第46話  オンボロ耕運機

 俺達が笹林の集草を終えた後の狭い農地で、鳥田さんがハンディタイプの耕運機を前にして、何やら四苦八苦しているようだった。小型の手押しタイプである。

 何をしているのかと覗きこんでみると、どうやら発動機を起動するための紐が根本から切れてしまったらしい。

 何とかして紐の先を引っ張り出そうとしているのだが、奥に引っ込んでしまった紐はなかなか取り出せないようだった。


「鳥田さん、ラジオペンチならありますよ」

 俺はカバンの中に忍ばせているラジオペンチとプラスマイナスのドライバーとカッターナイフを思い出し、困っている鳥田さんにそう申し出た。

 この四品は、何かの時に役立つ便利なアイテムである。そう思っていつもカバンに忍ばせていたのだ。因みに四品とも百均だった。しめて四百円でとてもリーズナブル。日本語では安上がりという。


「えっ、本当に。それがあれば何とかなるかも」

 鳥田さんが喜んだのはいうまでもない。

 俺は車に置いていたカバンの中から四品一式を取りだし鳥田さんに渡した。


「最初から紐が朽ちていて、一回引っ張っただけで切れちゃったんだよ」

 鳥田さんが言い訳をするように俺に説明をする。

「しかしうちの会社もよくこんな古いオンボロ耕運機をリースしましたね」

 どうせ借りるのなら、もっとましなのを借りれば良いのにと俺は思った。

「多分除染での需要が多いので、こんなのしか残っていなかったんだろうな」

 その辺の事情は除染初心者の俺にはよく分からないのだが、ベテランの鳥田さんは諦め顔になっていた。


 鳥田さんは紐の隠れているところの部品をドライバーで外し、ラジオペンチを使って紐を取り出すと切れた反対側の紐に結び付けた。応急処置でしかないが、取り敢えずこれで使えるようになるだろう。


 漸く使用可能となった耕運機だが、鳥田さんの受難はまだ終わらなかった。


 その敷地は、狭いスペースながらも笹竹の根っこがはびこっていて、容易には耕運することができないのである。鳥田さんがいくら耕運しようとしても、小型耕運機が笹竹の根っこに乗り上げてしまうのだった。


 結果、鳥田さんは暴れて乗り上げてしまった耕運機を、再度元に戻しながら力任せに押さえ付けて、耕運をやり直すという作業を繰り返していた。


 時間と手間と根気のいる仕事なのである。

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