第4話 レナート石炭ラボ

 談笑する生徒たちの声が高い天井に響いている。翌朝の七時、僕はジェミヤンと一緒に朝食を食べにやってきた。ここはレナート校の食堂パンチェレイモン・ホールだ。

 生徒たちは数種類の料理の中から自分の希望を告げ、カウンターで順番に受け取っていく。僕はマンナヤ・カーシャを選んだ。挽き割り小麦を牛乳で煮て、塩、バター、砂糖で味付けしたお粥だ。その上にラズベリーを五粒乗せた。カーシャの甘い香りと、ラズベリーの爽やかな香りが僕の嗅覚を刺激する。

 付け合わせにはコトレータを選んだ。この港町でたくさん獲れるオークニという魚を油で揚げてある。コトレータは肉や魚、あるいは野菜や米にパン粉や小麦粉をまぶして、揚げたり焼いたりした食べ物だ。

 港町らしく、魚を使ったコトレータが豊富に並んでいた。揚げたての香ばしい香りに、僕は食欲を抑えきれなくなってきた。

 同じ皿にビーツという野菜を乗せ、リンゴのコンポートをカップに注いた。このコンポートはジャムのような物ではなく、甘みのある透明感のあるジュースだ。こうして僕の朝食セットが完成した。僕はジェミヤンと一緒に席についた。

 昨日の夕食の時は慌ただしくてあまりよく見ていなかったが、アーチ状の窓から差し込む朝日に照らされた室内は瀟洒な白い壁面で覆われている。石造りの重厚な佇まいは、古い歴史を感じさせる。細部まで行き届いた壁面の装飾は、職人たちの高い芸術性を今に伝えている。パンチェレイモン・ホールはレナート校ができた二百年前から残る貴重な遺産だと、ジェミヤンは僕に熱く語った。

 ユーリとジェミヤンが暮らす部屋に僕も加わったが、ニヤニヤしながら見ているだけのユーリと違い、昨夜爆発事故を起こしたジェミヤンは僕にあれこれ教えてくれる。

 王立クライン大学レナート校には初等部から大学までのクラスがある。初等部は七歳から入学でき、四年間の初等教育を受ける。十一歳からは中等部だ。十四歳になったばかりの僕はこの中等部に編入した。中等部は五年間あり、十六歳になると二年間の高等部に進学する。十八歳からは大学に通う。

 初等部から高等部はレナート校にしかないが、大学はレナート校の他にアンフィサ校もある。アンフィサ校は遺跡の町と呼ばれるアンフィサにあり、政治学、経済学、考古学の最高教育機関として名を馳せている。それとは対照的に、レナート校は郊外の広い敷地に校舎が点在していて、こちらの大学は科学技術、芸術、文学、スポーツといった分野の学問が中心だ。

 レナート校の制服は、白いシャツ、緋色のネクタイ、深い紺色のジャケット、紺色と緑色のチェック模様が入ったグレーのズボンだ。ズボンと同じ柄のスカートを選ぶ事もできる。それは男女ともに認められた権利で、性別による違いはない。

 初等部から高等部までの約八百人の生徒の中で、五十人程度、違う柄のジャケットを着ている。それは濃厚な赤ワインが染み込んだような深い緋色のジャケットだ。彼らはそれをレッドジャケットと呼んでいる。

 レッドジャケットを着る事ができるのは、特別な成績を取った一部の優秀な生徒だけだ。ジェミヤンは、スィルニキというパンケーキを頬張りながら言った。

「僕は石炭の液化技術を研究しててね、超臨界二酸化炭素による抽出効率を極限まで高める方法を発見したんだ。僕の名前をとってジェミヤン超臨界流体理論って言うんだ。その功績で僕はレッドジャケットを授与されたんだ」

 眼鏡をかけ直しながら、ジェミヤンは自分が着ているジャケットの襟を誇らしげに撫でた。

「すごいな。いつもあの小屋で研究してるのか?」

「うん、あの小屋は、レナート石炭ラボって名前なんだ。使われなくなった小屋を学校から借りて、僕が研究所を作ったんだ」

「よく爆発するの?」

「まあ、たまにね。それが化学の面白いところさ。ラボのメンバーは僕を入れて二人しかいないんだ。君も見学に来てみないか?」

「俺は化学の事は全然詳しくないんだ」

 僕はラズベリーをスプーンで軽く潰し、カーシャに混ぜて口に運んだ。甘酸っぱい味と香りが僕の口と鼻腔に広がる。

 ジェミヤンはカーシャの上にブルーベリーを乗せていた。ブルーベリーを数粒とカーシャをスプーンに乗せて口に入れた。顔を少し上にあげて、目を閉じ、満足そうな表情をした。しばらく味を堪能してから僕に言った。

「うちのラボではそれぞれ好きな事をしてるよ。僕は今、液化石炭の無公害化と出力の効率化、それから液化石炭から抽出する高精製ガソリンの研究をしてるけど、もう一人は全然違う事やってる」

「へえ、もう一人のメンバーは何の研究をしてるんだ?」

「いろんな機械の設計をして、作ったり壊したりしてるね。だけど、ティータイムの飲み物を用意しろとか、食堂からお菓子をくすねてこいとか、いつも僕に命令するんだ。ほんと横暴なんだよね。だからメンバーがもっといてくれれば、僕の負担が減ると思うんだ」

 ジェミヤンは眉間をしかめて軽く両手をあげた。しかし、彼はそのまま動きを止めてしまった。それに気づいた僕が顔を上げると、ジェミヤンの左肩に背後から手が置かれていた。それは引きつった笑顔のアンナの手だった。

「君、私の悪口を言ってたでしょ」

「え、えっと――」

 アンナは手に持っていたトレイを僕たちのいるテーブルに置いた。そして一緒に歩いていた数人の女子生徒に手を振った。アンナはジェミヤンの隣に座り、向かいにいる僕に視線を向けた。僕はニコッと笑い、アンナに声をかけた。

「やあ、アンナ」

「ごきげんよう、ルカ」

 昨日までのアンナとは打って変わって、彼女は上品な言葉遣いをした。艶やかな焦げ茶色の髪に施された細い三つ編みは昨日と同じだが、他の生徒同様に彼女も制服を着ていた。ただひとつ違う事は、アンナもレッドジャケットを着ている事だ。

「あれ? 二人は知り合いなの?」

 ジェミヤンが意外そうな顔をした。

「ええ、そうよ。昨日偶然出会ったの」

「ニーナにある家に帰ってたんだよね?」

「帰りの列車が一緒だったの」

「アンナが乗るのって客車じゃないよね。あ、もしかしてルカを共犯にした?」

 共犯という言葉を聞いて僕は嫌な予感がした。ジェミヤンは哀れむような視線を僕に向けた。

「ルカ、君ももうアンナの言いなりだよ。アンナは僕たちを共犯に仕立てて、逆らえないようにするんだ」

 そう言うと宙を見上げ、昔を懐かしむような顔をした。

「あの日、僕は液化石炭の実験でエントレーナーとしてのジエチレングリコールが必要だったんだ。毒性があるから入手するのに時間がかるんだけど、学校に申請するのをすっかり忘れていたんだ。どうしようと思っていたら、アンナがジエリレングリコールが入った茶色い瓶を持ってきたんだ。もらっておいたよって言うから僕は助かったって思って、それを使ってしまったんだ。その時はアンナの悪巧みに気づかなかった。アンナは大学の化学研究所の鍵がかかった棚から盗んできていたんだよ。僕はうまいこと共犯にされたんだ。それ以来、何かというとバラされたいのかって脅されるんだ」

「そうだったかしら」

 アンナは頰に手を当てて小首を傾げ、惚けてみせた。

「君はどんな罠にはめられたんだい?」

「罠だったのか――」

 唖然とした僕に向かってアンナは言った。

「人聞きの悪い事を言うなよ。お金盗まれて困ってた君を助けてやったんじゃないか。電車賃ないって言うから、私がここまで連れてきてやったんだ」

 さっきまでの上品な振る舞いはどこに行ったのか、豹変した、あるいは元に戻ったアンナはスィルニキを頬張りながら僕を睨んだ。その横顔を見ながらジェミヤンは呟いた。

「困っている人の弱みに付け込んで共犯者に仕立て上げる。それがアンナの常套手段だ」

 アンナは座ったままジェミヤンの椅子の脚を蹴飛ばした。ジェミヤンは「あうっ!」と声を上げた。

「君もレッドジャケットなんだね」

 僕はアンナが着ているワインレッドのジャケットを見ながら言った。

「小型蒸気飛行船の設計コンテストで最優秀賞を獲ったんでね。その褒美だよ。今、私は単葉機を作ろうと思ってるんだ。その単葉機には、液化石炭から精製したガソリンで動くエンジンを積むんだ。そのエンジンも私が設計した。でも何かと大変だから助手を探してる。君、興味ある? ていうか、あるよね?」

 単葉機とは翼が一枚の飛行機の事だ。今の飛行機は二枚の翼を上下に配置した複葉機が主流だ。単葉機は機体を浮き上がらせる揚力が低いため、強力なエンジンが必要だ。しかし、翼が少ない分、空気抵抗が小さく、スピードが出る。

 僕と歳が変わらない少女が飛行機を作ろうとしている事に驚いた。アンナは不敵な笑みを浮かべながら、僕に右手を差し出した。

「じゃあ、改めて。アンナ・ミハイロヴナ・コリニチェンコよ。仲良くしてね。ラボで待ってる」

 僕は差し出された手を思わず握り返してしまった。でも、今の僕にとって、それもいいかもしれないと思えた。

「オッケー。何かやる事があるわけじゃないし、放課後になったらラボに行くよ」

「いいね! いいね! 待ってるよ」

 ジェミヤンは嬉しそうに僕とアンナの手を強く握った。


 その時、食堂パンチェレイモン・ホールがざわついた。僕たちはその方向を見た。ホールの入り口に姿を現したのは、二人の仲間を引き連れたユーリだった。

 ユーリは僕たちと同じ部屋だけど、僕が目を覚ました時には彼の姿はなかった。彼は手に持ったレッドジャケットを無造作に肩に乗せ、颯爽とカウンターに向かって歩き出した。

 彼の隣には驚くほど綺麗な女子生徒がいた。カールした金髪をなびかせたその女子生徒は、涼しげな青い眼差しをしていた。精悍なユーリと並んで歩く姿が様になっていた。その横には一際体の大きい太った男子生徒がいた。周りの生徒たちは彼らを避けるように道を開けた。ずいぶんと目立つ三人だ。

「ユーリも同じ十四歳だ。貧乏学者の息子の僕とは住む世界がちょっと違うみたいだけど」

 ジェミヤンは眼鏡をかけ直しながらひそひそと囁いた。

「英雄として名高い、騎士団長イサークの息子だ。ユーリは剣の達人で、剣術大会のチャンピオンだ」

 ユーリが僕たちの席に近づいてきた。彼は僕の後ろで立ち止まると、僕の肩に手を置いて言った。

「爆弾魔に不良オンナじゃないか。ルカ、こいつらとあんまり仲良くしてると、学校に目をつけられるぜ」

 ユーリの隣の女子生徒がクスッと笑った。その瞬間、テーブルをガタンと揺らしてアンナが立ち上がった。

「何だと! もう一遍言ってみろ!」

 アンナは怒鳴り、鋭い目つきでユーリを睨んだが、ユーリはそれを気にも止めず、軽く手のひらを見せると僕たちの元を去って言った。アンナはふてくされた表情で、そのまま黙ってしまった。


 * * *


 授業が終わった後、僕はその足でレナート石炭ラボに向かった。その小屋はレナート校の敷地の北の外れにポツンと建っている。昨夜、寄宿舎の窓から見たよりも、近くで見るとその建物はもっと古ぼけていた。日当たりが悪いのか、板張りの壁にはびっしりと苔が生えていた。ささくれ立った扉の板は、鍵をかけていても簡単に蹴破る事ができそうな代物だった。

 僕は扉のノブに手をかけた。扉に鍵はかかっていなかった。開けると中は意外に広く、病院のような薬品の匂いと石炭の油っぽい匂いが混じり合って充満していた。手前に大きな丸いテーブルがあり、その上には書類が散乱していていた。

 テーブルの周りには椅子が四脚あり、そのうちの一つの背もたれにレッドジャケットがかけられていた。窓際には大きな製図台が置かれていた。奥の四角いテーブルには、ビーカーやフラスコが所狭しと置かれていた。そのテーブルを取り囲むように、見た事もない機械や装置が並んでいた。ジェミヤンは焦げ付いた金属の装置の前にしゃがみこんでいた。

「やあ、ジェミヤン」

 振り返ったジェミヤンの顔はススで真っ黒だった。

「やあ、ルカ。よく来てくれたね!」

「また爆発したのか? 真っ黒だよ」

「違うよ。石炭いじってるとこうなっちゃうんだよ」

「今は何やってるところ?」

「粉砕した石炭に溶剤を入れてドロドロにスラリー化させるんだけど、どのくらいの粘度が液化に適しているかを検証してるとこなんだ」

 僕はジェミヤンの隣にしゃがんで、装置の中を覗き込んだ。そこにはスライムのような黒い物体が横たわっていた。ジェミヤンはゴム手袋をはめた手で、そのスライムをつついたり、揉んだりしていた。

 不意に、扉をコンコンと叩く音がした。振り向くと、開いた扉に寄りかかってノックをするアンナの姿があった。アンナは僕たちに向かって歩き出した。

 アンナが履いているローファーが、小屋の傷んだ木の床をコツコツと鳴らした。緋色のネクタイを携えた白いシャツが清楚な雰囲気を醸し出し、レッドジャケットは高貴な印象を彼女に与えている。膝上丈のスカートは可愛らしさを、そして外から差し込む逆光を受けた長い焦げ茶色の髪は艶やかさを僕に見せつけた。細い三つ編みはこめかみ近くの生え際からきっちりと編み込まれていて、野性的な彼女の目元を引き立てている。毛先に付けられたカラフルなビーズがプリズムのように光を反射する。日に焼けた健康的な肌と澄んだブラウンの瞳が、僕の心を惑わせた。アンナの姿に僕は少しドキリとしてしまった。

 昨日のアクティブな服装とは違い、レナート校の制服に身を包んだ今日のアンナは、それなりにレディーに見えた――が、それは僕の思い過ごしだった。

「くっさいなあ。少しは換気しろよ」

 彼女は小屋の窓を開けると、丸テーブルの椅子に座り、散乱している書類の中から丸めた大きな紙を取り出した。そして自分の隣の椅子を軽く引き、僕を手招いた。僕は求めに応じ、その椅子に座った。アンナはその紙を僕の前で広げた。

「これ、私が描いたエンジンの設計図。燃料は液化石炭から精製したガソリンだ」

 そこにあったのは、細部まで描き込まれた機械の設計図だった。乱暴な彼女の言葉遣いとは裏腹に、一本一本の線も、小さな数字も丁寧に描かれていた。僕は驚いて、設計図とアンナの顔を見比べた。

「五気筒、空冷星型レシプロエンジン。計算上、五十二馬力出るはずなんだ。私は全部の気筒に安定して同じ量の混合気を送る方法を見つけたんだ」

 アンナは少し得意げな表情を見せた。

「ただ、このエンジンの性能を最大限発揮するには、私が望む質のガソリンが必要なんだけど、ジェミヤンの才能が足りなくてね」

 ジェミヤンは金属製の装置の前でしゃがんだまま振り向いて反論した。

「失礼な! 僕は君の要望通り、純度の高い高精製のガソリンを作る事に成功したじゃないか。しかもテトラエチル鉛を使わずにだ」

 アンナはジェミヤンの言葉を受け流して続けた。

「これも見て」

 僕の前にもう一枚の大きな紙が広げられた。それはプロペラの設計図だった。

「私のエンジンの性能を生かすには、プロペラの角度を変えられる仕組みが必要なんだ。エンジンの回転数を必要以上に上げずに速度を上げるには、飛行中にプロペラを最適な角度に変えるんだ。可変ピッチ機構を使ってね」

 そう言いながら、アンナは両方の手のひらをパタパタと翻してみせた。プロペラの角度が変わる様を表現したようだ。

「私が設計した可変ピッチ機構は油圧式だ。そして可動域はマイナスまで行く。リバースピッチ、つまり逆向きの推進力を出す事もできる。ただ、私のエンジンだと、ハブ――プロペラが付いてる中心部ね、ここに三十トンくらいの力が掛かる。それに耐えられる構造でないといけないんだ」

 アンナはまた一枚の大きな紙を広げた。そこには単葉機の設計図が描かれてあった。機体の下部から伸びる主翼と、開放型のコックピットがある。コックピットは前後に分かれていて、二人乗りになっている。

「これも君が?」

「そう。これが私の飛行機の全体図だ。この機体なら、そこらの飛行機なんかより、ずっと速く空を飛べるはずなんだ」

「すごいね。これを造ってるの?」

「イラリオン飛行船商会のネストルじいさんが協力してくれてるんだ。じいさんの工場は大きくて、そこで私の飛行機を組み立ててくれる事になってるんだけど、どうなったかな……。その工場はレナートの外れのルジェナ飛行場の隣にある」

「初飛行はいつの予定?」

「え、えっと――」

 アンナは少し口ごもり、頭を軽く掻いた。すると、ジェミヤンが洗った手をタオルで拭きながら、僕達がいる丸テーブルにやってきた。

「たとえ完成したって、テスト飛行ができないかもしれないんだ」

「え、何で?」

 僕の疑問に、ジェミヤンが椅子に座って答えた。

「テストパイロットがいないんだよ。飛行機を組み立ててくれるネストルじいさんはヨボヨボだから操縦できないし、飛行船のパイロットたちは、アンナの設計じゃ怖くて乗れないって言ってるし、僕も命が惜しいし」

「アンナが自分で操縦すればいいじゃないか」

「アンナは操縦しないよ。乗る事さえしないだろうね。どうにもできない事情があるのさ」

 ジェミヤンはニヤニヤしながら言った。

「他の誰かに操縦させるより、自分がやるってタイプかと思ってた」

 僕がそう言うと、アンナは口を尖らせて反論した。

「そりゃ、私だってそう思うよ」

 そう言いながら僕たちから視線を逸らせたアンナを見て、ジェミヤンはププッと笑いながら言った。

「アンナは高所恐怖症なんだよ。だから自分じゃ乗れないんだ」

 アンナはブスッとした表情で顔を背けていたが、急に僕の方に振り向いて言った。

「私が設計したのは星型エンジンだ。星型エンジンは正面から見ると五つのシリンダーが星の形に並んでるんだ。君さ、星の形のアザがあるだろ。私の飛行機のパイロットに相応しいって証拠なんだよ」

 アンナは根拠のない直感で何事も押し切るタイプのようだ。成り手のいないテストパイロットの役目を僕に押し付けようという魂胆のようだ。アンナは僕の左手をつかみ、手の甲にある星の形のアザを僕自身に見せつけた。しかし、アンナのその行動に反応したのは僕ではなくジェミヤンだった。

「ほ、星の形のアザだって!」

 ジェミヤンは僕の左手を両手でつかみ、食い入るように見つめた。

「こ、これは――、魔法使いの一族のしるし!」

「え!?」

 ジェミヤンの言葉にアンナは言葉を失った。二人は驚いた顔で僕を見つめた。僕はジェミヤンの手を振りほどいて手を引っ込めた。

「魔法使いの一族だけど、俺は魔法を使えないんだ。だから魔法使いの町にはいられないんだ」

 その後、僕は僕の事情を二人に話した。ジェミヤンは僕の話を食い入るように聞いていた。ジェミヤンは魔法使いに興味がすごくあるようだったが、アンナはただ黙って聞いていた。

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