第39話 あわや周知会
次の日も同じ現場だった。集草の終わった後にゼオライトや牛糞や化学肥料を撒くのである。
いつもの通り朝礼会場から仮置場を経由して現場へと向かう。
その日は、たまたま浜田さんの運転する移動車に、俺一人だけが乗り込んだ。
二人でおしゃべりをしながら、一般道路から農道に入り込む。農道の突き当たりはティー字路になっていて、その右側の五十メートル程先には約十メートル四方のスペースがあり、そこが駐車スペースになっている。
普通はそこに頭から突っ込んでいくのだが、何故か浜田さんは車の頭を逆方向の左側に向けて止めると、そこからいきなりバックをし始めた。
「ブーン、ガタッ!」
それはあまりにも突然だった。俺は何が起こったのか理解できずにいた。気が付くと車は止まり体は傾いている。
脱輪である。車の右側に約一メートル位の水路があるのだが、その法面に四・五十センチ位の草が生えていて、約二メートル半ある農道との境を分かりにくくしていた。
一メートル位の水路なので、最悪横転する可能性もあったことを考えると、車の右側の二輪だけの脱輪ですんだのは不幸中の幸いと言えるのかも知れない。
『あー、また周知会か……』
俺は頭を抱えてしまった。今回のことは自分が当事者になってしまう。
『バックをするのに、どうして助手席の者が車を降りて誘導をしなかったのだ』
どんなに言い訳をしようとも、必ずそう言って責められるのは目に見えていた。
取り敢えず車を、水路から脱出させなければならない。しかし二人だけではどんなに頑張っても不可能である。
「誰か応援を探してきます」
俺は浜田さんにそう言って走り出した。
暫く進むともう一台の移動車が、農道に入ってくるのが見えた。中には新田さん、橋田さん、斉田さん、坂田さんの四人が乗っている。
「新田さん、済みません。車が脱輪してしまったので助けて下さい」
「おう、どうした」
班長の新田さんは、そう言いながらみんなを引き連れて駆け付けてくれた。
「見事な脱輪だな。みんなちょっと手伝ってやれ」
新田さんの号令でみんなが車をもちあげる。
「浜田、ハンドルを切りながらローでゆっくりと前に進めろ。急発進はするなよ」
新田さんの的確な指示で、車は無事脱出することができた。
車の状態を検分するが、特にキズも見付からず無事なようである。
「お前ら、最初に来たのが俺達で良かったな」
本当に新田さんの言う通り。これが生真面目な綿田さんだったら、大事になっていたかも知れない。
俺は新田さんに感謝した。当事者でありながら、あまり悪びれた様子を見せない浜田さんがどう思ったのかは分からないが。
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