第47話 没ネタ
良一さま……いえ良一さん……あなたはいつになったら理解されるのでしょうか。
良一さんと一緒に温泉宿に行きました。しかし……良一さんが従業員さんであるセーラー服を着た美少女の揺れる仮想敵にいやらしい顔をしています。
彼は学ばないんでしょうか……大浴場で泡を吹いて倒れていました。いつもいつも、本当にこの人は。
「やっぱり、驚いちゃうよね」
「いえ、この方は特殊なのですよ。お気になさらず」
呆然とする従業員さんは自分の首を両手で掴み、落ち込んだ様子を見せてます。
落ち込むのは構いませんが……揺らさないでいいのではないでしょうか。
コホン……それはともかく良一さんは「戻る」と言わずに気絶されてしまいました。こんなケースは初めてです。
仕方ありません……特別ですよ。
私は従業員さんに再び「大丈夫です。私は驚いてないでしょう?」と伝えお辞儀をし、大浴場を出る。もちろん、良一さんを姫抱きして。
部屋に戻り、良一さんを膝枕して彼が起きるのを待ちます。いつもいつもおまぬけさんですが、私は彼のことが嫌いではありません。か、勘違いしないでください。私だけではなく、カラスさんもマスターも同じことを言っていました。
「良一さま、世界はバランスよくできているものなのですよ」
私が細かな設定へ触れたこともあるのですが、ほんの少しだけです。世界とは良一さんにとっていいこともあれば悪いこともあります。
ほとんど全ての世界はトータルするといいことから悪いことを差し引くとゼロになるようにできているんですよ?
もっとも……良一さんほど分かりやすい例はまずありませんが。
そういえば、ここに来る前……。私はあることを思い出し頬が少しだけ、ほんの少しだけですが熱くなってしまいました。
それは……こんなやりとりがあったからなんです。
◆◆◆
「それにしてもミオ、こんなへっぽこが好きなのか?」
カラスさんがぶしつけに聞いてきました。
「……秘密です」
そう答えることが肯定と取られることは私にだってわかっています。ですが、彼の事が嫌いなのかと問われるとそうでは無いと言い切れるでしょう。
「まあ、コイツ、悪いやつじゃあないからな。メスの胸ばかり見てるが、それくらいオスなら普通なんだろ? 人間って奴はほんと無駄が多いな。くああ!」
「これほどあからさまなのは良一さまだけでは……。それに、良一さまは見た目も……」
ハッとして急いで口を閉じましたが、カラスさんがニヤニヤとしたり顔でくええも鳴いてます。
し、失敗しました……。
◆◆◆
今思い出しても……抜けてました。
良一さまはものすごくへっぽこですが、根は素直で悪いことができない方です。よく言えばいい人、悪く言えば小市民でしょうか。
見た目は……私なんかと横で歩くのがはばかられるくらいカッコいいんです。
しかし天は二物を与えずという言葉通り、良一さんは見た目以外は……。
し、しかしですね。見た目に惹かれたわけではないのです。どれだけ失敗しても、笑いすぐに立ち直り、また前向きでひたむきな姿勢を見せる良一さん。
そんな彼に――
「う、うーん」
へ、変なことを考えている間に良一さんが起きそう!
私は口元を整え、彼が起きるのを待つ。
「桃が、桃が。ぎぃええええ!」
「お目覚めになられましたか?」
冷たい視線を彼に送ると、彼は「ち、違うんだ」と焦った様子ですが、私の太ももに頰をスリスリしています。
全く……立ち直りの早さには感心しますが……。
「フニフニで、あああうう」
「良一さま?」
「す、すまん。ミオ。ポロリがまさかそんな意味だとは……」
それ以外どういう意味があるのか分かりませんが……私はため息をつき良一さんをゴロンと膝から転がすと彼はカエルの潰れたような声を出し畳の上でジタバタしてました。
せっかくきたんです。おいしいごはんを食べてから帰りましょう。ね? 良一さん。
フリーター青木のうまく逝かない異世界生活 うみ @Umi12345
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