迷わずレオナ号を走らせた。
レオナ号はハッチから飛び出した。機体の重さで、レオナ号は空中で沈み込んだ。僕は機首を下げてあえて落下させた。落下速度とプロペラの推進力で、レオナ号は勢いを増し、大気をしっかりとグリップした。僕はレオナ号を上昇させ、湯気を上げながら増殖する黒いオルガ号に向かった。
レオナ号の周囲にブラックイーグルと王宮飛行隊が集結してきた。その時、オルガ号から放たれた光の線が王宮飛行隊の二機に命中した。二機は吹き飛ばされ、脱出したパイロットを吊したパラシュートを後に残して、黒煙に巻かれながら墜落していった。
王宮飛行隊の隊長機にヴァジム副長機が接近し、合図を送った。王宮飛行隊は離脱し、少し距離を置いた所で隊列を組み直した。
ブラックイーグルがレオナ号の四方八方に広がり、位置を変えながらオルガ号に向かった。オルガ号から光の線が放たれるが、ブラックイーグルの撹乱飛行によって目標を定めきれないのか、ブラックイーグルは器用に光の線をかわしている。さすが、この国随一と言われる腕のいい飛行機乗りたちだ。
でも、レオナ号が狙われたら、僕はそれを避ける自信がない。操縦桿を握る手が、革手袋の中でじっとりと汗ばんでいるのを感じた。
光の線は、オルガ号の船首の舳先から発射されていた。目を擬らした僕が見たのは、明らかに人の姿だった。飛び続ける飛行船の舳先に立っているなんて、人間にできる事ではない。でも、それはユーリの姿だった。確かに、剣を手にしたユーリだった。
オルガ号を見つめる僕の視界に、大きなワシミミズクが割り込んできた。
「隊長!」
エドアルト隊長はレオナ号と同じ角度に翼を広げ、僕を先導した。
隊長の前に光が見えたと思った瞬間、隊長は体を少し右に傾けた。すぐに悟った僕はレオナ号の機体を隊長の動きに連動させた。それと同時に、レオナ号の左の翼のすぐ下を、光の線が走り抜けた。隊長はチラリと僕を振り返ると、再び前を向いた。
オルガ号に接近するに従い、その全貌に僕は圧倒された。以前見た幽霊船の面影はそこにはなく、目の前にあるのは、空母リーディア号に匹敵するほどの大きさに成長した、得体の知れない黒い肉の塊だった。
「成長が止まった?」
オルガ号の船体はドロリとした艶を放ち、湯気が立っているものの、肉が次々に生まれてきているようには見えなかった。皮膚が次第に滑らかになってきていた。幼虫がサナギになり、やがて成虫になっていく過程のようだった。
ブラックイーグルが先にオルガ号に最接近した。舳先に立つユーリからの攻撃を避け、五機はオルガ号の下に潜り込み、船体を舐めるように飛んだ。僕もエドアルト隊長に続いて、オルガ号の船体の下を飛んだ。
レオナ号は機体の下から主翼が出ている単葉機だから、コックピットから上方の様子がよく見える。成長したオルガ号の船体は長くて、図鑑で見たシロナガスクジラのようだ。僕はシロナガスクジラの口先から腹へ、そして尾びれへと向かった。オルガ号をかすめて僕たちは飛び去った。
再びオルガ号に向かうために旋回しようとした時だった。後ろから、雨上がりの昼のような明るい光が差した。その光は空いっぱいに広がり、重たく垂れ込めていた曇天は水で流したかのように消え去った。
僕は不思議な感覚に落ちたまま、レオナ号を旋回させた。すると、僕の視界にオルガ号はいなかった。そこには清々しい夏の青空が広がっていた。魔女の幽霊船は雲の中を移動するらしいから、この青空の下では存在できないのだろう。
太陽の逆光の中に、銀色に輝くリーディア号が見えた。光の加減で艦橋の窓は見えないけど、向こうも僕を見ているだろう。
この時、僕は妙な違和感を覚えていた。僕はカンカンと合図を送り、通話管を口に当てた。
「ジェミヤン。ブラックイーグルと王宮飛行隊はどこだ?」
「えっと――いないね」
一緒に飛んでいた筈のブラックイーグルの姿がどこにも見当たらなかった。エドアルト隊長の姿もない。
「王宮警備船は?」
「いないね」
何故だろう。この青空にいるのはレオナ号とリーディア号だけだった。僕たちがいるこの空が、波一つない鏡のような水面に思えた。波紋はどこにもない。プロペラがどんなに空気を掻き乱しても、風が起きる気配を感じなかった。レオナ号はつるつると滑るように飛んでいた。
「一旦、リーディア号に戻ろう」
僕はジェミヤンにそう言って、ラダーペダルを踏み、リーディア号へと機首を向けた。
リーディア号に近づくと、すでにハッチは開いていた。ブラックイーグルは先に戻っているのだろうか。
ハッチに誘導員の姿が見えなかった。でも僕は吸い込まれるようにハッチに向かってレオナ号を飛ばした。
レオナ号はハッチの中に滑らかに飛び込んだ。ところが、滑走路にアレスティングワイヤーが張られていなかった。下ろしていたフックは何もつかむ事ができなかった。その事に気づいた瞬間、僕は青ざめた。ワイヤーをつかめなかった時にタッチアンドゴーで再び飛び立てるように、着艦の際はエンジンの出力を上げておかなければならないのに、僕はそれをしていなかった。いや、していたのだが、エンジンの出力が上がらなかった。何かに吸い取られたかのような感じがした。リーディア号は停止状態だったから、レオナ号の飛行速度が相殺されることもない。このままだと失速したまま滑走路を走り、その先のハッチから飛び出してしまう。そんな事になったら、真っ逆さまに落ちてしまう。
僕は慌ててピッチレバーを力一杯引いた。油圧式の可変ピッチ機構が作動して、プロペラの角度がマイナスに変わり、逆向きの推進力になった。レオナ号は急減速し、相反する力に押し潰されそうになった機体がギシギシと軋んだ。それでもレオナ号は滑走路を走り続けた。
「止まれーっ!」
いつの間にか突っ伏していた僕の耳に、カラカラという音が聞こえていた。恐る恐る顔を上げると、レオナ号は反対側のハッチのすぐ目の前で止まっていた。レオナ号のプロペラがゆっくりと空回りしていた。何故出力が落ちたのかわからないが、このまま外に飛び出していたらと思うと、生きた心地がしなかった。エンジンは勝手に止まっていた。
振り返ると、ジェミヤンも僕と同じように顔を上げたところだった。何はともあれ、僕とジェミヤンは無事だった。
辺りを見回すと、こんなに広かったっけと思うくらい何もなかった。何もないというか、レオナ号以外の飛行機がなかった。ブラックイーグルは帰ってきてはいなかった。ラビナ飛行場に行ったのだろうか。
僕とジェミヤンは滑走路に降り立った。
「おーい!」
コルネーエフ文書が入った布の鞄を肩に掛け直しながら、ジェミヤンが大きな声で叫んだ。その声は反響して、僕たちの耳に返ってきた。物質が音を吸収しなくなったような感じがした。ここには誰もいなかった。
「誰もいないね。皆どこに行ったんだろう」
ジェミヤンが言った事は、僕が思った事と同じだった。悪戯な妖怪に化かされているように思えた。
「艦橋に行ってみよう」
僕の言葉にジェミヤンは頷いた。
艦橋に続く通路は何だか妙に白っぽかった。僕たちの足音が通路に響いていた。
「あっ!」
僕は思わず声を上げた。少し前の方で、交差する通路を人が通り過ぎた。一瞬だったからはっきりとはわからなかったけど、一つ言える事は、その人影は明らかに子供だった。
並んで歩いていたジェミヤンと目が合った。
「見た見た。子供がいた」
「追いかけてみよう」
僕たちは子供の影が向かった方に走った。角を曲がった時、先の方に、走る子供の影を見た。その姿は一瞬で消えた。
「やっぱり子供がいる!」
僕がそう言った直後、白い通路に子供の囁き声が聞こえた。クスクス笑いながら何か話している。その声は一人や二人の声ではなかった。何人もいるようだ。
得体の知れない影と声だったが、僕は何故か恐怖を感じなかった。それよりも、心臓をきつく締めていた固い紐が緩まったような気がした。ちらほらと見え隠れする子供の影を追って、僕たちは小走りに進んだ。
やがて、目の前に扉が見えた。僕は導かれるように扉の取っ手に手を掛けた。
その瞬間、僕が触れた取っ手がビクンと脈打ち、モコッと盛り上がった。それは木の枝に姿を変えた。そして、波紋が広がるように四方八方へと木の枝が伸び、葉を茂らせた。僕たちがいた白い世界は、あっという間に森になった。光が僅かに差すだけの薄暗い森になった。目の前の扉は、古ぼけた木の扉になっていた。僕は扉を開けた。
僕たちは扉の中に足を踏み入れた。鮮明な既視感に僕は襲われた。僕たちはこの場所を知っていた。そう、ここは、深い森の奥にある、トポロフの魔女の家だった。
色褪せた橙色の煉瓦の壁の前には、所々朽ちかけた頑丈そうな造りの棚があった。棚には籠や食材が並べられている。部屋の中央の壁には大きな鏡が置かれている。鏡には布が掛けられていた。
部屋の奥にある台所では、小さな鍋が火にかけられていて、何かがグツグツと煮えている。湯気がユラユラと昇っている。そして、その前に、若い女性の後ろ姿があった。
湯気と見紛うばかりの揺らめきを持った金色の長い髪は、頭の後ろで一つに縛られていた。竃の火の熱さのせいだろうか、透き通るような白い肌のうなじに一筋の汗が艶やかに光っていた。その首筋に、星の形のアザが見えた。
女性の足元に白い猫がいた。白猫はおいしそうな匂いが気になるのか、女性の脚に前足をかけ、背伸びをして鍋を覗き込もうとしている。
女性は何かに気づき、振り返った。エメラルドのような透明なグリーンの瞳が僕たちを見た。いや、彼女が見たのは僕たちではなく、僕たちの後ろだった。僕たちは彼女の視線の先を知るべく、振り返った。
僕たちの真後ろに、背の高い、しっかりとした体格の若い男がいた。男は土埃が付いたダークグレーのツナギを着ていた。ツナギの左胸には、イラリオン飛行船商会の金色の刺繍が誇らし気に縫い込まれてあった。
「ネストルじいさん?」
僕は思わず声を出した。でも、彼の耳に、僕の声は全く届いていないようだった。若いネストルじいさんが持っている籠には、瑞々しい木苺が山のように入っていた。
「お帰りなさい」
「ずいぶんたくさん穫れたぞ」
「すごいね。冬に備えて、ジャムを作ろうか」
「冬か」
「秋が過ぎて冬が来ると、森は白一色になるの。木も土も家も真っ白に。静かな雪が全てを覆い尽くす。凍えるほど寒いけど、これからは、もう寒くない」
女性は少しはにかんだように微笑んだ。
「また服が汚れちゃったね。洗おうか?」
ネストルじいさんは自分が着ているツナギを見て、照れ臭そうに笑った。
「いいよ、いいよ。自分で洗うよ。でも、他に着る物がないんだよな」
ネストルじいさんの言葉に、女性はクスクスと笑った。
だけど、どうしてだろう。二人の間に僕たちがいるのに、何故二人は気づかないのか。
ネストルじいさんは女性の元に向かった。じいさんの体は、蜃気楼のように僕たちの体をすり抜けていった。僕はようやくわかった。僕たちはここにいるんじゃない。この世界を見ている傍観者なんだ。
これは、いつかネストルじいさんが話してくれた、彼が二十歳の頃の世界だ。初めて造った小型蒸気飛行船オルガ号が墜落して、トポロフの森の中を彷徨い、やがて煉瓦の家に辿り着いた。ここはその煉瓦の家だ。つまり、僕たちの目の前にいる若く美しい女性は、トポロフの魔女だ!
僕の隣で、コルネーエフ文書が入った鞄を両手で抱きかかえながら、ジェミヤンが女性を小さく指差した。口から泡を吹き出しそうなくらい、唇がブルブルと震えている。僕はジェミヤンの肩を軽く叩き、「大丈夫だ」と囁いた。
自分でも不思議だった。何故、大丈夫だなんて思うのだろう。目の前にいるのは、何隻もの飛行船を墜落させ、町を火の海にした恐ろしい魔女なのに。
同時に僕は気づいてもいた。幸せそうな表情を見せる魔女に恐怖を感じる筈などない事に。小さな頃に深い森に置き去りにされ、たった一人で生きてきた魔女が見つけた幸せな時間を、今、僕たちは目にしているんだ。
突然、風がビュウッと吹いた。風は僕たちの前から二人の姿を消し去った。
静寂の中、隣の部屋から若いネストルじいさんが現れた。
「ジーナ。ジーナ」
ネストルじいさんは魔女の名を呼びながら探したが、魔女はどこにもいなかった。じいさんは、布が掛けられた大きな鏡の前に立った。そしてそのまま思案に耽った。
これは、魔女との約束を破って鏡の布を捲ってしまう場面に違いないと思った。その布を捲ってはいけない。
「駄目だ!」
僕は思わず、じいさんに声を掛けた。でも僕の声は届かなかった。じいさんは布に手を掛け、捲ってしまった。
じいさんは鏡を見た。そこに自分の姿が映っていない事を不審に思ったのだろう。不思議そうにじっと見つめた。そして、あっ、と声を上げた。後ろを振り返り、再び鏡を見た。この時、じいさんは鏡の中の世界に、一人ぽっちでうずくまるやせ細った男の子を見たはずだ。鏡の世界に取り込まれた、魔法を使えない魔法使いの少年の姿を。
不意に、僕たちの足元を数枚の葉が風に乗って通り過ぎた。僕たちは煉瓦の家の玄関の扉が開いたのを知った。真後ろに人の気配がした。間違いなく、それは魔女だと気づいた。でも、気づいたからこそ、僕たちは振り返る事ができなかった。鏡に見入っているネストルじいさんは、全く気づいていなかった。
魔女は僕たちの体をスウッと通り抜けた。そしてネストルじいさんの傍らに立った。
「その子は鏡の中にいるの」
ネストルじいさんは驚きを隠せなかった。鏡と魔女を見比べた。
「何故だ。俺は鏡に映っていないのに、君は映っている。それにこの子は――?」
魔女は、美しいその目を伏せ、静かに話し始めた。
「私は魔法を使えない魔法使いの子だった。十歳の時にこの深い森に捨てられた。でも、トポロフの魔法の鏡は私を守護者として選び、強大な魔法の力を私に与えた。でも、選ばれなかった子は鏡の中に閉じ込められて、飢えて死んでいく。その子はあなたが来る前の日にここに辿り着き、鏡に閉じ込められた。もうすぐ死んでしまうでしょう」
そして、声を震わせて、言葉を続けた。
「あなたは約束を破った。あなたにだけは知られたくなかったのに――」
そう言った魔女の白い頬を一粒の涙が伝い、床にポトリと落ちた。その瞬間、落ちた涙から目映い光が放たれた。光はこの部屋の全てを包み、僕たちは何も見えなくなった。
ギイッ、ギイッと木が軋む音が聞こえてきた。光が少しずつ和らいできた。ここは、さっきまで僕たちがいたはずの煉瓦の家ではなかった。黒ずんだ木で造られた飛行船の艦橋だった。
「オルガ号の艦橋か」
僕は冷静に呟いた。辺りを見回しながら、ジェミヤンが言った。
「え? 煉瓦の家じゃなくて? リーディア号でもなくて?」
「ああ。オルガ号はリーディア号に擬態してたんだ。そして、俺たちが見たのは、六十年前の光景だ」
僕は魔女が住む煉瓦の家が、木々の姿に擬態して森に潜んでいた事を思い出していた。
その時、僕は寒気を覚えた。背中に冷たく燃える炎を押し付けられたような気がした。背中越しに甲高い声が聞こえた。
「その通りだ」
振り返った僕たちが見たのは、薄笑いを浮かべている猫人間だった。
「お前! 吹き飛んだんじゃなかったのか!」
驚いた僕に猫人間は言い返した。
「あんな羊ごときに私がやられる訳がなかろう。まあ、多少面食らったがな」
猫人間はそう言うと、カツカツとブーツの足音を響かせながら、僕たちの目の前に歩み寄ってきた。
「最後の魔法使いよ。お前は運命に抗う事などできぬのだ。お前が自らの意思で魔剣を手に取らぬなら、魔剣がお前を取り込むまでだ。お前は魔剣に斬られ、逆えなくなるのだ」
猫人間が横を向いた。僕たちもその視線を追った。艦橋の正面の窓から滲み出るように人影が現れた。それは、アドリアンの魔剣を持ったユーリの姿だった。ユーリの胸元で、涙の形をした木のペンダントが揺れていた。
「ユーリ!」
「我が剣が、お前を欲している」
ユーリは低く響く声を発した。それはユーリの声ではなかった。
ユーリはぶらりと下ろしていた魔剣を持ち上げ、僕に向かって突き出した。魔剣の刃に触れる空気が蜃気楼のように揺らめいている。
「お前は最後の魔法使いとして、我が剣を空に突き立てるのだ。お前の身を我に捧げよ」
ジェミヤンがコルネーエフ文書が入った布の鞄を肩から外しながら言った。
「トポロフの魔女に操られてる。いや、ガヴリイル様が言った通りなら、アドリアンの魔剣に操られているんだ!」
ジェミヤンはコルネーエフ文書を取り出し、ブンブンと振った。しかし、本の中から一枚の花びらがパラリと落ちただけだった。
「駄目だ! やっぱり羊はいなくなっちゃったんだ!」
ジェミヤンは花びらを拾った。
「貸してみろ」
僕はジェミヤンの手から本と花びらを取り、力任せに振ってみた。でも、羊が出てくる事はなかった。
「何だ、あいつ。こんな肝心な時に!」
僕は花びらを乱暴に本にしまった。
「ふん」
猫人間は僕の行動を鼻で笑い、持っていた身の丈ほどもある杖の先で、僕の爪先に軽く触れた。
「あ、足が!」
「ルカ! どうしたの?」
「足が床にくっついて離れない!」
その時、空気がスッと動いた。気がついた瞬間、僕の目の前にユーリが立っていて、魔剣を構えていた。一瞬の呼吸も許さず、魔剣の切っ先が僕の胸に向かって突き出された。
次の瞬間、鈍い音と共に、激しい衝撃が僕の両手を痺れさせた。僕は持っていたコルネーエフ文書を咄嗟に胸の前に出していた。魔剣は本に深く突き刺っていた。その切っ先は本を貫通し、僕の胸に刺さる寸前で止まっていた。
破れた本の隙間から、目映い光が放たれた。光はすぐに収まったが、本がドクン、ドクンと脈を打ち始めた。僕は自分が手に持っている物が本などではなく、心臓そのものを持っているように思えた。
ユーリが剣を引き抜いた途端、本からボタボタと血が滴り出した。
「な、何だこれ!」
「ルカ、とにかく逃げよう!」
「駄目だ! 地面から足が離れないんだ!」
膝をガクガク動かす僕を、猫人間がニヤニヤしながら見ていた。猫人間がその杖で僕の足先に軽く触れているだけなのに、僕の足は床にぴったりとへばり付いてしまっていた。
突然、笑い声が後ろから聞こえた。
「ハハハッ! ルカ、何やってんの。私を助けに来たのかと思ったら、大ピンチじゃない」
振り向くと、扉に片手をついて、余裕綽々にふんぞり返っているアンナの姿があった。
「アンナ!」
アンナは威勢のいい声を出した。
「私に任せな!」
「お前、牢に入れたはずだが?」
猫人間が驚いた表情を見せた。
「私に鍵なんて意味ないんだよ」
アンナはそう言いながら、小さな金属の棒をチラチラと振り翳した。そして腰の鞄から、ゴム製の球を取り出した。
「猫ちゃん、これでもどうぞ」
アンナはニコッと笑って、その球を転がした。球を覆うゴムには小さな突起が幾つか付いているようだ。球は不規則な動きをしながら、猫人間の足元を通り過ぎた。
「あれ? 転がっていっちゃったよ」
ジェミヤンがそう言った時、僕は猫人間の異変に気がついた。猫人間は転がっていく球をじっと見つめていた。そして、体がビクッ、ビクッと小刻みに震えていた。球が艦橋の端の壁のそばで止まった瞬間だった。猫人間は目にも止まらぬ早さで身を翻し、球に襲いかかった。猫人間のパンチが球に当たると同時に、球がポンッと割れて、中から網が飛び出した。
一瞬呆気に取られた猫人間は慌てて綱を取ろうとしたが、動けば動くほど、網は猫人間の体に絡みついていった。
「これはあんた専用に作った装置だよ。大成功だ」
アンナはしてやったりの表情で、クククッと笑った。猫の習性を利用したうまい仕掛けだ。
「やった。足が動く!」
僕は猫人間の呪縛から解かれた。しかし、視界の隅に、魔剣を振り翳したユーリの姿が映った。その直後、魔剣は僕に向かって振り下ろされた。
「うわっ!」
僕はすんでの所で魔剣をかわした。魔剣は僕の頼のすれすれを掠めた。アンナが僕たちに向かって叫んだ。
「そいつ正気じゃないから手に負えないよ! 逃げたほうがいい!」
「わかった!」
先に身を翻したアンナを追いかけて、僕とジェミヤンは艦橋を出た。その時、猫人間が僕たちに向かって叫んだ。
「待て! ジーナ様を! どうかジーナ様を!」
猫人間の叫びが僕の耳の奥に残った。気にはなったが、今はそれどころではなかった。僕たちは艦橋を出て、通路を走り出した。
「アンナ! 滑走路にレオナ号がある!」
「滑走路はどこ?」
アンナが走りながら聞いてきたが、成長したオルガ号の構造は誰も知らない。誰も答える事ができないせいで、僕たちは無言で走り続けた。後ろを振り返ったら、魔剣を右手に下げたユーリが僕たちを追ってきていた。しかも、走るのではなく、立ったまま床を滑っていた。
アドリアンに取り憑かれているユーリをどうしたらいいかわからなかったが、とりあえず逃げるしかなかった。ただ、走りながら、レオナ号が二人乗りである事を今さらながら思い出していた。二人乗りの飛行機に二人で乗ってきて、どうやってアンナを連れて帰るんだ? それにユーリは?
走りながら考え込んでいた僕に、ジェミヤンは気づいたようだ。
「大丈夫だよ。重量計算はしてある。僕たち三人が乗ってもレオナ号は飛べる」
ジェミヤンの言葉をアンナが敏感に聞き取った。
「君、私の体重知ってるの?」
その問い掛けにジェミヤンが答えないせいで、妙な空気感のまま、僕たちは無言で走り続けた。僕が手に持つコルネーエフ文書から、赤い血が滴り続けていた。
交差する通路の片側に、僕は滑走路の入口を見つけた。
「行き過ぎた! あっちだ! 戻れ!」
僕たちは慌てて急停止し、行き過ぎた場所に駆け戻った。正面からユーリが迫ってくる中で、僕たちは滑走路の入口に飛び込んだ。
僕は急いで入口の扉を閉めた。僕たちは三人で扉を押さえた。
「鍵! 鍵!」
「そうか! 私の鍵ね!」
アンナが小さな金属の棒を腰の鞄から取り出した直後、扉はものすごい力で突き破られ、僕たちは弾き飛ばされた。コルネーエフ文書も僕の手から離れ、滑走路に投げ出された。
扉を破ったユーリの背後に赤黒い影が見えた。それは、大きな体の騎士の影だった。
「アドリアンだ!」
転んだまま叫んだ僕に、ユーリが飛びかかってきた。ユーリの素早い動きに、僕は身じろぎ一つできなかった。死を覚悟するしかなかった。ユーリは後ろに引いた魔剣を僕に向かって突き出した。
生と死の境なんて知らないから、僕の目に映った淡い虹色の一枚の花びらは、消えかけの命の姿なのかもしれないと、僕は漠然と思った。
花びらは突然僕の目の前に現れて、魔剣の切っ先を受けとめた。次の瞬間、花びらは心臓のようにドクンと脈打ち、皮膚のない筋肉に姿を変えながら巨大化した。僕とユーリはその物体に弾き飛ばされた。
宙に浮いた筋肉の塊はレオナ号ほどの大きさになった。塊の至る所から真っ赤な鮮血が流れ出ていた。
筋肉の塊がくるりと回転した。そこには大きく真っ黒な顔があった。そして、その顔にはめ込まれた白い目に、青い三日月の瞳がくっきりと浮かんでいた。パックリと聞いた真っ赤な口から、涎がダラダラと零れ落ちていた。
「お前、羊か!」
僕がそう叫んだ直後だった。筋肉の塊になった羊はその大きな口で、魔剣を持つユーリをパクリと食った。少しの間、口をモグモグさせた後、ユーリをペッと吐き出した。そして、少し上を向き、ゴクンと大きな音を立てて飲み込んだ。
「魔剣を食った!」
僕は叫んだ。
「やっと出てこれた」
ユーリの言葉にジェミヤンは色めき立った。
「やった! ユーリが帰ってきた! 涎でベタベタだ!」
ジェミヤンはユーリに駆け寄って抱き締めた。
「何だよ、お前、離せよ。――それより、あいつ、やべえぜ」
ユーリが指を差した先には、巨大な筋肉の塊になった羊が、涎を垂らしながら僕たちを見ていた。
「羊が助けてくれたんだ」
僕がそう言った直後だった。巨大な羊は真っ赤な口をパックリと開け、僕たちに向かって突進してきた。
「うわわっ!」
僕たちは慌てて逃げ出した。羊は空中を滑るように向かってきた。大きく開いた下顎が、まるでスコップのように滑走路を掘り返していく。壁に行き当たってしまった僕たちが急転回すると、羊はそのまま壁に激突した。オルガ号の壁がミシミシと音を立てながら崩れ出した。羊は壁にめり込んだ顔を引き抜き、再び僕たちに向かって突進してきた。
「助けてくれたんじゃないのかよ!」
大声で文句を言うユーリに僕が答えた。
「見境がなくなってる! 暴走してるんだ!」
「おい、ルカ!」
「なんだ!」
「俺のペンダントがねえ!」
「ええっ? ペンダントが?」
振り向くと、ユーリが自分の胸元をまさぐっている。涙の形をしたナナカマドの木のペンダントがなくなってしまったようだ。
「アドリアンに取り憑かれる寸前に、俺の心はペンダントに吸い込まれたんだ。俺はペンダントの中からずっと見てた」
「そうか、ペンダントに守られてたのか。ペンダントは、きっと羊の腹の中だ」
滑走路中を逃げ回る僕たちを、羊は執拗に追いかけてきた。あらゆる物を薙ぎ倒し、壁をぶち破った。
まるで地震のような揺れが起き始めた。天井も崩れ出し、黒ずんだ木片が次々に落ちてきた。これは羊が壊しているからだけじゃない。オルガ号が崩れ出してるんだ。
「この船はもうもたない! レオナ号で逃げるぞ!」
僕は叫んだ。
「で、でも、四人じゃ――」
そう心配したジェミヤンに僕は言った。
「俺が飛ばしてみせる!」
「ルカ! あれ!」
ジェミヤンがハッチを指差した。その指先の向こうに、ハッチの外の青空が見えた。青空に、大きな翼のワシミミズクと、青い機体の複葉機がこちらに向かってくるのが見えた。
「隊長だ! それにあれはラドミラ号!?」
エドアルト隊長が凄まじい速さでオルガ号に突っ込んできた。続け様に、一昔前の蒸気エンジンを積んだラドミラ号が、水蒸気を激しく噴き出しながら真っすぐにハッチから飛び込んできた。ガタガタになった滑走路に車輪を取られながらも、可変ピッチでプロペラの推進力を逆にして、滑走路の真ん中で急停止した。鮮やかな操縦技術を僕たちに見せつけたのはヴァジム副長だった。ラドミラ号の後部座席にはネストルじいさんが座っていた。
エドアルト隊長が宙で羽ばたきながら叫んだ。
「オルガ号が崩壊する! 脱出しろ!」
ヴァジム副長も叫んだ。
「後ろに二人乗れ!」
僕とアンナはレオナ号に向かって走リ、ジェミヤンは落ちていたコルネーエフ文書を拾ってユーリと共にラドミラ号に向かった。
その時、走る僕たちとネストルじいさんがすれ違った。僕たちは思わず足を止めた。
「じいさん! 何で降りてんだよ!」
僕はネストルじいさんの行動に驚き、思わず声を荒げた。焦る僕にじいさんは微笑みかけた。崩れていくオルガ号の天井を見上げて言った。その声は感慨深げだった。
「これはわしの船じゃ。わしが直してやらんとな。またあの日のように、森の上を飛ばすんじゃ」
何を言ってるんだ、という言葉が出かかったけど、僕も、そして誰もそんな事は言わなかった。
「もたもたするな!」
隊長の声に僕たちはハッとなった。
「先に行くぞ!」
ヴァジム副長が叫んだ。エンジンの出力を上げたままにしていたラドミラ号の後部座席にユーリとジェミヤンが乗り込んだ。機体が大きなラドミラ号は座席に十分な余裕がある。ラドミラ号はエンジンの出力をさらに上げ、滑走路を走り始めた。そして、ハッチから飛び出し、青空へと飛んでいった。
僕は急いでレオナ号のコックピットに座った。アンナがエナーシャを回し、僕はエンジンを始動させた。僕たちの心に呼応するようにエンジンが唸りを上げた。
僕は身を乗り出して手を差し伸べた。アンナは僕の手を取ろうとしたが、突然その手を引っ込めた。
「ちょっ、ちょっと待って! 私、高いとこ無理なんだった!」
「今そんな事言ってる場合じゃ――」
僕がそう言った時だった。巨大な黒い羊が僕の目の前を通り過ぎた。羊は血の海のような真っ赤な口で、アンナをバクッと食らい、一瞬で駆け抜けた。何が起きたかわからなかった。アンナは忽然と姿を消した。
「アンナ!」
僕は狂ったような叫び声を上げた。何故アンナの手を無理やりつかんで引っ張り上げなかったのか。激しい後悔が冷たい急流のように僕の心に押し寄せた。
荒れ狂う羊は地鳴りのような咆哮を上げた。羊がパックリと口を開けた。突然、口の中から光の線が放たれた。
「魔剣の光だ!」
羊は顔を振り、光の線はオルガ号を一直線に切り裂いた。至る所から火の手が上がった。羊の背中から大きな翼が出てきた。羊はハッチに向かって走り出し、一気に外に飛び出した。
「くそっ!」
僕はレオナ号のエンジンを全開にした。炎に包まれたオルガ号の崩壊は止まらず、天井は落ち、壁は崩れ、滑走路は割れた。レオナ号の車輪が滑走路の裂け目に落ちそうになる度に、ギリギリで走り抜けた。アンナが設計した五気筒空冷星型レシプロエンジンの出力は五十二馬力だが、今はもっと出ている気がする。レオナ号は光のように滑走路を走った。
フッと落ちる感覚と共に、僕を乗せたレオナ号はハッチから飛び出した。落ちながら、レオナ号のプロペラが大気をつかんだ。僕は下げていた機首を持ち上げた。レオナ号は大空に勢いよく舞い上がった。
巨大な羊は体中から血を噴き出しながら、ものすごい勢いで空を飛んでいた。僕は全速力で追いかけた。でも羊のスピードは恐ろしく速く、どんどん引き離されていく。
「アンナ! アンナーっ!」
手が届かないアンナの名を僕は呼び続けた。
遠くばかりを見ていると、目の前の物が見えていない事がある。いつからそこにいたのだろう。僕の目の前、レオナ号の機首のプロペラのすぐ後ろに立つ老婆の姿があった。そんな所に人が立てるはずがない。だから僕の脳が人の姿として見ていなかったのかもしれない。
「トポロフの魔女!」
高速で飛ぶレオナ号の上で、魔女だけは静止していた。髪が乱れる事もなく、服がはためく事もない。
魔女は少しだけ顔をこちらに向け、独り言のように言った。
「やれやれ。いくら役に立つとはいえ、手に余るほどの強い力を持っちゃいけないね」
魔女は羊に視線を戻し、両手を翳した。そして羊に向かって振り下ろした。
魔女の両手から眩しい光が放たれた。それは渦を巻きながら、血まみれの羊を包み込んだ。光を放った魔女は、砂のようにサラサラと崩れ、目の前から消えてしまった。
羊の腹に小さな輝きが見えた。その輝きがパンッと破裂して、羊の腹を突き破った。すると、無数の小さな赤い実が腹から飛び出し、羊の体を覆っていった。
「ナナカマドの実だ!」
ナナカマドの小さな赤い実たちは、まるで昆虫に群がる蟻のように、羊を蝕んでいった。僕は羊の周りを旋回しながらその様子を見ていた。崩れていく羊から、ぐったりとしたアンナが姿を現した。空中に投げ出されたアンナは、ポロリと零れた雫のように、真っ逆さまに落ちていった。
「アンナ!」
僕は大声で叫んだ。機首を目一杯下げ、レオナ号を急降下させた。一直線に落ちていくアンナを目の前にして、僕の心臓は激しく鼓動した。ただ、レオナ号に乗っていたら助ける事はできない。僕は緊急用のパラシュートを背負い、コックピットから身を乗り出し、機体を思い切り蹴った。風圧で後ろに飛ばされた僕の足をレオナ号の尾翼が掠めた。空中でぐるぐると回転した僕は何とか体勢を整えると、落ちていくアンナに向かって、真っすぐに滑空していった。
「ルカ!」
アンナが僕を呼んだ。僕はアンナに向かって必死に飛んだ。
アンナに近づいた時、滑空する僕のスピードがあまりに速く、僕は一瞬で行き過ぎてしまった。向きを変え、何度も何度もチャレンジした。僕たちはお互いに手を伸ばし、お互いを求めた。僕はアドリアンの塔の中を落ちていった時の事を思い出した。あの時と同じように、僕は必ずアンナの手をつかまえる。そして二度と離さない。
指が触れ合った。手を握り、抱き寄せた。僕は空の上で、アンナを抱き締めた。
パラシュートのベルトをアンナに巻き付け、僕はピンを引き抜いた。シュルッとパラシュートが伸び、空中で大きく広がった。僕たちは強い力で上に引っ張られた。
僕たちのすぐ横をレオナ号が通り過ぎた。操縦する者がいなくなって、レオナ号は旋回しながらきりもみ状態で落下していた。レオナ号に寄り添うようにワシミミズクが飛んでいた。
「隊長だ!」
エドアルト隊長は、スッと忍び込むようにコックピットに入り込んだ。レオナ号は回転を止め、機首を下げて降下してから、再び上昇した。そのコックピットにいたのはワシミミズクではなく、精悍な顔の男だった。僕は人間に戻った隊長の姿を初めて見た。
「ルカ、見て」
アンナが指を差した。空中に浮遊する煙と瓦礫の中から、小さな蒸気飛行船が出てきた。それこそ、六十年前にネストルじいさんが造ったオルガ号の姿だった。
「オルガ号だ! 本物のオルガ号だ!」
オルガ号の小振りな煙突から、白い煙が蜃気楼のように揺らめきながら昇っていく。上空を舞っていた無数のナナカマドの小さな赤い実たちが、小鳥の群れのようにオルガ号を追いかけていった。
僕たちはパラシュートで降下しながら、去って行くオルガ号を見つめていた。僕はアンナに言った。
「オルガ号には、魔女が幸せだった時の思い出が詰まってた」
「うん」
「俺たちは、トポロフの森の記憶の中に入り込んでいたんだ」
僕たちが見つめる先で、オルガ号は真っ青な空の下を飛んでいた。それは雲から雲へと移りながら飛んでいた幽霊船などではなく、眩しいほどの空を悠然と進む、美しい船の姿だった。
(最終話へつづく)
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