第19話 三たび、ルジェナ飛行場
僕はジェミヤンとヴェロニカと一緒に、王宮の隣にあるラビナ飛行場の門の近くにやって来た。ラビナ飛行場に、空母リーディア号の他、四隻の軍用飛行船が係留されているのが見えた。
何人もの門兵が物々しい警備を行っている。飛行場に騎士たちや物資を乗せた蒸気トラックが慌ただしく出入りしている。何やら、大量の資材が運び込まれている。この飛行場にいる飛行船で攻撃を仕掛けるのだろうか。僕たちは近くに置かれているコンテナの陰から門の様子を窺った。
魔女がいる空に行くには、騎士団の飛行船に乗り込むしかない。一緒に覗きながらジェミヤンが言った。
「乗せてって言って乗せてもらえるもんでもないよね」
「見て見て。ユーリのお父さん、イサーク様がいるよ。頼んでみる?」
ヴェロニカが指を差した先に、一際体が大きい騎士イサークの姿があった。イサークは騎士団の幹部らしい男たちを引き連れ、リーディア号の方に向かって歩いていた。
「俺はイサーク様に牢に入れられたんだ。脱獄したって事は王の命令に背いたって事だ。見つかったら、また牢にぶち込まれるよ。それに俺がユーリを助けるって言ったって、相手にしてくれないよ」
「確かにそうね。アリフィヤ様がいてくれたら、味方になってくれるだろうけど」
ヴェロニカはそう言うが、アリフィヤがどこにいるかはわからない。コルネーエフ文書が入った布製の鞄を肩に掛けているジェミヤンが言った。
「密航するしかないね。でもさ、飛行船がたくさん撃墜されてたよ。リーディア号だってどうなるか」
「そうだな。それにリーディア号は警備が厳重だ。忍び込むのは難しいぞ」
「あ、じゃああれは?」
そう言ってヴェロニカが指を差したのは、リーディア号の近くの格納庫の前に並べられていた小型飛行機だった。
「ブラックイーグル! あの中の一機を盗むのか?」
ヴェロニカが青い目を輝かせて言った。
「一機くらい無くなってもわかんないよ!」
「そんな馬鹿な。エドアルト隊長に見つかったら大変だよ」
「何言ってんのよ。隊長って言ったって、ただのワシミミズクでしょ?」
ヴェロニカの言葉に、僕は答えた。
「ただのワシミミズクじゃないよ!」
「お前たち――」
その声に僕たちは振り向いた。
「うわっ!」
僕たちは腰を抜かしながら、その場から逃げた。しかし、コンテナの陰から出てしまったままだと門兵に見つかってしまうので、慌ててコンテナの陰に戻った。
その声の主は、コンテナの上に立っていた。闇夜にその姿は紛れ、松明の光を受けたオレンジの瞳だけが輝いていた。徐に広げた大きな翼で軽く風を起こした。僕たちの髪が風に揺れた。
「随分と物騒な相談をしているな」
「た、隊長!」
僕たちは驚きを隠せなかった。ただのワシミミズク呼ばわりをしたヴェロニカが、少しばつの悪そうな顔をした。
「私の隊の飛行機を盗もうなどとは聞き捨てならんな」
「そんな事しませんよ。でも、俺、何とかして魔女のところに行きたいんです」
「お前が行ってどうする?」
「アンナとユーリを助けたいんです」
「どうやって?」
「魔女の目的は俺です。俺が盾になって二人を逃がそうと思うんです」
「具体的な作戦はあるのか?」
「えっと、とにかく行けば、何とかなるんじゃないかと──」
「綿密な作戦のない行動など、自殺行為だ」
エドアルト隊長は、鋭い眼光で僕を見つめた。
「私は上空で、トポロフの魔女が飛行船を墜落させる様子を観察した。魔女は炎を放つとか、飛行船を爆破しているのではない。単に飛行船のガス嚢に穴を開けているだけだ。おそらく指先一つ、動かすだけでな」
僕たちは顔を見合わせた。飛行船が次々に墜落し、地上で爆発して、炎に包まれていく町の姿を目の当たりにしたせいで、トポロフの魔女が飛行船を撃ち落としていると思っていた。でも実際にはそんな派手な事をしているのではなかったんだ。
「墜落した飛行船はいずれも半硬式飛行船だった。ガス嚢を立て続けに破られ、バランスを失った。しかし、逃げ延びた飛行船もいた。それはアルミニウム合金を使った硬式飛行船だ。それらも幾つかのガス嚢を破られたが、墜落までは至っていない。考えられるのは、飛行速度と船の素材の違いだ」
エドアルト隊長の説明にジェミヤンが反応した。
「なるほど。何を大量に運び込んでるのかと思ったけど、空中でガス嚢を補修するための資材だね! それなら飛び続けて魔女と戦う事ができる!」
「しかし問題は、魔女が太古の騎士アドリアンを我が物にした事だ。それにより、途轍もない攻撃力を持った可能性がある」
エドアルト隊長はさらに言葉を続けた。
「飛行船団で取り囲み、トポロフの魔女の幽霊船オルガ号を停止させる。騎士たちがオルガ号に乗り移り、捕われた二人を救出する。その後、全戦力をもって、オルガ号を撃墜する。それがイサーク様の考えだ。しかし、ガヴリイル様の話だと、ユーリはアドリアンに憑依されている。今や魔剣は強大な力を持ち、騎士たちでは歯が立たぬだろう。それに立ち向かえるのは、ルカ、お前ではないかと私は思うのだ」
ジェミヤンとヴェロニカが僕を見つめた。
「トポロフの森で、お前は最後の魔法使いになる者だと魔女に言われたそうだな。お前には、魔女もアドリアンも超える大いなる力が秘められているように思う。だからこそ、私はお前に賭けてみたい。イサーク様の策に異を唱える事になってしまうがな」
そう言ったエドアルト隊長に僕は尋ねた。
「俺はどうやってオルガ号に向かったらいいですか?」
「この船団はイサーク様が直接指揮を執る。よって、指揮系統にない飛行機を使うしかない。しかも、ブラックイーグルを凌ぐほどの高性能の機でな」
「そんなのどこに?」
「ルジェナ飛行場だ」
一呼吸置いて、僕とジェミヤンが同時に叫んだ。
「レオナ号だ!」
すかさずエドアルト隊長がヴェロニカに言った。
「司祭一族の娘よ」
「は、はい!」
「神馬テオドールを呼ぶのだ。そして、ルカを乗せてルジェナに行きなさい」
* * *
僕は激しい睡魔に襲われていた。よく考えたら、今日は早朝に遺跡の町アンフィサにあるジェミヤンの家を出て、グーゼル商区を通って騎士の町ライサに行き、王都ラビナまでやって来た。その間、いろんな出来事があって、僕はもうくたくただった。
神馬テオドールの馬車は地上を誰よりも速く走るが、王都ラビナからルジェナ飛行場のあるレナートまでは蒸気機関車で四時間の道のりだ。テオドールとはいえ、その半分の二時間はかかるとヴェロニカは言った。
二人を見ると、地上を滑るテオドールの馬車の心地良い揺れの中で、すっかり眼っていた。僕は大きなあくびをひとつした。
ウトウトしながら考えていたのは、僕が一体どうやって魔女と戦うのかという事だ。僕には何も武器がない。魔法も使えない。エドアルト隊長は、僕には大いなる力が秘められているのではないかと言ったけど、これまでの場面を思い出してみても、僕に隠された力があるような気配はなかった。
ただ、トポロフの森の中にある魔女の家で、ユーリたちが映らなかった鏡に僕の姿は映った事は確かだ。魔法を使えない魔法使いの子供たちに最後の審判を下すその鏡に、僕は選ばれた。トポロフの魔女も七十年前に鏡に選ばれたわけだから、僕にも強大な魔法使いの力があるのかなと思うけど、あの時、魔女は言っていた。
――次にこの鏡に映る子に、たった一つの魔法の力を授けるとさ。その子はこの剣を空に突き刺す。そして空が落ちてくるのさ――
その言葉が真実なら、僕が秘める力とは魔女を倒せる力ではなく、この世界と鏡の世界を逆転させる事ができる力だ。それこそ、トポロフの魔女の願いを叶えるための力だ。
花の羊もネストルじいさんも、誰にでも魔法を使える時があるって言ってたけど、僕にはそれが何なのかわからない。
ぐるぐると思考が迷宮を彷徨っているうちに、僕はアンナとルジェナ飛行場に通っていた日々を思い出していた。
レナート校の正門までの欅並木。ルジェナ飛行場に続く丘の道。僕たちは二台の自転車で、春から夏に移ろう陽差しの中を走った。アンナのブラウンの髪が風になびいていた。制服のスカートがはためいていた。日に焼けたアンナの肌。乱暴な言葉に素行の悪さ。そんなアンナは、僕を見てニコリと笑っていた。ただそれだけの事だけど、だからこそ僕はアンナを助け出したいと思うんだ。
僕はそんな事を考えているうちに、深い眼りに落ちていた。
「ルカ、ジェミヤン、もうすぐ着くよ」
ヴェロニカの声に僕はハッとなった。窓には見覚えのある風景が広がっていた。
神馬テオドールの馬車は、草原の中を真っすぐに続く街道を光を帯びながら走っていた。東には夜空に黒い輪郭を描く山が見える。その山の向こうにトポロフの森がある。西に目を向けると、街道に並行して線路が敷かれている。その向こうには夜の海が広がっている。静かな海は何も言わず、星の明かりを映していた。見上げると、満天の星が煌めいていた。
「ねえ、あの羊はいなくなっちゃったの?」
ヴェロニカがジェミヤンに尋ねた。花の羊は猫人間の行く手を阻んで破裂し、その姿を消した。
「うーん、わかんないんだよね」
「ちょっと貸して。振ったらまた出て来るんじゃないの?」
ヴェロニカはジェミヤンの鞄からコルネーエフ文書を取り出し、背表紙を持ってブンブンと振った。すると、淡い虹色の一枚の花びらがヒラヒラと落ちてきた。ジェミヤンはその花びらを拾った。
「この花びら、羊とは関係なかったのかなあ」
ジェミヤンはコルネーエフ文書を受け取り、花びらをページの間に狭んだ。
やがて馬車はスピードを落とした。夏の夜風に揺れる草木の向こうにイラリオン飛行船商会の建物が見えてきた。その隣にルジェナ飛行場がある。レオナ号を格納庫から出すには、ネストルじいさんに頼むしかない。じいさんは寝ているだろうか。敷地の端にあるじいさんの家に向かおうと思った。
イラリオン飛行船商会の前に差し掛かった時、ランタンを持つ人の影が見えた。馬車はその人影の前で停まった。一気に走り抜けてきた神馬テオドールが大きく息を吐いた。僕は窓から身を乗り出して叫んだ。
「ネストルじいさん!」
「何じゃ。誰が来たかと思ったらお前たちか」
僕たちは馬車を降りて、ネストルじいさんを取り囲んだ。
「起きててくれて助かったよ」
そう言った僕に続いて、ジェミヤンがニヤッと笑って言った。
「年寄りは早起きだからね」
「何を言うか。トイレに行きたくてちょっと起きただけじゃわい。そしたらの、ずっと遠くの方から光の線がこっちに向かって伸びてくるのが見えたからの。何事かと思って待っておったんじゃ。おや、そちらのお嬢さんは初めて会うかの?」
「初めまして、おじいさま。ヴェロニカです」
ヴェロニカは首を少し傾げて微笑んだ。ランタンの揺れる明かりを受けて、ヴェロニカの白い肌が艶やかさを増していた。
「こりゃ何て上品なお嬢さんじゃ。アンナとはえらい違いじゃの。アンナは乱暴――」
「そんな事より、じいさん、アンナが大変なんだ! レオナ号はどこにある? すぐに飛ばす事できる?」
僕の言葉に、呑気そうな顔をしていたネストルじいさんの目が鋭く光った。
「アンナに何が起きたんじゃ」
ネストルじいさんの問い掛けにジェミヤンが答えた。
「魔女に捕まっちゃんだ。トポロフの魔女に!」
「何じゃと!」
ネストルじいさんは一瞬考えた後、すぐに続けた。
「ついて来なさい」
僕たちはネストルじいさんと歩きながら、これまでの出来事を話した。ネストルじいさんは難しい顔で黙って聞いていた。自分が作ったオルガ号が幽霊船となって沢山の人たちに恐怖を与えている事に、ただならぬ憤りを感じているように見えた。
ネストルじいさんが向かった先は、ルジェナ飛行場の滑走路に面した物見櫓だった。物見櫓は四階建てくらいの高さがあり、上の方に大きな時計が設置されている。じいさんは物見櫓の鍵を開け、中に入った。僕たち三人も後に続いた。
物見櫓の中には最上階まで続く階段があった。その脇には、六つの大きな滑車が宙に浮いたように設置されている。入口付近に下がっているロープが、六つの滑車を巡って、最上階の床の穴を通り抜けている。おそらく、物見櫓に付けられている大きな鐘に繋っているのだろう。
ネストルじいさんは、ロープをつかみ、軽く下に引いた。最初の滑車がシューッと回転しながら下がってきた。除々にサイズが大きくなっていく滑車が次々に回転しながら下がってくる。ネストルじいさんの軽い力が複数の滑車によって増幅され、大きな力となって最上階に伝わっていった。
ネストルじいさんは両手で耳を塞ぎ、僕たちに言った。
「お前たちも耳を塞ぎなさい」
じいさんがそう言うのが少し遅かったせいで、突然鳴り響いた鐘の音に僕たちは飛び上がった。僕たちはじいさんに続いて外に出た。
鐘の音に目を覚ましたのか、格納庫の横にある機関室の煙突から黒煙がボッと吹き出した。やがてそれは白煙に変わり、雲のように星空へと昇っていった。
「昨日の昼頃にな、リーディア号に出撃命令が出たんじゃ。ブラックイーグルが先に出て、リーディア号もその後に飛び立った。わしらは緊急事態に備えて、飛行場の蒸気機関を止めずに、最小の出力にして動かしておいたんじゃ。すぐに再嫁動できるようにな。こんな物騒な夜はおちおち寝てられんわい」
プシューッという蒸気が抜ける音がした。そして、みるみるうちにルジェナ飛行場とイラリオン飛行船商会の建物の窓に明かりが点き始めた。光はまるで水が流れるように、滑走路の先まで延びていった。
でっぷりと太ったミロンおじさんが、お腹を揺らしながら建物から出てきた。他の整備士たちも続々と出てきた。皆、ツナギを着ている。緊急事態に備えて、すぐに作業に取り掛かる事ができる態勢で待機していたようだ。
ネストルじいさんは滑走路脇の格納庫に行き、鍵を開け、レバーを下ろした。蒸気音と共に、格納庫の扉が上がっていった。
格納庫の中には二機の小型飛行機が並んでいた。青い機体の複葉機はラドミラ号だ。液化石炭から精製したガソリンを使うのではなく、石炭そのものを燃料として使う、一昔前の飛行機だ。蒸気エンジンのために大きな水タンクもあるから、機体も大きく、そしてV型二気筒の蒸気レシプロエンジンは恐ろしいほどの馬力を持っている。僕はこのラドミラ号で何度も空を飛び、操縦訓練を操り返したものだ。
そして、ラドミラ号の隣で、銀色に輝くプロペラを持った黄色い機体のレオナ号が僕たちを待っていた。
明かりに照らされたレオナ号は、いつもよりも大きく思えた。危険を冒して魔女に立ち向かう事の恐怖が、そう思わせているのだろうか。僕はゴクリと息を飲んだ。
「シャマーラとの戦争がおっぱじまったのか?」
声を掛けてきたミロンおじさんにジェミヤンが答えた。
「違うよ。トポロフの魔女がオルガ号に乗って攻めてきたんだ」
「トポロフの魔女? オルガ号? 何だかわからねえが、大変そうだな」
ミロンおじさんはそう言うと、レオナ号の点検を始めた。
「すぐにでも飛び立てるけどよ、こいつには武器は何も付いてないぜ」
僕はネストルじいさんから受け取ったダークグレーの飛行服を着ながら答えた。
「いいんだ。攻撃するんじゃないから」
「そうかい。ん? お前も乗るのか?」
ミロンおじさんの視線の先で、ジェミヤンも飛行服を着ていた。大人用の一番小さいサイズだが、体の小さいジェミヤンにはブカブカだ。上空の寒さに耐えるために綿がぎっしりと詰め込まれてモコモコしているので、服の中にジェミヤンがいるような感じだ。飛行帽の顎紐をしっかりと締めているが、大き過ぎるので少し傾いている。
「これ、イラリオンの飛行服だ。ブラックイーグルのはないの?」
ジェミヤンの言う通り、僕たちが着た飛行服の左胸には、「イラリオン飛行船商会」という金色の刺繍がある。
「当たり前だ。ブラックイーグルの飛行服がある訳ねえだろう。うちのじゃ不満か?」
「ちぇっ」
不満そうなジェミヤンをよそに、僕はコックピットに乗り、皆がレオナ号を押して格納庫の外に出した。
大きなクランクを持ったミロンおじさんが、機首のプロペラをぐっと押して回転させた。エンジンルームの下のカウフラップを開けると、コックピットの僕に向かって、親指を突き出した。その合図を受けて、僕は大きな声で言った。
「エナーシャ回せ!」
ミロンおじさんは、クランクをエンジンのエナーシャに差し込み、両手でクランクを回し始めた。そして、十分に回転したところでミロンおじさんは機首から離れ、叫んだ。
「コンタクト!」
僕はコックピットでエナーシャとプロペラの軸を直結した。そしてエンジンのスイッチを入れた。僕はレオナ号が目覚めたのを感じた。今から十分ほどアイドリングをする。
計器のチェックをしている僕に、ネストルじいさんが話し掛けてきた。
「ジェミヤンが作った高精製ガソリンを満タンにしているがの、王都ラビナに着いたら、必ず給油せねばならん。ブラックイーグル用の高精製ガソリンをリーディア号に積んで、ラビナ飛行場に運んである。ラビナ飛行場でそれを給油するか、リーディア号で直接給油するかしなさい。普通の液化石炭のガソリンでは、レオナ号の力は半減するから気をつけるんじゃぞ」
「うん、わかったよ」
アイドリングを終え、いよいよ飛び立つ時が来た。僕は前の座席に、ジェミヤンは後ろの座席に座った。ジェミヤンはコルネーエフ文書が入った布製の鞄を座席の横のポケットにしまった。魔女と対峙した時に花の羊の力が必要になるだろう。しかし、花の羊はいなくなってしまった。僕はそれが不安だった。
ヴェロニカが心配そうな顔で僕たちに呼び掛けた。
「ルカ、ジェミヤン。私、テオドールとヴァルラム宮に戻る。決して無理はしないでね」
「ああ、任せとけ」
「任せとけ」
僕とジェミヤンは口々にそう言い、親指を立てた。僕はプロペラの回転を上げ、レオナ号をゆっくりと進めた。向きを合わせながら、滑走路に進入した。
計器の端に埋め込まれている時計の針は、朝の四時を示していた。この時期のレナートの日の出は四時半頃だ。いつの間にか星々の輝きは褪せ、東の山の向こうから赤紫の光が広がり始めていた。
滑走路に立っている整備士が小旗を振った。それを見て、僕は叫んだ。
「出力上げ!」
これば自分に対する指示だ。レオナ号のプロペラが目にも止まらぬスピードで回転し始め、滑走路を走り出した。気管ごとに分けられた排出口から排気ガスが勢いよく噴き出し、そのジェット効果でレオナ号はものすごいスピードで滑走路を駆け抜けた。
後ろに引っ張られていた体が、一瞬、下に引っ張られた。次の瞬間、体重を無くしたかのような浮遊感に包まれた。
僕とジェミヤンを乗せたレオナ号は空に飛び立った。ゴーグル越しに見る世界は明るさを取り戻してきていた。僕はレオナ号を旋回させ、機首を北に向けた。アンナとユーリを救い出すために、トポロフの魔女が待つ王都ラビナの空を目指した。
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